日記(指先)


朝晩涼しくなってきた。

今日は、肉じゃがを作った。

最後に味見をしよう。

一人暮らしなので、指を鍋に突っ込んで舐めるスタイルで味見をしてやろう。

人差し指を突っ込むと、さすがに熱かった。

失敗したと思った。


熱う〜、としゃがんで悶えていると、熱々の人差し指にトンボが止まる。

びっくりした。

赤トンボだった。

ふわ〜っと来た。

見ると、ベランダの窓が開いている。

赤トンボが開けるわけが無いので、私が開けっぱなしにしてしまっていたのだろう。辛い。

赤トンボは、静かに人差し指に止まっている。

旨いのだろう。

肉じゃがは旨いからなあ。

しかし赤トンボは熱くないのだろうか。



右手はそんな感じで赤トンボで埋まってしまった。

しかし味見はしたいので、左手でもう一度チャレンジすることに。

今度は左手の人差し指を肉じゃがにちょんとする。

熱う〜

相変わらず熱い。

すると、次のトンボが入ってくる。

次のも赤トンボだった。

次の赤トンボも、私の旨い人差し指に落ち着いてしまった。

味見チャレンジ失敗。

それでやっぱり、私の指は熱くないのだろうか、赤トンボは平気なのだろうか。



すると、

右手に止まっていた最初の赤トンボが、左手の次の赤トンボの方を見る。

存在に気がついたのだろうか、

最初の赤トンボと、次の赤トンボが対峙する。

私は、うまく対峙できるように手を同じ高さにしてあげよう。

すると、

一瞬無言の間があって、


最初の赤トンボ「あっ…

次の赤トンボ「あっ…


両者飛び立って各々の方向に行ってしまった。

さすがに対峙は気まずかっただろうか。

初対面だろうし。

悪いことをしてしまった。



トンボを見送った後、私はスプーンでスープをすくって味見を決行する。

今度は熱くないし、トンボも来なかった。

しかもおいしかった。

秋はスプーン。

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