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『全自慰文掲載 又は、個人情報の向こう側 又は、故意ではなく本当に失敗し、この世の全ての人間から失望されるために作られた唯一の小説』その14

                Ⅰ-4-1
 
もう、俺は幽体離脱、だっけ? えーっと、違う、臨死体験、いや、それも違うのか、とにかく、幽体離脱は出来ない体になっている。
――意識が戻った、ってことだ。
……あーあ、もう、山を超えたんだ(「越えた」の誤変換)だろうなぁ。
…もう、死ぬチャンス、逃しちゃったのかぁ。
そう気づけば築く(「気づく」の誤変換)程、目を開けたくない気持ちで一杯になる。
両親が、いるのみ。
姉夫婦はいない。
ナースが二人、意思(「医師」の誤変換)が、一人。
「山は、越えました」と、医師は、良心に(「両親」の誤変換)に告げている。「バイタルサインの方も、安定しています」
両親は「ありがとうございます」と、必死に頭を下げている。
ついで母が、
「――先生。退院したあとのことなんですが、息子は、自殺を繰り返す可能性がある、と思うんです」
と切り出す。
「ああ、はい」
「なので、――精神病棟に入れてやって欲しいんですが」
「いや、それは私が判断できることではありませんので。ご承知の通り、もう、警察に届け出が出ている件ですので、警察の方と監察医の方とのご相談の上、お決めになるといいでしょう」
あーあ。
生き残って、一生、閉鎖的な精神病棟で、暮らすわけかぁ。
――もう、いいや、どうでも。
 
                 Ⅰ-4-2
 
三途の川のシーン。
これは、「臨死体験」じゃなく、単なる「夢の中」の、三途の川だ。
ただ、情景は、臨死体験で見た、橋だ。
ただ、もう、「三途の川コンプライアンス委員会」もいない。
机もなければ、椅子もない。
背後を見る。
すると、例の、人垣津波は固定化されたまま――と思いきや、現実の実家の知覚(「近く」の誤変換)にある実在のコンビニの店長さんが、人垣津波の前に、燃えるごみ、ペットボトル、かん・びん、のゴミ箱を置き出し、そのゴミ箱にビニール袋を設置したが早いか、いきなり、自分の方を見た後、にこにこ顔して、その人垣津波の書割りを、まるで一枚の薄い巨大な新聞紙を剥がすかの如く、びりびりびり、と音を立てて、剥がしてしまった。
そして、それを淡々と、慣れた手つきで、燃えるゴミの袋の中にぽいっと入れて、また自分の方を見て、にこにこ笑った後、スマホをいじりながら煙草を吸い出した。
また、前を見ると、自分が、現実で射精したティッシュのゴミ袋を捨てに行った、浮浪者が、警察官二人に、両脇をもたれて、パトカーの中へと補導されていくのを見た。
パトカーのランプが、明滅している。
――多分、現実で、あの浮浪者、保護されて、いなくなったんだろうな、あの桜並木から、と思った。
んで、……また、コンビニのゴミ箱、外に設置し始めたんだろうなぁ、と思った。
再び、三途の川を、よくよく見てみると、渡るべき橋の部分が、いつの間にか、川の咳止め(「堰き止め」の誤変換)的な場所になっている。
そして、その堰き止めされている部分に、弁当箱などが入っているゴミ袋や、酒のビンや、ジュースのペットボトルゴミたちが、引っかかって、だま(「原文ママ」)になっている。
――さらに、よく見ると、ゴミの中には、患者服やら、手術着やら、病院の手袋とか、点滴袋などが、なぜか、混じっている。
後ろの店長さんを見ると、煙草を吸いつつスマホを見ているわけだが、こちらの視線に気づくと、また、にこにこっと笑い、
「あ、片付けの方、お願いしますねぇ」
とだけ、言う。
……ああ、おまえ自身が、片付けろって?
おまえ自身の、ゴミなんだからって? 
――ま、そうだよな。
 
