見出し画像

「1%の仮想」展を大盛況で終えた制作者、y23586(ヨツミフレーム)さんにインタビュー‼

前例の無いVRChatの「メディアアート展」に累計入場者数2024人!

9月22、23日、二日間の期間限定で開催されたメディアアート展「1%の仮想」は、日本で(もしかしたら世界で?)初めてVRChat上で開催された「展覧会」だ。
VRChatとは現在オープンβテスト中のソーシャルVRサービスで、身振り手振りを加えたボイスコミュニケーションが可能である。特徴的なのは、アバターやワールドが自由に制作できることで、ネタ系から綺麗系まで多種多様なコンテンツがユーザーによって共有されている。
「1%の仮想」というタイトルにあるように、virtual(仮想/本質の意味)をテーマに制作された作品群は、見るものを楽しませ、近年賑わいを見せるVR(Virtual Reality)を改めて問いただすものとなっている。
特にVRに日常的に接しているVRChatユーザーにとって関心は大きく、累計入場者数は2024人を記録した。
これは、全世界のVRChatアクティブユーザーが1日7000人前後であることを考えると、その1/7が来場した計算になる。
これだけの規模のイベントを、企画、運営、制作を全てy23586さん個人で完結させてしまったのだから驚きだ。
大盛況に終わった直後のy23586さんに、お話を伺った。

~人物紹介~
y23586(ヨツミフレーム)さん
趣味で様々なものを制作。
これまでに自作ゲーム、電子回路、3Dプリント、Unityで作品を発表。
VRChatでは、縁日ワールド "Ennichi Playground"の公開、時計を実装できるvrchat-time-shadersの配布など、精力的に活動している。
HP: https://y23586.net/
Twitter:@y23586

待ち合わせの時間にヨツミさんに会いに行くと、真剣な表情で何かを作っていた。
――ヨツミさん本日はよろしくお願いします!(なぜろくろ……?)
――大盛況に終わりましたが、ここまでの反響は予想していましたか?
y23586:
思ったより反応が大きくて、びっくりしました!予想ではフレンドの方々が来てくれて、追加で数人程度に考えていたんですけど、実際は会場を運営するので精一杯で、みんながどういう反応をしているか確認する暇もありませんでした。twitterのハッシュタグ #1パーセントの仮想 を見てみると感想も沢山あって、中には号泣したという方もいて作ってよかったなと思いましたね。

――ツイッターの反応面白いですよね!展覧会という空間で、皆がわいわい楽しんでいるのが印象的でした。

y23586:
何に面白いと感じてくれたか分かりますよね。自由に写真を撮れるようにして良かったです。 正直、最初の部屋のハンバーガーで楽しんでもらえれば、それでこの展覧会は成功なんです。最後の作品で、テーマに何か感じるところがあれば、より良い。そういうレベルで考えていましたから。1作品でも楽しんでもらうことが重要でした。

――VRChat初の展覧会として、何か意識した点はありますか?

y23586:
色んな人が来るので、誰でも楽しめるようにデザインとして起承転結を意識していました。4つの分かれた部屋に起承転結を当てはめています。最初の部屋ではハンバーガーに代表されるように窓口を広く、まず楽しんでもらう。二つ目の部屋でパーティクルの綺麗な表現を見てもらって、三つ目の部屋で転の現実を意識させて、最後は結でテーマに持っていくという流れです。最初から三つ目の部屋や最後の作品群のようなテーマを押し出してしまうと、テーマに刺さらない人はそこで帰ってしまう可能性があります。そうなると印象は最悪なので、まずは楽しんでもらってから徐々に頭を使うような流れにしました。

(画像は全体俯瞰図、左下のエントランスホールを抜けると4つの展示スペースがあり、最後にMuseumShopがある)

――確かに「アート」という言葉だけでも「頭を使う」とか、「難しい」というイメージが先入観としてありますもんね。その中でもなぜ今回は「メディアアート展」として作品を発表したのでしょうか。

y23586:
「メディアアート展」という名前を付けて、箔をつけるのが目的でした。VRChatでクリエーターと呼ばれている人たちの作品は、twitterで発表しても、VRChatのワールドとしてパブリック化したとしても、見てそれで終わってしまうのが悲しかったんです。タイムラインで流れていってしまったり、無料でいつでも来れる状況だと忘れ去られてしまったり。なので印象に残るように期間限定にして、twitterや動画などで宣伝をして、「メディアアート展」という名前をつけて、アートが好きな人にも引っかかるように戦略を練っていました。本当は、ただハンバーガーが置いてあるだけなんですけどね(笑)

