せめて恐竜程度には愛を注いでほしかった。映画『クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』感想。
観てきました。
※多少ネタバレがあるうえに、基本的に褒めてませんので、お気をつけて読み進め下さい。
予告編を見て感じた嫌な予感はおおよそあたっていて、クレしん映画っぽさがない普通のジュブナイル映画って感じに仕上がってました。もっと言うと、予告の段階では「これどっちかっていうとドラえもん映画じゃない?」って思いましたが、実際観てもそういう部分をちょっと感じました。(思ってたほどではないですが)
ただ、動画のクオリティは素晴らしいし、今回キャラのファッションが凝ってるのでビジュアル的にはいい感じ。今回は恐竜がメインなだけに、恐竜の描写もかなり力を入れてますね。
あと、観た方は気付いたんじゃないかと思いますが、今回カスカベ防衛隊のみんな、おシャレです。場面ごとに服が違ってる上に、けっこう凝った柄物着てたりします。パーカー着てるしんちゃんとかかなり新鮮。
ただし、ここで褒めてることは、総評としてはややマイナスに働いてもいます。(後述)
いや、ほんとに絵はかっこいいんですよ。でも演出が平凡過ぎて全部台無し。恐竜の描写とか凄いかっこいいけど出し方が単調なんで「あーはいはいまたいらしたのね」ってしか思えない。これも後で触れますが、どうも監督&脚本さんが恐竜を量出したくて仕方ないらしく、その分それぞれの演出が雑になってる印象があります。
身も蓋もないことを言ってしまえば、TVアニメの映画版でよく見られる
「監督や脚本が描きたいことが先にあって、それを表現するのにそのTVアニメの枠を利用した」
感じの映画です。私が大嫌いな。原作付き惜しいアニメのような。
あとこれは好みの問題かもですが、『クレヨンしんちゃん』の魅力というか特徴の一つに、
「どんな題材もクレしんの世界に馴染むようにシンプルな絵柄に落とし込む」
ってのがあると思うんですよ。いままでTVシリーズも含めていろんな実在の人物(芸能人・歌手など)や生き物・ロボットなどさまざまな要素が登場しましたけど、ことごとくクレしんの世界に「馴染む」シンプルなデザインに落とし込んであって、その手際の良さに毎回感心してたんですが、今作に出てくる一連の恐竜(ナナを含む)はちょっと…というかかなり浮いていたと言いますか。スタッフインタビューで監督は「ナナは他の恐竜に比べて漫画チック」と言われてますが、正直まだ浮いてます。この辺が「どっちかっていうとドラえもん映画」と私が感じた根拠の一つでもあります。
この辺をとってみても、作り手が「クレヨンしんちゃん」よりも「恐竜」を大事にしてるんだなぁって感じます。
※ギャグなどの演出上リアルでくどい描写になることとは別の話です。
この『電王』コラボの画像でもわかるように、ドラえもんのキャラのような滑らかさよりも、むしろぱさぱさしてて、線画に「あえて」のゆがみがあるのが特徴。
さらに好みの問題になりますが、特にクレしん映画の魅力の一つは、シンプルな絵柄で作画コストを下げた分ぐりぐりと動くアクションの気持ちよさにあると思ってますが、今回は恐竜たちの描写がややリアル寄りな上、多くは巨大であるのもあって、持ち味であるジェットコースター的なスピーディなアクションには繋がっていなかったといいますか、わざわざ持ち味殺しちゃってるなぁと。同じ巨大生物が出る作品でも『もののけニンジャ珍風伝』のクライマックスシーンの「もののけの術」の巨大アニマルのアクションシーンの方が迫力がありました。リアルなビジュアルにとらわれ過ぎてて、その作品世界のリアルを忘れているといった印象です。
これらの問題は、パンフレットの監督&脚本家のインタビューを見ても「やっぱりな」としか。
二人とも「しんのすけらしくない行動はとらせたくない」とかもっともらしいことを言ってますが、その口で「リアル」であることのこだわりを言い募ってて、ああそういう描き方ならこうなるわなぁって。
たしかにリアルな街に恐竜が闊歩してたら絵的にとても面白くなるというのはわかります。でも、そのリアルって渋谷の街の背景を写実的に描くことだったんですかね?
