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三十路だってケアされたい

 とある主婦が、子育てで鬱々とし、癒やしを求め徘徊する冒険奇譚。

 午後2時。
 今日も粛々と娘を寝かしつけ布団に下ろそうとしたところ、ミスをした。どうも私が変な体勢で抱えてしまったらしく、唾液を飲みはめて激しく咳き込む娘。スマンスマンと落ち着けるも、覆水盆に返らず。

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 ぱっちり覚醒した娘。
 睡眠時間、約20分。いつもなら1時間半。
 再度、寝かしつけようと頑張る私。
 指をしゃぶる娘。

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 20分後。

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 寝かしつけられた私。
 活きの良さを取り戻した娘。

 眠い。
 寝てほしい。
 私の午後の一息タイムを逃したくない。

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 可愛いあんよを眺めながら、お菓子を食べてパソコンを触りたい。

 タラタラの未練を断ち切れず、ソファで白目をむき続ける私。
 しつこい母の抱っこにしびれを切らして、逃走する娘。

 分かっている。
 おそらく、もう娘の再入眠は不可能だ。
 そう分かっていながらも、眠いのもあいまって気持ちが切り替えられない。
 ズルズルと、気を失っては目覚め、娘を確認する。

 時々私のところへ来ては、頭を撫でたりモノをくれたりする娘。私と目が合い、ウフウフと笑う。けなげ。

 それでも、気持ちを切り替えられない私。
 娘が、ソファから動かない私の足元におもちゃを投げ入れるので、足でそれを持ち上げて娘に返す。きゃっきゃと喜ぶ娘。あまりのだらしなさに罪悪感をおぼえる私。
 しばらくそれを続けていると、ごん!と足に衝撃。おもちゃがくるぶしにヒットした。「痛い!」と声を出す私。しょぼんとする娘。

 あー。もう嫌だ。
 前にも後ろにも、右にも左にも進みたくない。
 ソファから動きたくない。
 動いたほうが良いんだろうな。でも嫌だ。
 私はそのまま、ソファでいじけ虫となった。

 午後4時をむかえ、愛する夫が在宅ワークを終え帰還する。
 娘が夫に保護されたのを確認して、即、寝落ちる私。
 とぎれとぎれに、夫が洗濯物を片付けてくれているのが見えた。

 約30分後に、覚醒。
 それでも私は、ソファで丸まって憮然とする。
 分かっている。子どもっぽすぎるのは分かっているけれど、私は洗濯物と娘の次に並んで、夫に構って貰えるのを待っていた。

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「眠い?大丈夫?」
声を掛けてくれる夫。面倒くさいと思われているのでは、という被害妄想が頭をよぎるが、気にしない。
 泣く。

 「切り替えられなかった」と泣く、おかっぱ赤髪。31歳。
 夫だけでなく、娘まで寄ってきてくれた。
 ソファの上でいじけ虫と化した、矮小な私を2人が覗き込む。

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 泣き顔を覆った私の手を引っ剥がすだけ引っ剥がして、立ち去る娘。ごめんね。
「今からでもお外にリフレッシュしに行く?お風呂は僕がワンオペしとくよ」と言ってくれる、夫という名のゴッド。

 構って貰えて、いじけ虫から人間に戻っていく私。
「そうだ、散歩がてら #1000円で元気になれるモノ を探しに行こう」と、いそいそと出掛ける準備を始めた。

 娘と夫が風呂から出るまでの、自由時間およそ40分。
 無駄に分厚く着込んで、短い赤髪にメガネとマスクという、変質者もちびって逃げ出すような装いで家を出る。
 まずは、コンビになった覚えのないコンビニ、ファミリーマートへ。

 物色しながら悩む。
 元気がない時って、何があったら元気が出るんだろう。
 まずはお菓子。お菓子は絶対に買う。
 それ以外には?
 非日常っぽくて、頭のストレッチになって、気分が変わりそうなやつ。
 うーん、と悩みながら、1000円くらいのお買い物を済ませる。