――それでも個人で、一人で個展をするというのは、実現までかなりハードルが高いように感じるのですが。

y23586:
元々メディアアートを見ることは好きですし、展覧会という形式はやってみたいという思いがありました。6月頃に自分が今まで作った作品を、ポートフォリオ形式で見てもらうワールドを作ったのですが、結構人が見に来てくれて、それが展覧会のワールドを作るきっかけになりました。MakerFaire(http://makezine.jp/event/mft2018/)という個人で出品出来る電子工作の大きなイベントがあるんですけど、それのヴァーチャル版があったらいいねとフレンドと話していました。私も出品した経験があるのですが、ヴァーチャルでやれば狭い一つのブースに割り当てられることもないし、 作品の安全管理や説明のためにずっと作品に張り付いていなくてもいいのです。 そして、やっぱり物理的に作るので、ひとつの作品を完成させるのに何カ月も時間がかかるんですよね。それがヴァーチャルだと1時間で1作品作ることも出来ます。低コストで何個も作品が作れるから、一人で個展を開くことも出来るし、一人で全部やればインパクトもあるかなと思っていました。

――狙いと利点が合致した感じですね!お話を聞くとかなり戦略的に広める、インパクトを残すということ徹底した先に今回の大成功が繋がっているのですね。

y23586:
そうですねー。細かく言うと宣伝のやり方もリツイートされやすい時間帯を調べて、きっちり二日ごとに動画をtwitterに上げていました。それで顔を売ってポスターでその顔をバーンって出す様に日程調節をしていましたね。動画はツイッターで15万再生されて、予想以上の反響でびっくりしましたが(笑)

https://twitter.com/y23586/status/1038297402594062336

――参考にされたものとか、経験ってありますか?

y23586:
直接参考にしたいうと難しいですけど、外見が新宿のICC(http://www.ntticc.or.jp/ja/)っぽいねと何人かに言われました。私も良く行くのですけど、そこは無料でメディアアートの展示をやっていて、「1%の仮想」は現実の展示会場にかなり寄せてデザインしています。ヴァーチャルな方向、ゲームやファンタジーっぽい方向にはいくらでも作ることは出来るのですが、それだと逆に没入感が減ってしまう印象があります。それに限りなく現実に近づけたほうが、作品との差が生まれて集中できるかなと思ってデザインしました。作品のアイデアも、実際のメディアアートからきっかけを貰っています。よくある手法として、伝統的な文化やよく知られているものと、現在のテクノロジーを組み合わせる作品があります。例えば「1%の仮想」で言えば、折り紙やハンバーガーや五重塔などの作品がそうですね。

――アイデア段階から作品化まではどのような経緯があったのでしょうか。

y23586:
如何に低コストで、インパクトを残すことが出来るかを優先して考えていました。例えば綺麗なものや派手なものを作るには、とても時間がかかりコストも大きいです。なので、個人でやって低コストでインパクトを残すには、どうやって人の裏をかくかを考える必要がありました。今自分が出来ることと、技術的なものに加えて何かしらの意味を持ったものを組み合わせることから始めましたね。アイデアを出す段階で、技術的に難しそう、実装するのに時間がかかりそうだなというものは、その段階で切っています。展示品の中には、実装されなかった作品の一部が使われたりしていますよ。

――「1%の仮想」というタイトルにもあるような virtual(仮想/本質)というテーマはどのように生まれたのでしょうか。

y23586:
そもそも作品を作っていくうえでテーマは考えていなくて、面白いものを雑多に集めていました。その中で最後の作品である「1%の本質」を作った時に、見に来てくれる人たちに近く、親しみやすいテーマが出てきたので、 この作品に合わせて展覧会の作品群を調整しました。

