線路の靴
私は小さいときから感情を表現することはできないタイプだった。
まだ3歳くらいのとき、線路に靴を落とした時の話。
私と母は、誰もいない小さな踏切を渡っていた。
母は弟を乗せたベビーカーを押していて、
その後ろを私が歩いていた。
線路の溝は、私の小さな靴を飲み込むのに十分な幅があって
気づいたら片方の靴が溝にはまって、脱げた。
心臓がドキドキして母を呼ぼうとしたけど
迷惑をかけると思ったし、
どうやって伝えればいいかわからなくて
そのまま黙って渡り切った。
踏切を渡り切ったらちょうど、警笛が鳴り始めた。
電車が近づいてくる。
なんだか怖くなって小声で母に言った。
「靴が線路に挟まっちゃった」
母は大慌てで靴を拾いにいき、電車が来る前に走って戻ってきた。
母は”慌てた動き”をしたし、”焦った”様子を見せた。
だけど私はそういう言動をしなかった。
心の中は、母と同じかそれ以上に慌てていたのに。
大人になった今日も、感情表現は苦手なままで
「それ面白いね!」とか「ありがとう」とか
心から言っているのに
「思ってないでしょ?」と言われてしまうことが多い。
みんな、誰から感情表現を教わるんだろう?
すごく知りたいのに。
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