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【感想】「孤島の鬼」にハマった私が各種コミカライズを読み比べてみた。

 電子書籍として買える「孤島の鬼」コミカライズ各種を読みました。
 原作のあらすじや感想は下記に書いてあるので省略します。

ARIAコミックス版

原作再現度:★★★
蓑浦小悪魔度:★★
諸戸不憫度:★★★★★

 最初に読んだコミカライズ。全三巻だけあって原作の筋書きをかなり忠実に追っているのですが、人体改造絡みの設定をまるっと変更しているので原作再現度は低めの評価です。

 孤島で行われていたのは不具者製造ではなく不死の(人間)殺人兵器の研究、秀ちゃん吉っちゃんは人造の結合双生児ではなく鉄の枷でくっつけただけ、ってのは流石に無理がありすぎるというか丈五郎の復讐心は表沙汰になってる分野望の方がなんか中途半端に感じるんですよね……。

 多少のオリジナル展開はあれどメインの筋は分量的なものもあってか一番原作に近いので、恐らく大人の事情で同性愛要素に並ぶ物語のキモである人体改造要素が消されたのは残念。

 余談ですが上記の理由で丈五郎もお高も不具者ではなく、お高に至っては結構な美熟女なので少年諸戸への虐待シーンが他よりマイルドです。つか丈五郎がお高と結婚する理由が何も無い。

 蓑浦と初代さん・秀ちゃんとの恋愛に関しては省略が無く非常に丁寧。しかも蓑浦が諸戸に秀ちゃんについて話すシーンが追加されています。本作の蓑浦は諸戸の恋愛感情や自身の自己愛的な面に関する独白が少ないので、この追加要素も相まって小悪魔というより単純に諸戸に対して無神経という印象。

 諸戸は蓑浦が初代さんや秀ちゃんの名前を出したり蓑浦が秀ちゃんと抱き合ったりする度に苦悶の表情を浮かべてくれます。秀ちゃん達は鉄枷でくっついていたので諸戸が分離手術したわけでは無さそうですが、しっかり蓑浦&秀ちゃんの結婚式に呼ばれる始末。諸戸かわいそう。

 そして本作では諸戸が蓑浦への敵わぬ恋を「生き地獄」と表現、もう諸戸不憫度は天元突破状態。原作では蓑浦が豹変した諸戸に襲われる回を「生地獄」とし、実際蓑浦は諸戸の豹変を生地獄と言ってるので真逆の解釈ですな。でも凄く解るよ諸戸。

 白髪化ですが地下洞窟を出た直後に初めて(絵面的に)真っ白になるので唐突感が否めませんが、諸戸の表情から原因は諸戸が蓑浦を襲った事だと察せられるようになってます。でもこの諸戸、蓑浦を押し倒しただけでそれ以上の事は殆どできてないんだよな……。ほんとかわいそう。

 本作は原作における後日談を改変し、里帰りする諸戸と見送りに来た蓑浦との会話シーンにしていますが、ここで諸戸が蓑浦に渾身の恨み節をぶつけてくれます。すぐに冗談だと誤魔化しますが、ここで初音館時代の回想がオーバーラップして蓑浦は諸戸の言葉が本心だと気付く仕組み。正直原作読んでると「鬼! 悪魔! 蓑浦!」と思うところなので私は多いに溜飲が下がりました。

BE×BOY COMICS DELUXE版

原作再現度:★★★★
蓑浦小悪魔度:★
諸戸不憫度:★★

 レーベルが堂々のBLなので表紙が凄く肌色。構図は結合双生児を思わせるうえに蓑浦が秀ちゃん側っすね。口絵(最終話の扉絵の流用)も思いっ切り裸です。

 深山木もテライケメン、洞窟のシーンでもキスに成功する(読んでて思わず外人四コマラストの状態になった)などBLレーベルであることを見せつけてくれますが、一方で不具者や人体改造のビジュアルもコミカライズで一番気合いが入っており、中でもお高は屈指の気持ち悪さです。特に涙目が犯罪的なまでに可愛らしい着物ショタ諸戸が虐待されるシーンはほんと惨すぎる。

