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夏の積乱読日記 vol.2

しばらく放置していた。年1ペースである。

3月 介護職初任者研修に通った。
4月 学校の勉強をしていた。
5月 陶芸の本を買い漁ったが、あんまり読めず。
6月 学校の勉強をしていた。
7月 学校で試験を受けていた。
8月 ぼーっとしていた。
9月 久しぶりに固めて読書

読んだ本のリストと一言感想はこんな感じ

サラ金の歴史/小島庸平 ★★★★
戦後日本経済史を家計の側面から見てみようね、という良い本。80〜90年代の団信付きのサラ金によりしがないおっさんがバコバコ犬死にしていったせいで、運転資金のための負債と投資のための負債の区別がつかなくなったり、借金そのもののイメージが悪くなり、特にサラリーマンが経営する大企業の財務体質に変な影響を与えていると思っているのだが、それは俺の妄想だと思う。中公文庫最近調子いい。


旅する巨人/佐野眞一 ★★★★
海に生きる人々/宮本常一 ★★★
青天を衝けのB面、もしくは宮本常一と渋沢敬三のBL本。敬三は栄一の孫で太平洋戦争末期〜終戦後に日銀総裁と大蔵大臣勤めてたおっさんだけど、あんまり評価の対象になることがなくてかわいそうだ。宮本常一も網野善彦を介して宮崎駿のネタ元と言えるので、クールジャパンの始祖としてもう少しみんな注目してもいいでしょう。大河は面白いらしいがテレビを持っていないので見ていない。



鯨神/宇能鴻一郎 ★★★★★
昭和36年の芥川賞作品。ド迫力の鯨狩りの描写。開高健や椎名誠など、自然を書く日本の作家は少ない。家に籠って本ばっか読んでるやつのが作家になりやすいのではそれは仕方ないんだけど、でもどう考えても遊び人が書いた文章の方が面白い。作者はその後、官能小説家になり巨万の富を築いて、今では毎晩家で怪しいパーティーを開いているとのこと。




自壊する帝国/佐藤優 ★★★
ソ連の破綻と友情の話が並行して書かれていると錯覚して読むとエモい。後半は紀伝体形式で当時のソ連の要人の話になっていくので、ソ連崩壊というテーマがぼやけているのが瑕疵。一方で、大学受験で世界史使った人でもソ連ってなんで崩壊したんですかと聴かれてきちんと答えられないと思うし、これを読むと正解がなさそうなこともわかる。



異常の構造/木村敏 ★★
死亡記事を目にして、読んで見た。「異常」ではなくて、「論理体系が違う」と捉えようぜという話なのだが、いかんせんちょっと古すぎた。



〈責任〉の生成ー中動態と当事者研究/國分功一郎、熊谷晋一郎 ★★★
責任=応答可能性のことを中動態という概念で捉えるというのはだいぶ前からやっているけれど、医学書院のやつよりもう少し実践的な対談本。木村敏よりはわかりやすい。



A3/森達也 ★
著者自身が麻原に取り憑かれてたんだろうな、というのがわかる。今読むと1人で勝手に興奮しているように見える。確かにカルトを裁く裁判として適切だったのかどうか疑問は残るが、悲しいかな、社会がカルトを何度も経験しないとそこは洗練されていかないのだろう。



生きがいについて/神谷美恵子 ★★
 ませた小中学生が夏休みの読書感想文のネタに選びそうな本なので20年くらい敬遠していた。これは別記事にする予定だが、レストレポやISISに関するドキュメンタリーを見て、戦闘が生きがいになってしまった青年たちについて考えてバッド入ってた時にふと図書館で目についたので読んでみた。
 この本で記されている生きがいの定義はそれがたとえ「殺し」であったとしても論理的に成立するような条件付けになっていて、さすがベストセラーは論理的だと思った。と同時にそれは、人間は外部に倫理的な桎梏を必要としていることを示唆している。「戦争が生きがいです」という人を肯定できる論理が内在されているのである。本書が受け入れられたのは、「戦争なんてダメに決まってるじゃん」というのが社会通念として共有されていた時代に出たからだろう。しかし、神谷さんはカールバルトとか同時代の弁証法神学にもう少し注意を向けるべきだった。キリスト教徒だったんだし。というところまで批判的に踏み込んだ読書感想文を令和の小中学生には書いて欲しい。



ナツコ 沖縄密貿易の女王/奥野修司 ★★★★
 実在の人物についてのノンフィクションもの。ラピュタのドーラみたいな女の人が東シナ海を駆け巡る話。ラストもグッとくる。これはジブリで映画化すべき。サイババのブロマイド感のある表紙が怖いのだが、なんとかならなかったのか。



アンナカレーニナ/トルストイ ★★★
 挫折に挫折を重ね苦節20年、ようやく読み終えることができた。リョービンパートは映像化される時に切られる運命にあるが、本当はそっちの方が面白い。この本は決して「不倫すると破滅する」的な教訓めいた小説ではない。作家自身が投影されたパンピーのリョービンがやりたい放題やりまくるアンナをいいないいなと指を咥えてみているヤンキー小説と捉える方が正しい楽しみ方。映画はどれも間違ってる。



山本周五郎/さぶ ★★★★
 友情ものに弱いので読んでみた。人間社会に普遍的な問題を小気味よく料理されると思っていたら、最後数ページでいきなりミステリーに。しかも、真相は藪の中。不朽の名作。2年前に100キロ歩いた時、終盤みんな頭がおかしくなってきて、夜中の3時に石川島で子供みたいな喧嘩をしたことを思い出した。



JR上野駅公園口/柳美里 ★★★
 天皇が日本人の表のシンボルなら、天皇制の受益者としての対象から外れた人々をシンボルとして浮かび上がらせようと掘り下げていった作品。アマゾンのレビューに「この作品が小説でないといけない理由がわからない」という低評価コメントがあったが、それは蕎麦アレルギーの人が食べログで「やっぱり蕁麻疹が出ました」とかいうコメント付きで蕎麦屋に星1つをつけているようなもの。かゆいのはわかるが、TPOがメチャクチャになるので、控えるべきところでは控えてほしい。


最悪の予感/マイケル・ルイス ★★★
 旬の本。行政と感染症対策がいかに相性悪いかがよくわかる。しかし、マイケルルイスはいつもタイムリーに面白い本出すよね。


さらば愛しき人よ/レイモンド・チャンドラー ★★
 久々にフィリップマーロウに会いたくなって読んでみたんだけど、なんか受付けなかった。夢見る頃を過ぎてしまったということだろう。

君の鳥は歌える/佐藤泰治 ★★
 文体が好きだ。Vシネの質感で映像が浮かぶ。ヤケクソ感のある内容と文体がよく合っている。もっと色々書くべき作家だった。再版ということだが、読者はほとんどオッサンだと思う。自殺したので★一つ減。



 これの三倍くらい本を買い込んだが到底読みきれないだろうし、その間に俺の興味がどこか別の場所に吹っ飛んでいくだろう。人生も秋も短い。

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