たとえば、私はあまり好きな映画ではないんですが世間的には名作の誉れ高い『オトナ帝国の逆襲』の「20世紀博」や懐かしさで充満した町にはたしかに「ひろしにとってのリアルさ」があったので、あの映画のテーマがくっきり浮き出てました。でもそれは絵画的な、写実的なリアルだったでしょうか。登場人物の心の動きなど、演出的なリアルだったんじゃないでしょうか。
失礼な言い方になりますが、お二方とも「作品を生かすリアル」を勘違いなさってるように感じます。
加えて、先にも述べたように長期シリーズへの敬意のようなことを言い連ねてるわりには、『クレしん映画』である前に『恐竜が出てくる子供向け映画』という部分を優先してしまった結果、『クレしんでそれをやるの?』って感じる部分も多かったですね。
先述のように「しんのすけらしくない行動は~」と言いながら、しんのすけが正面向いて泣くシーン描いてますよね。クレしんに長く親しんでる方ならお分かりの様に、基本的にしんのすけは、泣く時も笑う時も正面を向かないんですよ。(なので、私は『戦国あっぱれ』も好きじゃないです)
監督も脚本の方も、『クレしん』に対しての解像度が低いと言いますか、特に脚本のモラルさんは、クレしんの脚本に関わるのが2020年からという方で、加えてもともと実写ドラマの方。これは偏見かもしれませんが、実写ばたの方がアニメの監督や脚本に関わると、総じてその作品自体への理解よりも自分が描きたいお話を優先する傾向があると思っています。(去年の3D映画の監督・脚本の大根仁さんがその典型ですね。あの映画も「ひろしにいい名言セリフ言わせときゃいいんだろ?的な低解像度を感じました。)
ちなみに、私が大好きな『バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』では、ぶっ飛んだ脚本を書くことで有名な浦沢義雄氏がメインの話を書き、テレビシリーズも担当してるうえのきみこ氏がキャラクター監修や脚本の修正をするといった、シリーズのイメージを逸脱しないようなチェック体制になっていたように、個人的にはシリーズになじみのない方を脚本に呼ぶ場合はこういう感じでお願いしたいところ。
あと、やっぱり最後に動物を殺すのは安直。たしかにそのラストにつながるような前振りとして、ナナが時折野生の凶暴さを見せることで、「将来的に共存は不可能」であることは提示されてるのですが、これがドラえもんだったら最終的にナナが暮らせそうな新天地を見つけてそこでお別れ、的な展開に持ってけるのでしょうが、未来のテクノロジーがないクレしんでは難しかった…? いや、今回の悪役であり、しんのすけの見方になるビリーとアンジェラの父親であるバブルの持つ資産と科学力が制圧で来てればその辺も何とかできたはず。(もちろん厳密に生態系とか細かいリアルを持ち出せばいろいろ問題はあるにしても)
その辺もやはり、露骨なお涙ちょうだい的な感じがどうもいただけない。やっぱり『戦国あっぱれ』を思い出す。クレしんで「死」を扱うのは正直どうかって思う。(この辺は好みの問題と言われればそうなんですが)
で、この様に私はこの映画をどうしても好きにはなれなかったんですが、子供映画感想の常として
「お前(筆者)の様なおっさんが楽しめてなくても、メインターゲットである子供が喜んでいればいいだろ」
問題があるんですが、その辺もちゃんとリサーチしてますよ。
当日は雨でもけっこう子供いたんですがほぼまったく笑い声や歓声が聞こえないし、隣のおとうさん(かなり若い)なんかいびきかいてたし。まあそんな感じ。
唯一笑い声が聞こえたのは、もう内容は忘れちゃいましたがひろしがなんかしらの不幸な目にあってるシーンで一回のみでした。
よかった点。
…と言っても、何もかもダメな作品というわけじゃないので、以下良かった点をいくつか。
まずは、最初の方にも述べたように、絵的な面白さは多分にあります。しんのすけたちの衣装がころころ変わって、それぞれかわいいので見てて楽しい。
ただ、それも実のところ、恐竜やその存在を際立たせるための背景をリアルに描いてしまったので、バランスをとるために主要人物の情報量を上げてるような気もします。だとしたらもっと他に工夫すべきとこあるだろ…とは思います。
あと、これは欠点としても挙げましたが恐竜の描写。
最新の研究を反映して、私のようなおっさんが子供のころに図鑑で見たような冷凍食品だけで作ったお弁当のような地味な色合いではなく、カラフルでバラエティも豊富な恐竜たちが次々出てくるので、恐竜が好きなお子さんなら大興奮かもしれません。
というか、パンフレットに⇧こんな「恐竜図鑑」「恐竜設定画集」をつけちゃうくらいだし、この映画のスタッフはほんっとうにまじめに恐竜が描きたかったんでしょうね。その熱量のもうちょっとくらいを「クレしん」に割いてくれれば…。
加えてシリーズのファンに嬉しかったのは、わりと普段は映画に出てこない(出てきてもセリフがない)レギュラーキャラが多数出番があって、それはちょっとうれしかったなぁ。
個人的に贔屓してる埼玉紅サソリ隊なんかはセリフ付きで2カット(そのうち一カットは恐竜の背中に乗っての「もののけ姫」的なアクションシーン)も。加えて映画初出演の売間九里代w(TVシリーズでは初期期から登場してるセールスレディ) あとニュースキャスターの団さんとか、ヨシりんミッチーやアイちゃん&黒磯さんとか、それぞれ好きなキャラなんで銀幕で観られてうれしかったです。
ただまあ、これらのキャラはストーリーにはかかわってこないので、一種のイースターエッグですね。
そうそう、忘れちゃいけないのがゲスト声優オズワルド伊藤さん。
芸人ゲスト枠とは思えないくらい出番が多い!今作のメインキャストだよ!(敵ボス側の科学者:アンモナー伊藤役)
そして演技が上手い…というか、これインタビューなどで本人も言ってましたけど、キャラがまんまいつもの伊藤さんで行けるキャラだったんで、すごく馴染んでました。名前からして当て書きなのかもですね。
もちろん、キャラがあってても演技が下手なら気になってしまうところなんで、そういう意味でしっかり演じられてました。
おまけ。
今年のお年賀に描いた埼玉紅サソリ隊。
私の脳内設定ではお銀さんは隠れ巨乳。
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