 一巻完結なので話はサクサク進み、大きな設定改変も無いので丈五郎の犯罪の動機も原作通りです。ただし洞窟で諸戸が蓑浦を襲ってる真っ最中という超絶居たたまれないタイミングで徳さんが登場(原作では近づいてくる徳さんの呼吸音に気づいて止めている)、その後脱出に至るまでがスパっとカットされてしまうため蓑浦の総白髪化と諸戸との関連は描かれません。BL的には凄く重要だろうに……残念。

 他にも蓑浦と秀ちゃんとの出会いから諸戸が捕らえられるまでの間もバッサリ省略。諸戸が土蔵にいるのが唐突すぎてびっくりしました。よって原作再現度は少しだけ評価を落としました。

 さて蓑浦小悪魔度ですが……原作含めてこれまで読んだ中で一番低いです。BLレーベルなのに。
――否、BLレーベルだからこそなのか恋愛感情絡みの反応がちょっとした頬染めや表情の変化で表現されつくしてしまう為、蓑浦の自己愛的な独白がほぼゼロになっているのです。

 しかもARIAコミックス版と異なり蓑浦と秀ちゃんの恋愛に関するに追加要素も無いので諸戸に対する無神経さも感じません。しかも最終シーンで諸戸に対して「今まで苦しんで生きてきた分幸せになってほしい」と思ったりするので、これは相当に思いやりのあるタイプの蓑浦です。諸戸が世を去ったのは自分がいるからこそだと考えるほどですしね。
 ただし洞窟での拒絶反応は一番辛辣。

 蓑浦が小悪魔でないため相対的に諸戸不憫度は低くなります。まぁ本作の諸戸は初代殺しを疑われても動じてないっぽいあたりメンタル強度もわりと高そうなんですが。

 蓑浦が訃報を開く前に背後から抱きしめてくる諸戸の幻を視る(そういや本作ではやたら諸戸は蓑浦の背後から耳元に唇を寄せている)あたり、案外死に際は目に涙を浮かべつつも安らかだったのではないかと思わされます。手紙を抱きしめ横たわる諸戸の絵は美しい。

BUNKASHAコミックス版

原作再現度:★★★★★
蓑浦小悪魔度:★★★★★
諸戸不憫度:★★★

 こちらも一巻完結ですが台詞と独白量が凄まじく、端折った感じはありません。不具者関連の設定改変も無いので総合的に一番原作寄りのコミカライズだと思います。

 ビジュアル面については文字で画面が埋まりがちですが写真加工した背景とか凄く独特の雰囲気。
 丈五郎は個人的に一番悪役としてしっくりくる見た目なんですが時折正面顔どアップが挟まってくるのが妙にインパクトあります。
 お高のビジュアルはBE×BOY版に負けず劣らず気持ち悪い(虐待シーンが朧げなのが救い)。
 人体改造絡みは結合双生児以外黒塗りされてるのでBE×BOY版よりショック度薄め。あ、動物実験に関しては両方ともハッキリ描いてなかったな……動物の方がコンプラ的に駄目なのか……?

 初代さんは女学生めいた袴姿、秀ちゃんは少女漫画のような美少女で二人とも可愛いです。吉っちゃんもちゃんと毛が生えてる(原作でも生えてるんですが何故かコミカライズでは50パーセントの確率でハゲている)。あと深山木のビジュアルがクッソ好みです。好き(次点詰め襟諸戸)。上京した諸戸の世話をした松山も何で丈五郎と上手くやってけるんだよと言いたくなるイケオジでした。

 本作では諸戸が蓑浦から初代さんの話をされた時の悲しみを涙目で訴えてますし(BE×BOY版だとわりと平気そう、ARIAコミックス版だと無表情コワイ)、おとしさんの見張りを買って出る秀ちゃんとお礼を言う蓑浦の追加シーンでも諸戸はしっかりと青ざめてます。

 また蓑浦の白髪化については例の洞窟のシーンで諸戸にキスされた蓑浦の髪が白くなっていく演出があり、洞窟を出た諸戸は切なげな笑みを浮かべます。これは因果関係が明確だし諸戸も間違いなく悟ってますね。一方で後日談は大幅な改変無しのほぼ文章。

