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豊島石(てしまいし)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]


大坂おおさかより五十里、讃州さんしう小豆島せうどしまへんにて、廻環めぐり三里の島山しまやまなり。いへうら、かろうとむら、こう村の三村さんそんあり。いへうら家数いへかず三百けんばかり、かろうと村、こう村はおの/\百七八十けんばかり。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

なかにもかろうとよりいづものすこしかたくして、鳥居とりゐ圡居とゐるいこれもつ造製ざうせいす。さて、このやま他山たのやまにことかはりて、やまおもてより打切うちきり堀取ほりとるにはあらず。たゝ やまあなして金山かなやま坑場しきくちたり。洞口とうこうひらきて、おくふかほりり、敷口しきくち縦横じうわうきりき、十町廿町のみちをなす。

※ 「讃州さんしう」は、讃岐国さぬきのくにのこと。
※ 「いへうら、かろうとむら、こう村」は、豊島てしまにある三つの大字。豊島てしま家浦いえうら豊島てしま唐櫃からと豊島てしま甲生こう

山の表より打切堀取にはあらず
唯山に穴して金山の坑場に似たり


出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

採工げざい松明たいまつてらしぬれば、穴中けつちう真黒まつくろにして、石ともつちともわかちがたく、採工げざいつね人色にんしよく とは異なり、かく堀入ほりいることは如何いかんとなれば、ものこのいしにはかわありて、いたつかたし。

これいま、ねぶかはなづけいだものにて(本ねぶ川は伊豫いよ也)、れ、破取わりとるにまかせず。たゞ幾重いくへにもぎわるのみなり。

※ 「採工げざい」は、採工さいこう( 鉱物などを採取する工夫)の読みに、下財げざい(鉱山の金掘り坑夫のこと)を充てているようです。
※ 「ねぶ川」というと、根府川ねぶかわ石(神奈川県小田原市根府川)が有名ですが、ここでは「本ねぶ川は伊豫いよ也」とあります。調べてみてもよく分かりませんでした。愛媛県今治市の鈍川にぶかわが訛ったものでしょうか(鈍川渓谷・鈍川温泉)。

此石には皮ありて至て硬し

流布るふ豊島石てしまいしは、其石のなり。かゝるがゆへに、かわよけて堀入る事しかり。

中にも、いへうらには、敷穴しきあな七ツあり。されども、一山いつさんえてかへところなれば、器物きぶつ大抵たいてい山中さんちうせいして、になひいだせり。

※ 「流布るふ」は、広く知られていること。

器物の大抵を山中に製して擔出せり


水筒ゐつゝ水走みづはしり火爐くはろ、一ツへついなどのるいにて、格別かくべつおほいなる物はなく、かう村は漁村ぎよそんなれども、石もかろうとのみなみより堀出ほりいだす。

石工せきこうは山下に群居ぐんきよす。たゞし、讃州さんしうやまことごとく此石のみにて、弥谷いやたに善通寺ぜんつうじ大師だいし岩窟いわやも此石にてつくれり。

※ 「弥谷いやたに善通寺ぜんつうじ大師だいし岩窟いわや」は、真言宗善通寺派の寺院 剣五山けんござん千手院せんじゅいん弥谷寺いやだにじ(香川県三豊市)の岩屋に作られている大師堂のことと思われます。
参考:Webサイト 弥谷寺公式HP  四国八十八ヶ所霊場會「剣五山千手院弥谷寺

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

石理いしめは、磊落いしくずのあつまりこりたるごとし。浮石かるいして、石理いしめあらきなり。

ゆへに水盥みづたらいなどにせいしては、みづりてたもつことなし。されども、火にふれては 損壊そんくわい せず。

下野しもつけ宇都宮うつのみやいだせるものこのいしに似て、すこしはなり。

※ 「石理いしめ」は、石理せきり(岩石の組織・構造)に石目いしめ(岩石の裂けやすい方向)の読みを充てています。

石工は山下に群居す

浮石かるいし海中かいちうあはしたるものにて、伊豫いよ薩摩さつま紀州きしう相模さがみさんす。

されば、此山も海中かいちう島山しまやまなれば、開闢かいびやく 以後いごしほこりたるものともうたがはれはべる。

※ 「開闢かいびやく」は、天地創造、世のはじまりのこと。


塩飽しあくも、もしく塩泡しほあわてんじたるにか。

塩飽しあくいしは、御留山おとめやまとなりて、いま それなづくるものおゝく、貝附かいつきせうす。これそのへん礒石いそいしにて、石理いしめ 粹米こゞめのごとくにて、しやうかたし。

飛石とびいし水鉢みづはち捨石すていしとうもちひて、はやこけふるをせんとす。

礒石いそいしなみ穿うがたれて、ゆがみ くぼみ異形いぎやう珎重ちんてうす。

※ 「塩飽しあく」は、瀬戸内海、備讃びさん瀬戸にある島群の名前。塩飽諸島。
※ 「御留山おとめやま」は、江戸時代、林産物や動物を取ることを禁止された山のこと。
※ 「 粹米こゞめ」は、粉米こごめ。精米するときに砕けた米のこと。
※ 「しやう」は、質に しょうの読みを充てていると思われます。
※ 「珎重ちんてう」は、珍重ちんちょう



筆者注 ●は解読できなかった文字、■は該当漢字が見つからなかったものを意味しています。
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