                  Ⅰ-4-3
 
永遠の日曜日。
日差しが部屋中に差し込んでいる。
クーラーはもう、稼働していない。
高まった水位が急激に減ったからか、例の、部屋中を支配していた床下浸水の水たちは、どこかへ消えてしまった。
雨上がりの道路みたいに、ところどころに、わずかな水たまりがあるだけ。
部屋の中央に、ぽつねんと、自分一人が、座布団で寝ている。
例の浮浪者も、喫煙所の二人も、大麻男も、近所の人も、アナウンスの声も、もう、この部屋にはいない(文章としておかしいが、原文ママ)。
文字と、自分のみ。
――そこに、がちゃ、と扉を開けて、現実の姉夫婦が、入ってきた。
「今回は、失敗しないように、努力するから」
と、義兄(「義理の兄」と変換した後に省略)が、姉にキスしながら言う。
義兄(「義理の兄」と変換した後に省略)は、そのまま姉の服を脱がせようとしたが、姉はそれを遮り、
「そんな意気込まなくても、大丈夫だから」
と返す。
……ああ。
なるほど。
……見せつけられるのかぁ、これから、姉夫婦のセックスを、夢の中で。
そりゃそうだろうな。いや、そりゃそうだよ。
人を殺した奴は、365日、人を殺したシーンを見せつけられるべきだし、考えるべきだし、間接的にも、成果がい(「性被害」の誤変換)をした男には、365日、自分のペニスを去勢されるべきだし、365日、自分が最も見たくないセックスシーンを見せられる刑罰を与えられるべきだからなぁ。
二人は、自分の肉体の上をベットにして、パンパン! という音を立てながら、後輩位で、ピストン運動を開始した。
姉は枕にぎゅっと顔をしがみつかせて、義兄(「義理の兄」と変換した後の省略)は、とにかく、淡々と、腰を振る。
しかし、二人のセックスの姿が、自分の意識の視点からは、「点線」でしか見えないのだ。
これまでの登場人物たちは、くっきりとした線をしていたのに。
……もはや、ここまでくると、恥ずかしい、というより、残念だ。
……具体的な描写をするだけの想像力ないことが、本当に、残念だ。
……具体的な描写をするだけの経験が自分にないことが、本当に、ただただ、残念だ。
そりゃ、童貞だからね、自分、41年間、ずっと。
そりゃ、想像が及びつかないから、「点線」になってしまうよね。
……恥ずかしいね。
……ほんと、恥ずかしいね。
……この期に及んでも、まだ、自分が「童貞である」ことの方を、気にしている、ということが、この通俗さが、本当に、恥ずかしいよ。
義兄(「義理の兄」と変換した後の省略)が、射精したっぽい。
その直後、姉の膣からペニスを抜く、と同時に、素早く、部屋にあるテッシュを何枚が取り、膣にあてがい、自分の精液がこぼれないように、押し込んでいる。
――ああ、妊娠しますように、ってことか。
おあつらえ向きに、二人は、自分の体の、お腹のあたりに、生卵を置いた。
――なに、受精卵の象徴ってことか。
……本当に、おあつらえ向きだねぇ。
二人は、「点線」の姿のまま、――要は、自分の想像力が隅々まで及ばないまま、カットバック的、というのか、なんというのか、その後、色々なシーンが描写的に省略されながら、扉を、がちゃ、と開けて、出ていった。
 