 総じて諸戸は蓑浦の挙動で心を抉られていると言えますが、ARIAコミックス版ほど不憫かと言われると後述の理由で判断難しいんですよね……。

――んで、本作はエピソードの順番が入れ替えられており、初代さんとの恋愛より前に初音館時代の回想が入るんですが、蓑浦の独白を書き言葉から話し言葉に変えるだけであれほど小悪魔度が上がるとは……! 初手から美少年と明記されてる通り本作の蓑浦は睫毛バシバシの作中一の美人、そして初音館時代は仕草が妙に色っぽい。ホーとか言ってるモブ学生ズ(さりげなく自分のお気に入り)の気持ち解るわぁ。そんな蓑浦が「ふふ」とか漏らしたり「やや胸をときめかし」たりする。原作と違って終始諸戸を「道雄さん」と呼ぶのが小悪魔度を更に上げています。

 回想終了後は指輪の相談するついでに初代さんの魅力を語ろうとする程度しか諸戸に対する目立つ無神経行動は無いんですが、初代さんとの恋愛を打ち明けようと考える時に「…道雄さん傷つくかしら……」って考えるのは「コイツ解ってやがるな」ポイントが高いです。これシーン順を変更したからこその追加要素だし。

 とにかく冒頭に持ってきた初音館回想のインパクトが強烈なんですよね。そして私のお気に入りモブどもが「諸戸と蓑浦は変だ!」と噂話をするのを聞いた蓑浦が「変…?」と訝る改変が後々になって重要になるとは……。

 と言うのも本作は洞窟のシーンが一番の改変ポイントなんですが、ここで蓑浦は諸戸から逃げる最中に初音館時代を思い出し、当時諸戸を拒絶したのは「だってそれは…変なことだから」と独白したうえで自分が諸戸をどう思っているか自問自答するのです。答えは出ませんがこの一連の流れ、心情的には蓑浦は完全に諸戸に絆されてるとしか思えないんですよ。多分噂話を聞かなかったらこの蓑浦は諸戸と付き合っていたんじゃないでしょうか。

 そして白髪化も純粋に怖かったからで、原作のような生理的嫌悪感があったとも思えない。諸戸がもうちょっと穏便に(?)コトを進めれば蓑浦に愛を受けて貰えたんじゃ……? なので本作の諸戸がどのぐらい不憫なのかは判断が難しいところです。

江戸川乱歩異人館版

原作再現度:★
蓑浦小悪魔度:★
諸戸不憫度:★★★★

 深山木と仲の良い諸戸、解釈違いです。

――なんてぶち上げましたが、本作の「孤島の鬼」のエピソードは原作と別物と考えた方が良いです。この漫画じたい、各エピソードは江戸川乱歩(イケメン)と明智小五郎が実際に遭遇した事件(一部例外あり)で、乱歩はそれらを小説にアレンジして発表しているという設定だからです。

 よって本作では原作前半の殺人事件パートは深山木の死以外端折られてますし、その死因も短刀で一突きではなくメスで滅多刺しかつ実行犯は最後まで出てきません。樋口家は最初から諸戸家となっており初代さんも秀ちゃんも諸戸家とは一切関係無し。系図帳も恐らく深山木(明智小五郎の友人という設定)が島からパクってきたもの。

 つかたばこ屋の娘の初代さんに好意を寄せていたのを「そんな昔のこと」と流す蓑浦が一番の解釈違いかもしれない(笑) これほどまでに無関係なのにエピソードのラストで丈五郎グループに殺害されてた事が判明する初代さん……正直唐突すぎて訳分からなかったよ……一切登場しないんだからいっそ名前すら出さない方が良かったんじゃ……いや乱歩がアレンジするには必要か……。

 もう一人のヒロイン・秀ちゃんも日記以外は「異形代表」「蓑浦が捕まるきっかけ」ぐらいの役割です。蓑浦はしっかり惚れてはいそうなんですが。原作では切断後が分からない吉っちゃんが幸せな人生を送っていると明言されてるのは良いですね。

