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悪質なアドネットワーク(第1回):モバイルアドフラウドにおける「悪の枢軸」

これは、モバイルアドフラウドの観点から、アドネットワークがどのように「悪の枢軸」を形成しているのかについて記した、3回連載の第1回です。ここでは問題の範囲を検証し、第2回ではアドフラウドを見極めるための簡単なチェック方法、そして第3回では不正アドネットワークを遮断する効果を検証しています。
詳細に関してはhttps://note.com/moloco_japanをご覧ください。

モバイルアドフラウドに関する素朴な疑問と回答

モバイルアドフラウドに関する悪いニュースが全て真実なら、アドネットワークの大半がフラウドに手を染めていることになります。であれば、そういった会社は一体誰なのか、そして業界としてどのようにしてこれらの悪質な行為を止めることができるのでしょうか?

この連載は、これらの疑問を当社のエンジニアが徹底的に分析したものになります。
最初の投稿である今回(第1回)では、3つの結論について深堀りしていきます。

1. 悪質なアドネットワークは実在し、モバイル広告における悪の枢軸を構成している。
2. あなたが出稿するアドネットワークがフラウドに塗れているかどうか、今すぐチェックすべき。
3. 悪質なアドネットワークを見つけたら、早急に出稿先から排除する必要がある。

今回の分析に用いたのは実際のキャンペーンデータであり、またアドフラウドを駆逐したい広告主であれば誰でも容易に利用できるデータです。

弊社の結論に同意できないという方は、ぜひお知らせください。
アドフラウドについて開かれた対話をすることによってのみ、私たちのエコシステムを改善し、ずる賢くなっているアドフラウドスキームを排除することが出来るのです。

連載第1回の本稿では、悪質なアドネットワークは、悪質な単一パブリッシャーよりも大きな問題であることを指摘します。第2回では、悪質なアドネットワークを根絶するためにできる簡単なチェック方法を、第3回では悪質なアドネットワークを排除する影響を検証します。

悪質なアドネットワークは、モバイル広告エコシステムにおける「悪の枢軸」

モバイル広告は、大きく広告主、アドネットワーク、パブリッシャーの3つの当事者に分類する事が出来ます。

1. 広告主は、どの製品を宣伝するか(多くはモバイル広告でアプリのインストールを促す)、またどのようなKPI(多くはインストールあたりのコスト)を用いるかを決定します。
2. アドネットワークは、広告主が、静止画や動画などのクリエイティブをユーザーに表示し、目的(アプリのインストール等)を達成するために用いられます。
3. パブリッシャーは、アプリを収益化するために、広告枠をアドネットワークへ売却します。

まず、業界から最も批判を浴びているパブリッシャーについて簡単に説明します。実際、悪質なパブリッシャーは、アドフラウドを行うための仕組みを多く備えています。

  ● パブリッシャーは、偽のインプレッションや配信されていないインプレッションの対価を広告主に請求することがあります。
  ● パブリッシャーは誤ったクリックを誘発することで、アプリに対して興味を持っていないユーザーをそのランディングページに誘導することがあります。
  ● パブリッシャーは、ユーザーがそのパブリッシャーが提供するアプリを利用していないときでさえ、ユーザーに代わって偽のクリックを発火することがあります。

上記のような仕組みを用いるパブリッシャーは明らかに悪質であり、このような行為に関与しているアプリは直ちに配信先から除外されなければなりません。

一方で、パブリッシャーの問題は日本でも周知されているため、今回の記事では代わりにアドネットワークによるフラウドの手法に焦点を当てます。

この連載では、「アドネットワーク」の定義を、複数のパブリッシャーの集合を意味し、広告主と取引を行うあらゆる事業体とし、それにはアフィリエイトネットワークやDSPも含まれます。