 収穫物はこちら。

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 しめて、1026円。

 非日常っぽくて、頭のストレッチになって、気分が変わりそうなやつ。
 そう、それはエロでした。
 勉強に疲れて、頭をリフレッシュさせるために敢えてエロいことを考える、なんて、みんなやってる常識ですよね。

 というわけで今日は、今まで見たことも買ったこともないプレイボーイに、疲れた心を癒やしてもらうことに決めました。どんなにエロいんだろう。想像に胸が膨らむ。
 そして、その買い物袋をさげたまま、近所の公園へと向かった。

 もう陽も暮れかかっているので、さすがに人も少ない。
 みんな晩ごはんの準備をしている頃だ。
 それでも、少年少女たちの無垢な空間に、変質者の格好でプレイボーイを持って立ち入るということに、言いようのない後ろめたさを感じた。

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 うっすら透けるプレイボーイ。
 うっすら透けるプレイボーイを持つ、おかっぱ赤髪。31歳。
「ママー!あの人、どうしてムッツリババアなのにプレイボーイを買ってるの?」
「しっ。見ちゃだめ!」
 今にもそんな会話が聞こえてきそう。

 そんな風にどきどきしながら歩いていたら、

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 少年少女たちの痕跡を見つけた。
 後ろめたさがより一層強くなる。
 りんごを囓ってしまったアダムとイブも、こんな気持ちだったのだろうな。


 どうせ一服する時間もないし、と、足早に目的地を目指す。
 目的地は、そう、公園内の神社。

 特に知識が豊富なわけでもないけど、神社が好きな私。
 最寄りの神社を勝手に氏神様と決めて、結構まめに通っているのだった。

 だから、今日も参拝してお礼を言いに行こう。プレイボーイ持ってるけど。果たして、こんな不埒な私を神様は許してくださるだろうか。

 一抹の不安を抱えながらも、いつもどおり鳥居で一礼して入る。我ながら礼儀正しい。プレイボーイ持ってるけど。

 ごめんなさい。プレイボーイ持って境内に入ってごめんなさい。
 えっ、なんですか?そういうプレイを楽しむなって?
 まさか、めっそうもございません。
 そういうプレイボーイではございません。

 神様に不敬な気がするから、マスクを除けた。「マスク以上にプレイボーイの方が不敬なのでは」などという、まっとうすぎる心の声は気にしない。
 ガランガラン。二礼二拍手して、手を合わせる。

 プレイボーイ持って失礼します。
 いつもありがとうございます。
 これからも、どうぞよろしくお願いします。
 プレイボーイは拾得物です。私のものではありません。

 一礼して、神社をあとにする。
 もう時間がない。
 プレイボーイを隠すように持って、帰路につく。

 家では、夫と娘が風呂に入っていた。
 私は、思春期男子よろしく書斎にプレイボーイを隠した。
 娘に見せるわけにはいかない。
 娘が寝静まってから。大人の時間は、それからだ。
 待ってろよプレイボーイ。
 綴じられたその身体、ひん剥いてやるぜ。


 かくして夜。
 うきうきで中身のチェックに取り掛かる私。

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 どれどれ。おじさんに見せてごらん。
 ふむ。
 えなこはありのまま…ではないけど、可愛いセクシーですな。
 ふむふむ。

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 …ん。
 なんだこの、頭に入ってこない日本語は。
 Don't baby me ! (私を赤ちゃん扱いしないで)の訳でもない。
 おそらくは

「目をそらすと、その瞬間に(赤ちゃんに)変わっちゃいそうなベイビー!」

を、字数の関係か何かで短縮したのだろうが、だとしても理解不能だ。「Aに変わりそうなA」という、禅問答のような構造。

 もちろん、私の補足が間違っている可能性だってある。しかし、

・目をそらすと、その瞬間に(松本人志に)変わっちゃいそうなベイビー!
・目をそらすと、その瞬間に(ものすごいドSに)変わっちゃいそうなベイビー!
・目をそらすと、その瞬間に(夢の中で入れ)変わっちゃいそうなベイビー!
・目をそらすと、その瞬間に(毛深い男に)変わっちゃいそうなベイビー!

