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秋山レンタル移籍〜真に受け継がれるモノ〜

先日報道された衝撃的なニュース。

全日本プロレスの前社長秋山のDDTへのレンタル移籍です。秋山と言えば全日本プロレス入団時から「未来のエース候補」として当時のジャイアント馬場社長から期待をかけられた選手ですね。ジャイアント馬場の英才教育を受けた大型選手という意味では、最後の馬場イズム継承者だと言えるでしょう。秋山は馬場死去後は三沢のノアに参加しましたが、その後ノアを退団し、再び全日本に帰還しました。そして2014年からは全日本の社長に就任しました。秋山就任時の全日本はWRESTLE-1への選手大量離脱直後ということもあり、大変厳しい状態に置かれていました。しかしその状況下でも、秋山は経営者としてはコスト削減、現場監督としては若手選手の積極的起用、レスラーとしても前線に立ち続けるという、大車輪の働きを見せました。そうした秋山体制での努力が実を結び、諏訪魔宮原の両看板に加え、野村や青柳を始めとした若手日本人選手が躍動をし、現在では安定した団体運営に繋がりました。また、秋山自身も全日本の安定化を見届けた上で、2019年には社長退任→GM就任→GM退任と、団体内の役職を離れ、いちレスラーとしての立場に戻っていました。

そんな最中に発表された今回のニュース。元々はDDTの高木社長からのTwitter上のラブコール→秋山が受諾からのDDT参戦、という流れがありました。ただこれまではあくまでも「全日本の秋山」として参戦していましたが、今後は「DDTの秋山」としてDDTのリングに上がることになるようです(※あくまでもレンタル移籍ですが)。秋山はここ数年全日本の看板として重責を担っていました。このタイミングでいちレスラーとして自分の価値を高めたい、自由な身でプロレスをやりたいと考える部分もあったのかもしれません。

今回のニュースについて、Twitter上で様々な意見が飛び交いました。好意的な意見もあれば、否定的な意見もあり。また一部では感情的な団体批判のような意見もありました。敢えてネガティブな意見を取り上げることはしませんが、多少なりとも全日本ファンが不安に思う部分はあるでしょう。前述した通り、全日本の復活は秋山の尽力があってこそでした。単純な経営者&現場監督という部分だけではなく、川田退団以後途絶えたかに見えていた「ジャイアント馬場の遺伝子=王道プロレス」を感じさせてくれる選手が、再び喪失することへの不安ですね。

確かにそうした喪失感を不安に思う気持ちはわかります。しかしそもそも「王道プロレス」とは一体何でしょうか?ジャイアント馬場やジャンボ鶴田のファイトスタイルを王道プロレスと定義するのであれば、いわゆるクラシカルなアメリカンスタイルが王道プロレスということになります。ただし、現在の全日本がこのようなファイトスタイルかと問われれば、そうだとは言えません。また歴史的な面で言えば、鶴龍対決〜四天王プロレスもクラシカルアメリカンスタイルとは言えないです。もちろん細かい部分、それこそノアの丸藤が言うような「アームドラッグの受け方」「不格好なプロレスをしない」という技術的な部分はきちんと現在の全日本にも受け継がれています。しかし、実際にリング上で繰り広げられている闘いは現代向けにアレンジされた形です。

当たり前ですが人は老い、やがて死を迎えます。つまりどれだけ大規模のプロレス団体であろうとも、中心選手の喪失から逃れることはできません。これは悲しいし、寂しいことです。しかしレスラーを喪失する=団体のアイデンティティーを喪失するとは言えません。現在のプロレス界で全日本系と言われる技術体系の大元は「ジャイアント馬場・佐藤昭雄・グレートカブキらの技術や思想」がベースにあると言えるでしょう。古くは日本プロレスの技術体系に、60〜70年代のアメリカの技術体系を加えたものですね。もちろん彼らは皆現在はプロレスに関わってはいません。しかし全日本で言えば秋山や渕→青木→野村や青柳、ノアで言えば三沢や小川→丸藤→清宮と、技術や思想部分が確実に伝承されています。人を喪失しても技術はしっかりと残されています。全日本もノアもそして新日本も、既に団体創設者はそれぞれの団体から離れています。しかし各団体がアイデンティティーを喪失しているわけでなく、根底の部分を残し、時代に合った形で変化し発展しようとしています。そして秋山も「今の全日本にはきちんと大事なことを伝えきった」と考えたからこそ、いちレスラーに戻ったのではないでしょうか?我々が心配せずとも、真に継承されるべきモノはそう簡単に失われはしないでしょう。

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