――見る側に近いテーマだからこそ、この展覧会を見て感動した!良かったという人と、所詮我々はvirtual(仮想)的な存在なのだとネガティブな感想をもつ人がいて、各々がvirtualに対して何を期待して考えているかが分かって面白かったです。

y23586:
私たちが見ているのは、結局光と音でしかないわけですよね。僕も今部屋で一人、ケーブルに繋がれてぶつぶつ話していますけど、実際に光とか音とかが存在の本質ではなくて、そこに居るって思いこむことこそが本質だと。見ているものが、本物か本物じゃないかは重要ではない。「距離のリアル」で人同士の距離が見えているのも、別に距離が重要なことではなくて、隣にいると思い込めば、それはいるのだと。

(作品名:「距離のリアル」
IPアドレスからプロバイダーの現在地を割り出し、自分を中心に円グラフでそのワールドに入ってきたユーザーとの距離を示している)

――普段私たちが遊んでいるようなVRChatのワールドには無い、改めて考えさせるような特別な体験でした。

y23586:
良かったです。ある方は「深さがあるイベント」だと評価してくれました。人を集めてみんなで楽しむイベントは、VRChatでは活発に行われていますが、所謂文化的体験と呼ばれているようなアートとかそういうイベントは少ないですよね。やっぱり作るほうも大変だし、ものを主体とするよりも、人を主体にしたほうが明らかにイベントは難易度が低いですから。実は個展やったもうひとつの目的があって、それは一人でもここまで出来るというのを示したかったんです。今何かVRChatでイベントやるときって企画屋さんというか、フレンドがいっぱいいて、運営管理もできて、スタッフの人数が確保できてはじめて出来るっていう印象ですが、それを一人で完結することができました。これに続いて色んなイベントが出来ればいいなと思います。

――ヨツミさん自身の今後の計画も教えてください。

y23586:
人から見られるのは慣れてないので、しばらく静かにしていたいという気持ちがあります(笑)ただ、ここより面白くなるものを考え中です。今年中にできればいいですね。それとは別に、合同VRアート展覧会のDiscordを設立しました。今は企画案を出している段階で、やってみたいという方が既に何名か参加してくれて動き出しています。この企画にピンと来た方は、是非自由に参加していただきたいですね。そちらも形になるように動いていきたいです。Discord参加URL https://discord.gg/TDw6mfC

――おお!楽しみです!最後にこの記事を読んで下さった方に、一言お願いします。

y23586:
やっぱりここを超えるものを作ってほしいですね!twitterにも書いたのですが、この「1%の仮想」の最大の欠落は「私がVRCで一番見たいものを自分で作ってしまった(=見る側としては楽しめない)こと」なんです。ありがたいことに入場料ということで、ほしいものリストを公開してくれという声もあったんですが、私にものを送るくらいだったら、自分の環境を整えて、面白い作品を作っていただきたいですね。個人が自由に動けて、人を集められる今の時代は確実に終わります。課金の体制が整って、安いVR機器が売られるようになったら、大量の人が入ってきて、営利企業が入ってくるからです。なので個人でも、グループでも、面白いものをどんどん作って動き出して欲しいです。あと一人でもイベントが出来るというのは、もうここでやったので、「それは言い訳にはならないよ」という感じですね(笑)

――背筋が伸びる思いです!本日はありがとうございました!
それとずっと気になっていたんですが……なんでろくろを回しているのですか?

y23586:だってずっとろくろを回していれば、調子に乗っていると思われないじゃないですか‼

惜しまれながらも終わってしまった展覧会ですが、反響の多さに追加開催が決定しました。今回のインタビューで気になった方は是非参加してみはいかがでしょうか。VRChatはVR機器がなくても、無料でプレイ出来ます。
開催日などの詳細は、ヨツミさんのtwitter:@y23586をチェック!更に翻訳スタッフとして協力していただける方も募集しております。
https://twitter.com/y23586/status/1045323378482016258

そして!最後まで読んでくださった方に感謝を込めて、ヨツミさんが回していたろくろのunityデータを配布します!ワールドに小物として置いても、アバターに追加しても良い!皆でろくろを回そ~
http://y23586.net/files/rokuro.unitypackage

~取材スタッフ~
企画・インタビュー・構成
MOKUSHI(@nekotokageee
構成協力・記録
SHIVAINU(@shivainugami
TYOUNANMOTI( @TyounanMOTI)

この記事が参加している募集

#イベントレポ

26,376件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?