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陶王子 2万年の旅

「僕の父は炎、僕の母は土。父と母はどのように出会い、僕は生まれたのだろう?」

ごきげんよう、もくれんです。

私は妖怪・皿集め、もとい器ニスト(ウツワニスト)なので一人暮らしとは思えないほどお皿がたくさん持っている。そんな私にピッタリな映画が年始1月2日から封切りとなり、これは縁起がいいねと思って見てきました。

陶王子 2万年の旅


この作品の斬新なところは焼き物と人間の営みの歴史を題材にしていることだ。いわゆる「有田焼」「マイセン」ではなく、2万年前の縄文土器を皮切りに、世界の土器、陶器、磁器、最後はファインセラミックまで世界中を舞台に歴史を紐解いていく。世界を股にかける具合でいうと、ジョジョ3部。

「なぜ土器が生まれたの?オーストラリアの先住民はカンガルーを焼くときに木の皮を使っている、まだ土器の出番は来ないみたい、、」といった感じで、鑑賞者の好奇心を引き込むwhat?why?where?を随所に散りばめながら、お話は進んでいく。

映画の案内役はタイトルにもなっている陶王子(とうおうじ)だ。陶王子は器の精霊。もともとは中国のアーティスト耿雪(GengXue)さんの作品である。陶器のマリオネット人形。(からくりサーカス読んだことある人はちょっとゾクゾクするのではなかろうか。)Geng Xueさんの映像作品を柴田監督がたまたま見つけたそうなのだが、この陶王子が非常に良い味を出している。

もともとの陶王子の前身なる映像作品”Mr Sea”(最初ちょっと音量注意)

そして陶王子の声は女優・のんが担当している。これが多分眠くなる原因でもあるのだが、優しい語り口でとつとつと話しかけてくれる。「この世界の片隅に」のすずさんとは違う安心感がある。まったくドラマティックに声を上げない。能面のような陶王子にのんが感情を吹き込んでいる、そんな感じ。監督の初日挨拶トークで「声を作らず、目の前に陶器を置いて、その陶器に語りかけるようにしてもらった。」とおっしゃってたので、本当に彼女のそのままなんだろう、きっと。

陶王子にいざなわれる、陶器と人間の営みの数々。メソポタミアで発見されたロクロと車輪、中国の青花への執念、白磁を作るために幽閉されて死んだドイツの錬金術師。。なんだろう、世界史の資料集をめくるときのワクワクを思い出す感じだ。

2万年の歴史を世界を転々としながら詳らかにしていく最中、最初は土色でハニワ風だった陶王子もエジプシャンブルーになったり、白磁になったりする。そして最終的にはスペースシャトルにも使われるファインセラミックスとして宇宙に陶王子はゆっくり浮遊していく。

私は「妖怪・皿集め」なので、商業製品も美術館で展示されている陶磁器もたくさん見ているが、陶王子のような雄大な切り口を知らない。「人間はなぜ粘土をこねるのか。」から人と土のかかわりを新鮮に洗い出す。この大河の流れの中に今わたしの手元にも器が届いていることを知らされる。

たくさんの美しい陶磁器を見られる映画「陶王子 2万年の旅」。なぜか見たあとはウチにある小さなお茶碗を愛でたくなる。

おすすめです。

トップ画像は公式サイトから。著作権:プロダクション・エイシア/NED


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