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5.29全日本プロレス三冠戦安齊勇馬vs宮原健斗〜約束を守る者達〜

「勝ったけどこれで(宮原健斗を)超えられたとは思えない」。この日の三冠戦で初防衛を果たした王者安齊勇馬が最初にリング上で発した言葉。堂々とした試合で成長を見せつけた上での勝利であり、喜びを爆発させて。更には「俺がイチバンだ!」と言っても許される状況でした。しかし彼はそれをせず。ある意味で本心に近い言葉を発しました。尊大な態度は取らない。足りないことを認めた上で等身大の言葉を発する。そんな彼だからこそ。この日の後楽園ホールは宮原コールに負けない安齊コールが生まれたのでしょう。

挑戦者宮原健斗は本当に強かった。CC2024を優勝して捲土重来を狙うオーラを纏い。観客もまた宮原健斗時代の再来を期待し。彼が入場したときは満員札止めの後楽園ホールに大ケントコールが鳴り響きました。もちろん試合も巧みな場外戦でのインサイドワーク。打撃戦でもスープレックスでも。耐える王者安齊を上回る打たれ強さとスタミナを存分に発揮して覇権奪回への圧力を高めていきます。特にエプロンでのドラゴンスープレックスを受けても立ち上がるのはまさにゾンビ宮原を見せたシーンでした。

しかし安齊も初戴冠の試合から大いなる成長を遂げていました。あのとき見せた耐える力は残しつつ。この日終盤で見せた宮原のラリアートを逆上がりの要領で切り返してフェースロックへ移行するなど。耐える力以外の上乗せも発揮しました。更には掟破りのシャットダウンスープレックスを発動させるなど。王者であってもなりふり構わぬ姿勢で貪欲に勝ちを狙います。そして最後は必殺のギムレットを解き放ち。ついにエース宮原からシングル初勝利を挙げました。

宮原ファンのぼくとしてこの結果自体に切なさはあれど。内容には文句のつけようがないモノでした。何よりも安齊がしっかりと成長を見せたこと。そして宮原も凄みを見せつけたこと。この試合は間違いなくクオリティの高い好勝負でした。

2022年の全日本プロレス日本武道館大会メインの煽りVで宮原はこんな言葉を発していました。

みなさん!約束してください。これから先も全日本プロレスを大好きでいてください。そしてその気持ちを次の世代へ伝えていってください。その気持ちにその時代の全日本プロレスのレスラーが必ず応えてくれます!

奇しくも安齊もまた「ファンとの約束」という言葉を発しています。更にはこの宮原の言葉が発せられた日にデビューしたのが安齊でした。

宮原は敗れたものの。この日の安齊だけではなく。青柳優馬、斉藤ブラザーズ、綾部蓮など様々な選手を太陽として照らし続けました。それはもしかするとこの日にファンと交わした約束を守ろうとしてくれたのかもしれません。そしてファン側もまた宮原と約束したからこそ。次の世代のファンに全日本プロレスを好きな気持ちを伝えたからこそ。2024年の5.29は満員札止めという結果になりました。大きな声で安齊に声援を送った人の多くは、日本武道館の宮原を知らないかもしれません。しかしそうした新しいファンが生まれたからこそ後楽園ホールは満員になったとぼくは思います。

勝負事である以上勝敗は大事です。安齊が勝ち宮原が負けたという結果は覆りません。ファンの中でそこに対する様々な気持ちがあることも否定するつもりはありません。みんなが同じ価値観でなくてもよい。ただこれだけ多くの人に全日本プロレスがここまで積み上げた結果を見せることができた。それは一つの勝利でもあります。

この安齊の勝利はまだ一つのきっかけだとしても。きっかけがあればきっと全日本プロレスの選手は応えてくれます!これからくるぞ!全日本プロレス!


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