後悔は燃やしても消えないから 蠍の火は闇を照らす
どうか神さま。私の心をごらん下さい。
こんなにむなしく命をすてず
どうかこの次には
まことのみんなの幸(さいわい)のために
私のからだをおつかい下さい。
銀河鉄道の夜の蠍の火のお話を
思い出したのは、
この春は出会いと別れがたくさんあって、
お別れする人から
こんな話をされたからです。
その方のお嬢さんが、
数年前に自ら命をたっていることは知っていました。
凛として、
それでいてフランクで、
お孫さんを心から愛していて、
いつも穏やかな方で、
とてもそんな過去があるなんて思えない。
深くは聞いちゃいけないと思って、
触れずにきたけれど、
老後を故郷で送ることになり、
最後にお食事にでもと誘って下さり、
今日は話さなくちゃと思って来たのよ、
と亡くなったお嬢さんの写真を見せてくれた。
可愛らしいお顔はその方によく似てて、
生きてたら、
私より二つ下。
お嬢さんは子どもの頃から精神的な病があったそうです。
愛着心が薄かったり、
触られる感触を嫌がったり。
今なら広汎性発達障害と診断されるのかな。
学生時代は割と優秀で、
でもどことなく他の子と違う。
社会に出て、
ひとり立ちしてから歯車が大きく狂ってしまったらしい。
精神科の診断は
自己愛性パーソナリティ障害。
自分を過大に評価し、
また評価されることを願ってしまう。
ありのままの自分を愛せない上に、
他者も認めることも出来ず、
とても不安定な精神の疾患。
精神の状態はどんどん悪くなり、
ひとりで暮らすことは難しくなり、
また同居を始め、
つきっきりの生活をしていたものの、
その方の両親が入院するため
家をあけた夜に
お嬢さんは自分に火をつけてしまったそうです。
そこから亡くなるまで約半年の入院生活。
話してくれたのは、
私の息子に軽度の精神障害があって、
日々奮闘しているのを知っているからなんだろう。
脳の疾患の難しさを少しは理解できていて、
ちゃんと受け止めてくれるだろうと
見込んでくれたのなら、
認めてもらえたようで嬉しい。
私への頑張れというエールでもあり、
その方のお孫さん達が
(私の息子の友人でもある)
生き生きと自分自身を愛せるように、
見守っていてねというお願いでもあり、
一つの区切りだったのかな。
焼かれた皮膚を見るたび、
その方の心も焼かれてしまっていただろう。
いっそ焼いてしまいたかっただろうな。
生きるのは、
どういうわけか難しい。
命の大切さだって、世界の平和だって、
願っても訴えても、簡単に壊れてしまう。
たくさんの後悔を、
淡々と、
私に重荷にならないように言葉を選びながら話してくれたのは、
不確かな日々に、
確かな真心を、
残してくれたのだと思います。
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