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夜のパリ

地球には、どこかへ夜が訪れるとともに
どこかに朝が訪れています。

あなたのお気に入りの
朝、または夜、
それはいつでしたか?
(数えられないほどに
 あるかもしれませんね。)

私は珈琲の匂いが立ち込める
少し気取った優しい朝も、
地平線からこぼれ落ちそうな
雄大で少し寂しそうな夜も
愛しています。


「夜のパリ」チャールズ・コートニー・カラン
Paris at Night (1889)-Charles Courtney Curran

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雨が降る美しく水々しい夜。
雨とパリの街並みの相性が素晴らしく良いのは
言わずもがな誰もが知っている事と思います。

たゆたう街の灯りや、人々のさり気ない微笑みが
ゆったりと広がる浅い雨の水面で寛いでいます。
夜に散りばめられた光は暖かく、しばらくすれば
街の声も聞こえてくるでしょう。

是非、想像してみてください。
鼻の頭を優しく撫でる、雨と
夜の始まりが抱擁している香りを。

香りとは、記憶や時空を移動する際に使える
最も簡単で美しい魔法なのです。
(時に豊かな想像力を必要としますが。)


まずは香りを、丁寧に肺の奥にある
空気の海へ招き入れましょう。

たちまち香りは、思想や記憶、
精神世界へ辿り着きます。

ふと気がつくと、どこか遠い日の昼下がり、
夏の朝に歩いた雨上がりの山道、
または、誰かが振り向いた気持ちの良い桟橋へ、
私達は立ち尽くしている事でしょう。

美しく優雅で、誰でも使える
とても簡単な魔法です。
(時に入り込む哀愁は厄介ですが
 たまには付き合ってみても良いでしょう。)

機会があれば使ってみて頂きたい。
勝手ながら、あなたの余白へ
走り書きでも残しておきましょう。

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この美しいパリの夜を額縁に完成させたのは
アメリカの素晴らしい画家、
チャールズ・コートニー・カラン。

彼の他の絵画たちも素晴らしく、
一瞬のうちに走り去ってしまう光や風、
柔らかく、2度と訪れない微笑みや
眼差しの美しさが住み着いて、
その輝きが永遠のものとなっています。

幼い頃から輝きを見つめることのできる
瞳を持つ事はなんと素晴らしい事でしょう。


ところで、あなたは
雨についてどう思いますか?

鬱陶しい厄介者でしょうか?
それとも、心地の良い友でしょうか?

私は日の終わりに訪ねてくる雨を
いつでも待ちわびているのです。

急がず瞬きをして、
紅茶を好きなように淹れる。
読み進めている本は益々愉快に
なってゆきます。
(ぴったりのレコードは
 雨に尋ねてみると良いでしょう。)

私のお気に入りの
少し冷えた窓から外を覗くと、
丁寧な街並みに
夢の様な雨が降り注いでいる。
清々しさと輝きが絶え間無く
戯れているでしょう。

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雨の中に、溶け込む香りや表情を
見逃しては勿体ありません。
気まぐれですが、
そう足早でも無いのです。

起き抜けや、眠りにつく前の親しげな雨、
よそゆきの靴をいたずらに撫でる雨、
季節を抱えてやってくる、古い友のような雨。

そうして彼らは、深く眠る緑の命や
泡立つ群青の女神の髪に寄り添い、
その計り知れぬ美しさに私は、
度々我に返ります。
薄暗い街の出口が見つかるのです。

いつかきっとあなたの役に立ちます。
その時まで、どうかこの雨上がりの香りを
読み終えた本にでも挟んでおいてください。





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