アドネットワークによるフラウドは、次の3つの理由から、パブリッシャーによるフラウドよりも遥かに悪質なものになり得ると考えられます。

1. 悪質なアドネットワークは、パブリッシャー単体によるフラウド行為よりも甚大な影響を及ぼす

単一のパブリッシャーが手を染めるフラウド行為の影響は、そのアプリをインストールしたユーザーに限定されます。しかし、アドネットワークがフラウド行為を行っていると、無実であるかどうかに関わらず、すべてのパブリッシャーをフラウドの温床へ変えてしまいます。

例えば、昨今流行っているアドフラウドの1つは、不正なアドネットワークが、自らが配信するすべてのインプレッションから偽のクリック情報を送信し(そして現実にはあり得ない100%のクリックスルー率を達成し)、オーガニックインストールのアトリビューションを盗む「クリックオンインプレッション」です。
明らかに、このような悪質なアドネットワークからの被害は、単体のパブリッシャーによるものよりもはるかに大きくなります。

2. 悪質なアドネットワークは想像以上に多い

悪質なアドネットワークは想像以上に多いのが実情です。そう主張しているのは私たちだけではありません。Branchもこの問題に関するレポートを発表しています。
私たちMOLOCOも、ある特定のクライアントのキャンペーンを詳細に分析することで検証しました。

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上の図1は、実際の広告キャンペーンにおけるアドネットワーク毎の週間インストール数を示したものです。

アドネットワークごとに、Branchの不正検知結果に基づいて、インストールを不正(赤)と適正(緑)に分類しました。このキャンペーンは19個のアドネットワークに出稿していましたが、そのうち13個(68%)のアドネットワークでインストールの過半数が不正であると判定されました。

インストール数の多いアドネットワークほど悪い結果となっており、これらから発生したインストールの87%が不正と判定されました。
他の広告主のキャンペーンでも、同様のパターンが見受けられています。つまり、最も悪質なアドネットワークは、一般的に最も多くのインストールを獲得しているのです。

3. 悪質なアドネットワークは悪質なパブリッシャーを育てる

真っ当なアドネットワークを使っていれば、パブリッシャー単位のフラウドについてそこまで心配する必要はありません。これら真っ当なアドネットワークは、広告主のために悪質なアプリがないか監視し、必要に応じてパブリッシャーを配信先から除外ます。
しかし、悪質なアドネットワークは全く反対の行動を取ります。それらは目的を達成するために不正なパブリッシャーを「活用」するだけでなく、さらに多くの、真っ当なパブリッシャーの間で不正行為を拡散させてしまうのです。

クリックインジェクションは、その良い例です。この行為は少数のアプリの間でパブリッシャー単位のフラウド行為として始まりました。しかし、現在では、悪質なアドネットワークがこの行為を傘下のアプリ全体に広げています。上述の例で調査対象となったキャンペーンでは、あるアドネットワークによるインストール数の30%以上がクリックインジェクションに依るものでした。
さらに、それには、増加傾向にあるフラウド手法であるSDKスプーフィングによる影響は含まれていません。SDKスプーフィングは、改めてこのブログで取り上げます。

「どうしてこんなことが起こるのか?」「これらのアドネットワークは世間に認知されたまともな会社のはずなのに!」と思う人もいるかもしれません。私たちもローデータを検証するまでは、そう考えていました。

不正を誘発する動機は、全てそこにあるのです。もしあなたが、捕まる可能性がほとんどなく、大金を稼ぐことを可能にする、怪しげだが簡単な方法を見つけたとしましょう。あなたはそれに手を染めませんか?そして、あなたと競合する会社はどうでしょうか?あなたは考えを変えますか?悲しいことに、これがモバイル広告業界の実情なのです。

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今回はモバイルアドフラウドの観点から、アドネットワークがどのように「悪の枢軸」を形成しているかについて記した3回連載の第1回です。第2回では、悪質なアドネットワークを根絶するためにできる簡単なチェック方法を、第3回では悪質なアドネットワークを排除する影響を検証します。より詳しい情報はhttps://note.com/moloco_japan をご覧ください。

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