見出し画像

好きなものをただ好きでいることを阻む障壁

こんにちは。
普段は大学でジェンダー・セクシュアリティ研究を専攻しながら、チルいジェンダートークというポッドキャスト番組の企画・出演をしている者です。

チルジェンダー経由でこの記事を読んでくださっている方は、りんごという名で私のことをすでに知ってくださっているかもしれませんね。いつもありがとうございます😁
チルジェンダー運営のnoteアカウントもあるのですが、こちらでは私がとりとめもなく考えたことをふわっと書いて共有しようと思っています。ジェンダーやセクシュアリティに関連した内容が多くなると思いますが、ただの日記みたいになる日もあるだろうし、好きなものについてただ話すだけの日もあると思います。よろしければフォローしてみてください🌞


さて、ラジオ内でもちょくちょく話していますが、私は生粋のオタクとしてこれまで生きてきました。
渡り歩いたジャンルは数しれず…というのは言い過ぎだけど、特撮やアイドル、アニメに大河ドラマなどなど、様々なジャンルに手を出してきました。

その中で私が今一番熱を注いでいるのが、刀剣乱舞です。
ご存知の方も多いと思いますが、刀の付喪神であるキャラクターが登場するゲームで、それを元にしたメディアミックス作品群もたくさんあります。
毎日、膨大な派生作品を持つ刀剣乱舞の情報を追うためにTwitterを見ている私ですが、最近「好きなものをただ好きでいたいだけなのに、なぜ差別構造のせいでこんなに苦しまなくてはいけないんだ?」と思ったことがあるので、書いてみます。

※この記事の意図は、刀剣乱舞という作品やコンテンツを批判するものではなく、好きなものをただ好きでいたいだけなのに、それを阻むようなマイクロアグレッションや多様性への無理解がいかに社会に溢れているのかを共有することです。大好きな刀剣乱舞が、誰かを苦しめるものであってほしくないと、心から思います。

まず、基本情報として、刀剣乱舞は女性ファンが多いジャンルです。悲しいかな異性愛を前提とする社会において、男性キャラクターがメインの作品のほとんどが女性をターゲットにしているだろうと思いますが、一応裏付けるために調べてみた感じでも、アプリをプレイしているのは女性がほとんどみたいです。
そして、刀剣乱舞は他のジャンルにはあまりない、ちょっと特殊な推し方がメインストリームとして存在しています。
先程書いたとおり、刀剣乱舞のキャラクターたちには、それぞれのインスパイア元となった現存する/かつて存在した/実際の逸話で語られる刀があるわけです。多くのファンたちが、好きなキャラクターの歴史や息吹を感じようと、その実在の刀を鑑賞しにいきます。もちろん全員のファンがそういうわけではありません。多様な推し方があります。
私も、好きな刀剣男士の元となった刀を見るために旅行に行ったり、博物館に行ったりと充実のオタク生活を送っています。

で、ここからが今回書きたかったこと。
みなさんは、刀剣を所蔵しているのはどんなところだと思いますか?
いちばんイメージしやすいのは博物館や美術館かと思いますが、実は寺や神社にも結構所蔵されています。寺社に縁のある人物が所有していた刀や刀の写し(実際の刀を模して作られた刀)を所蔵していたりするわけです。刀そのものを祀っているところもあるかもしれませんね。
それ自体にはもちろんなんら問題はないのですが、私が気になったのは寺社、特に神社の"性質"についてです。
日本にある神社のほとんどが、神道政治連盟という組織に所属しています。詳しい説明を以下に引用します。

全国各地の多くの神社が加盟している神社本庁による政治組織、神道政治連盟は262人もの国会議員が加盟している巨大な政治勢力です。この神道政治連盟は夫婦別姓や同性婚に反対の立場をとり「選択的夫婦別姓ってほんとうに必要なの?―答えは「ノー」です!」という冊子や「日本で同性婚を合法化すればさまざまな社会的影響を必ず及ぼします」「同性愛は環境によって影響され生じたものであり、世界には回復セラピーや信仰的体験、あるいは自然に同性愛から離脱できた元同性愛者が多く存在しています」などと書かれた発行物を作っています。このような発行物は2021年6月に自民党議員の勉強会で配られたことでも批判が大きく寄せられました。

どこなら、私たちの祈りを聞いてもらえますか?