 しっくりくるものがなくて、いよいよ沼に沈みそう。

 私は考えるのを辞めた。
 誰か、正解が分かる人がいたら教えてください。

 消費されるつもりの文章とは、きっとこういうものを指すのだろう。もちろん、人のことを言えた義理じゃないけどね。
 でも、それはそれで面白い文化(ギャル系雑誌のキャッチコピー、一時期流行りましたよね)を産んだりするのだから、不思議なものだ。


 序盤で大いに躓いたので、あとは流し読みをする。
 ていうか、袋とじとやらを初体験出来るかと思ったのに、そんなもの無かった。なんだい。おばちゃんにも袋とじしてくれたっていいじゃないか。なんだいなんだい。

 プレイボーイが、袋とじを擁する雑誌ではないのだろうか。はたまた袋とじとは、不定期に開催される祭りみたいなものなのなのだろうか。
 謎だ。男性誌の森は奥深い。

 袋とじのない、けちんぼなプレイボーイさんは、安倍政権について論じたり、ピッチングの弾道の話をしたりしながら、後半に向かってギアをあげていく。耳の構造を踏まえた耳掃除についてのコラムや、天津飯研究、そして母乳でしか興奮出来ない男とリリー・フランキーの対談。ラストにもグラビアがあって、冒頭のそれよりも過激だった。

 一通り目を通した結果、私としてはあまりピンとくるコンテンツに出会えなかった。というか、あまりにも内容が雑多なので、思わず私は「週刊誌のターゲット層」をググっていた。シニアだそうだ。

 プレイボーイのエロさに癒やしを期待して買ったものの、私はターゲットではなかったらしい。ピンと来ないのも当たり前だ。特に、母乳男。母乳の苦労を経験した私が読んでも、何の収穫もなかった。それも、当たり前だ。


 むしろ、

 ”250%パウダアアアアアア!!!!”

 のハッピーターンのほうが、よほど私を癒やしてくれた。

 さすが、魔法の粉。美味しすぎて、
「ハッピイイイイイイイイイ!!!!!」
 と叫ぶところだった。セーフ。こんな深夜にそんなアッパーなこと叫んで警察でも呼ばれたら、逮捕されてしまう。なんせ机の上には、刑法スレスレアウトのハッピーターンの粉が散らばっているのだから。


 それに、まだ私は癒やされたかった。
 もっと癒やされたい。消化不良も甚だしい。
 このまま寝るわけにはいかない。

 というわけで、

 久しぶりに、ねっとりロシアお姉さんの囁きと鼻息をイヤフォンで聴くことにした。

 そうです、これは、時々話題になる ASMR というやつです。
 私は、割と初期からの ASMRer で、基本的にこのお姉さんの動画を視聴している。
 夫と遠距離恋愛中だったころ、毎晩のようにお世話になっていたお姉さん。お久しぶりです。最近はメッシュ入れてるんですね。お似合いです。今夜もよろしくお願いします。

 ASMR は、変態的な意味だけではなく、ケアされる感覚が幸福感を生む。未経験の方は、一度お試しあれ。いい感じに眠れます。

 というわけで、本日の私を癒やしたのは、プレイボーイではなく、ハッピータアアアアアアン!!!!!と、ねっとりロシアお姉さんでした。

 プレイボーイじゃなくって、二面性ありすぎボーイだったら、もっと癒やされたかもしんない。
 

 元気になれるモノとしては、今日の検証の結果プレイボーイOUT のねっとりロシアお姉さんIN だから、実質500円くらいになっちゃった。

 仕方ない。結局、「いつものコンテンツ」が最強だもん。


いつもありがとうのかたも、はじめましてのかたも、お読みいただきありがとうございます。 数多の情報の中で、大切な時間を割いて読んでくださったこと、とてもとても嬉しいです。 あなたの今日が良い日でありますように!!