 不具者関連はARIAコミックス版と同じく軍事利用が改造の目的です。ただし丈五郎とお高はしっかり異形。私はこの版の丈五郎が一番気持ち悪いと思います。やっぱり正面顔アップあるし。丈五郎は別に世の中に対する復讐心は持っていない(でも異人のユートピアは作ろうとする)のでARIAコミックス版より改変された動機が明瞭ですね。どうやらお高も改造手術に参加してるので、彼女と結婚したのは技術力目当てでしょう。

 これ以上ストーリー面での原作との違いをあげてもキリが無いのでビジュアル面に移りますが、本作はこのエピソード以外でもエログロ描写は凄いです。お高の虐待シーンが長くておぞましいよう……短パンショタ諸戸がクッソ可愛いから余計にきつい……。

 蓑浦と秀ちゃんは分かりやすく本作の「美形枠」顔。諸戸も原作設定で美青年なのでちゃんと美形です。深山木は「被害者枠」顔だな……。

 先述の通り初代さんは未登場で蓑浦と秀ちゃんの絡みも少ないので、蓑浦の小悪魔度は最低値です。銭湯シーンはしっかりありますが第三者視点なのでマジで諸戸に想われてることをちっとも気にしてない感じになってるし。噂にもなってないのは設定改変で深山木も初音館仲間になってるからかなぁ。あ、改変によって蓑浦と諸戸は年が近いことになってるので蓑浦は諸戸を「諸戸くん」呼びしてます。

 蓑浦は諸戸の恋愛感情をなんとも思ってなさそうですが、諸戸から手を捕まれた場合は握り返しません。でも一度自分から諸戸の手を握ってます。どういうことだってばよ。

 色々改変されてる本作ですが、洞窟の例のシーンにおける諸戸の狂気は凄い迫力です。モノローグこそ第三者視点ですが一番原作に近い「生き地獄」なんじゃないでしょうか。抵抗する気力を喪った蓑浦――これ諸戸にヤられてるな? 未遂ではないな? その前に蓑浦は蛭に襲われた夢見てますが、ここで諸戸に寝込みを襲われてる可能性は大いにありますね……。

 原作では徳さん登場で諸戸はストップしますが、本作は財宝の光に気づいてストップします。財宝の光で蓑浦の白髪化が発覚、モノローグでも原因は諸戸に襲われた事だと示唆してます。ここで諸戸は蓑浦に謝罪し、悪業の血を絶やすために丈五郎を討って自分も死んでしまいます。明確に描かれてはいませんが多分自決? 何しろ徳さんがいないので諸戸は自分が丈五郎の実子ではない事を最後まで知らないのです。本作の諸戸は蓑浦関連の嫉妬に苛まれることはありませんでしたが、因果に絡め取られたままだったので不憫度を高めに評価しました。

総評

 こうして比較するとどれも一長一短、特色が違っていて面白いですね。

ARIA版:原作未読ではお勧めしない
BE×BOY版:原作未読でも読めるが後からでも原作読んだ方がいい
BUNKASHA版:原作未読でもお勧めするが原作読んだ時に蓑浦の解釈で事故る可能性がある
江戸川乱歩異人館:作品の大前提を把握しておくこと、原作との読み比べを積極的に推奨

 個人的にはARIAコミックス版に設定改変さえ無かったら……と思います。原作読破時点で諸戸寄り・蓑浦こんにゃろう派には最高にお勧めなんですが、人体改造絡みの改変を受け入れられるか否かが賭けとしてデカすぎる。

 江戸川乱歩異人館は「乱歩の小説の元ネタという設定の漫画」という点を頭に叩き込んおけば原作との違い探しで大いに楽しめます。わりと原作に近いのもあるんですけどね。

 孤島の鬼を読むきっかけとなった「マチネとソワレ」ですが最新の9巻で劇中劇が完結しなかったので 本記事での言及は避けました。原作を読んでいるときに感じた疑問点が次々と上がってくるうえ、劇中劇で「この漫画が導き出した答え」が提示されるので凄く面白いんですが、一番知りたかった蓑浦の解釈直前で9巻が終わってるため10巻が出るまで悶え苦しみ続けるしかない……多分雑誌の最新号掲載ぶんはそこ通り過ぎてるだろうし……。

 あとは舞台の映像ですね。

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