はい。私が言いたかった問題点が、もうみなさんにも一目瞭然だと思います。
多くの神社が、性の多様性を認めず、あろうことかそれを異常な状態であると考えたり、社会を乱す要素になると考えているらしいのです。
ですが、たくさんの神社がこんなやばい思想を持っていることなど知らずに、刀を見たいファンたちは神社へ赴きます。私自身、好きなキャラクターのモチーフとなった刀を見るために何度も神社に足を運んでいます。
神社にいけば、参拝をしたくなりますよね。重要な文化財である刀を大切にしてくださってありがとうございます、見させてくれてありがとうございます、の気持ちを込めてお賽銭を投じることもあるはず。
さらには、こうした刀剣乱舞の登場キャラクターのモチーフになった刀を持つ神社では、さりげなくそのキャラクターのデザインや色を取り入れたお守りや絵馬なんかを発売していることも多々あります。
このようにして、私たちはただ好きな作品を応援しているだけで、知らずのうちに同性婚反対や選択的夫婦別姓反対を後押しすることになっているかもしれないのです。

私もつい最近まで、深く考えずにオタ活として神社に行き、お守りを買ったりお参りをしたりしていました。
もちろん、こうした神道政治連盟の考えを知っていて、それを問題と思わずお金を落とすファンもいるかもしれませんが、クィアな社会を目指す人にとって、この事実はかなりショッキングなものだと思います。
自分のお金が、LGBTQ+を差別する団体を支える資金になっているかもしれない…と考えるだけで、おぞましくて鳥肌が立ちます。

しかも、もっときついのが、刀剣乱舞自体が公式として神社とコラボをすることがあるということです。
こうしたコラボは、地方への観光促進や文化財保護の観点から利点も多くあるのですが、もしも刀剣乱舞というコンテンツを運営している人たちが、神道政治連盟の考えを知っていて、それを問題と思わずにファンを呼び寄せているのだとしたら。
あまりに地獄です。
もちろん、「刀剣乱舞が神社とコラボしている=刀剣乱舞公式は性の多様性に反対している」と言い切ることはできませんし、そんなつもりもありません。神道政治連盟に加入していない神社だってあるわけですし。
でも、刀剣乱舞が大好きで、応援している身からすれば大問題です。

神道政治連盟は選択的夫婦別姓に反対しています。選択的夫婦別姓を嫌がるということは、女性に何がなんでも男性の名字に変えさせたいということ。
つまり、女性蔑視的な考えを持っている組織であるとも考えられる。
そして刀剣乱舞は、女性ファンが多いジャンルです。
女性の選択権に反対する組織を、何も知らずに応援することになってしまう女性ファン……そんな構図が見えてきて、私は頭を抱えてしまうのです。

例え運営さんが無自覚であったとしても、多少はこうした側面があるのは事実かな…と思います。
ここでの問題は、好きな作品の内容やクオリティとまったく関係のないところで差別が黙認されていることから受ける影響の大きさなので、刀剣乱舞がやばいコンテンツだ!!とは思いませんが、今後は刀を見に行く前にその神社が神道政治連盟に加入しているのかどうかを自分で確認したりと、できることをしながら、好きなことと自分の譲れない価値観との両立をしていこうと思っています。
神社が誰にとっても安心できて、すべての人に寄り添う場所であったなら、こんな思いはしなくて済むのに、と恨めしく思います。


実は刀剣乱舞についてもや〜っとすることはこれだけではないんです。
言わずもがな刀の歴史や文化と強く結びついたコンテンツである刀剣乱舞。
このコンテンツ自体が、日本刀の伝統を守ることを応援する立場を取っています。それは全く問題ないですし、私も文化を守ることの大切さは感じています。
ただ、刀を作る刀鍛冶は、ほとんど男性です。全日本刀匠会のホームページに、女性が刀鍛冶になれるかどうかというQ&Aが載っていたので、引用します。

女性が制度的に刀鍛冶になれないわけではありません。ただし、体力的にも大変厳しく、火傷などの怪我がある事、施設の問題などがあり、女性を弟子として受け入れてくれる刀鍛冶は、皆無といっても過言ではありません。残念ながら非常に難しいと思います。

全日本刀匠会

うーん。すごくジェンダーステレオタイプに満ちている回答ですね。
体力差は、たしかにあります。ですがそれは男性がスポーツに触れる機会が多く、日頃の生活の中で運動を習慣的にするようになる男性が多いという社会観念のなかで形成されるもので、平均値では男性のほうが体力(そもそも体力って曖昧な言葉ですね)があっても、個人で比べれば男性より体力のある女性はたくさんいます。男性の方が体力ある、という見方が偏ったものであるということについて書かれた記事をいくつか見つけたので、文末に貼っておきますね。
火傷をしやすいから女性はやめたほうがいいかもって意見も、一見女性のために言っているように見えて、女性は傷や怪我をしたらいけなくて男性はしてもいい存在なんだというステレオタイプに拠っています。

回答への愚痴はこれくらいにして、私が何にもやもやしているのかというと、こうした非常に男性中心の文化や場を、女性がこぞって応援する構図は、ひょっとしてとても危険なんじゃ?ということです。
これは何も刀剣乱舞に限ったことではなく、様々なコンテンツに言えることだと思います。
ファンはただ、キャラクターや作品を応援したくて、コンテンツを応援します。でも、その行動が自らを回り回って苦しめることに繋がっていたとしたら。考えるだけで嫌になります。

ですがもちろん希望もあります。
刀剣乱舞のメディアミックス作品のひとつである『舞台刀剣乱舞』では、男性の物語ばかりになりがちな日本史をテーマとして扱う中で、女性の歴史人物を主役にしたお話を作っていたり、全キャストを女性にした公演をやっていたりと、私としてはちょっと嬉しい展開を見せていたりします。
どんなコンテンツにも多面性があって、一口にこのコンテンツは絶対に大丈夫!!だなんて言えないものです。これまで書いてきたことを、些細なものとして全く気にせずに応援できる方もいるだろうし、そういう道を選んだほうが楽だろうと私も思います。
私はただ、気持ちよく作品やキャラクターを好きでいたいだけなんです。
誰かを意図的に排除したり、傷つけるような作品を応援することはどうしてもできなくて、どうやって何かを好きになって応援することと、私のこの価値観やソーシャルグッドを両立させていけばいいのかと、日々暗中模索しています。

私が考えすぎている部分もあると思いますが、最近ずっと自分の中で考えていたことを形にしたくて、共有してみました。
今はとりあえず、女性が主体となって作られた女性向けコンテンツがたくさん生まれ、主流になることを願っています。

ここまでお読みくださりありがとうございました。ぜひ、今後ともチルいジェンダートークともどもよろしくお願いいたします😊🌟

【参考にした記事】
「私たちのお賽銭が政治活動の資金源に」自民党と神道政治連盟の近い関係に危機感 別姓婚や同性婚を望む人は“それぞれの神社の立場を知りたい”

神道政治連盟のLGBTQ差別から見える、根強い家族主義

【ジェンダー教育と教師(4)】「体力」に男女差はあるのか

体力差があるから仕方ない?“スポーツの男女平等”に専門家「歴史的に男性有利にできているのを知っておくことが重要」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?