                 Ⅰ-4-4
 
すると、――もう、これ以上、せり上がってくることもないであろう、例の人垣津波の、正体、というのか、眺望、というのか、全体像、というものが、ここに来て、ようやく、分かった。
集合写真の図だ。
一人のカメラマンが、何百人もの群衆を、一枚の集合写真にまとめよう、としている図だ。
カメラマンは、なかなか、これ、というシャッターチャンスが訪れないのか、人々に、色々と指示を出したり、それぞれから飛び交う不満や意見などを、巧みに裁いていたりしている。
『すいません‼
そうですよね、はい、dj sodaさん、胸、触られましたもんね? はい、勿論、被害者です‼ 圧倒的に、触った奴が、悪いです‼ 隣の方二人と、あと奥の方、目撃者ですもんね⁉ 後で、裁判沙汰にしてもらって大丈夫ですし、その、怒り顔のままで、構わないので、という言い方も、おかしいですね、そうですね、怒っていらっしゃる顔の方が、こっちのエゴですけどね、とても写真として映えるので、この場だけは、一緒に並んでもらっていいですかね⁉ 
――無理ですか⁉
無理なら、はい、それで大丈夫です、はい‼
前列の皆さんもね、あの集合写真だからって、笑顔の写真じゃなきゃいけないわけじゃなんですから、大丈夫です‼ リラックスして下さいね‼ ――多様性の時代なんでね、はい。
はい⁉ あ、はい、勿論、スマホいじったままで結構ですし、この集合写真の光景自体を、今、それぞれ撮ってもらっても結構ですし、あ、そうです、SNSに、あげてもらって、結構ですので‼ それ、含めて、こちら側の集合写真になりますんで、はい‼
――あ、そうですよ、dj sodaさん! 今、あげてもらって結構ですよ‼ 大丈夫です‼集合写真にきたら、触られた、と。
中列に紛れ込んでいらっしゃる、リアルな外配信系のユーチュバーの方、でよかったですよね⁉ あ、すみません、勝手にカテゴリー付けしてしまって‼ すみません! あの、何か、撮りたければ撮って頂いて結構ですし、なんなら、この集合写真に関して、何か、上手くまとまるようなアイデアが、おありでしたら、むしろ頂けたら、と‼
え?
なぜ、集合写真の場なのに、なぜ、救急車と消防車が、やって来てるのか? ですか。うーん、そうですねぇ、別に、いいんですけどね? いいんですけど、この中にいる誰かが、「集合写真の現場で、意識不明になっている人がいる」なんて、通報したのかもしれませんね、はい。え? あ、「救急車は百歩譲っていいとして、なぜ、消防車が必要なんだ⁉」ですか? ああ、確かに、確かに。しかしですね、こういう言い方をすると、大変、失礼なんですが、そもそも、通報する人の、「火事ですか? 救急ですか?」っていう問いかけ、あれ、どう答えようと、救急隊員側の立場に立てば、信用に値する情報、とはならないんですよ。だから、なんです。――ああ、そうですね、偉そうですよね、国家権力っていうのは。はい、分かります!
はい⁉ たすきをかけて、マイクを握ってらっしゃるその中央の列の方、なんでしょう? 国家権力に文句がある、ということですか⁉ なんでしょう? え? 「海老名市長選挙で、現市長であるうちのまさる氏が、なぜ、集合写真にも来ないんだ!」ですか? ああ、それは、――戦術だと思います、ぶっちゃけ。まず、市長選の前に、同時進行的に、「やりかけ」のプロジェクトを、多数、ぶちあげておくんです。これで、現職の俺が落ちたら、この「やりかけ」のプロジェクト、どうすんの? 俺のコネで建築会社とも上手く話をまとめてたんだよ? っていう人質的戦術が、まず、彼の根本にあるんですよ。かつ、うちのまさる氏は、多選で、もう何年も市長をやり過ぎておりますから、「為政者」として見られていることを自分でも重々承知しておられます。そんな立場の人が、「どうしても、俺が、やりたいんだ!」なんて言い張るのは、明らかに悪手です。さらに、今回は、自分より12個年下の方が相手です。氏家秀太さん、っていう方が相手なんですが、うちのまさるさんからすれば、自ら動くより、「沈黙を守って」何も動かない方が、対立候補の存在感を自然と上手く薄まらすことが出来るし、その場合、対立候補の氏家さんが、動けば動くほど、全力でアピールすればするほど、「沈黙を守って」何も動かないチャンピオンのうちのまさる現市長の方が、「威厳がある」と思われ、全力でアピールしている氏家さんの方が、「小物」に見えちゃう、そんな図式を頭に描いちゃってるんだと思います‼
あの、ちょっと‼ 
ちょっと、いいでしょうか⁉ 後列の方々の意見も聞かないといけないので‼ 先程から、顔色、悪くなっていらっしゃる上に、何か、ぶつぶつ、仰っておられるので‼ え⁉ あ、はい‼ ちゃんとね、法律を超えた賠償を、致します‼ それはもう、皆さん、平等に‼ 
え⁉
ああ、最初に損害賠償を貰った人が、基準になっていくだろ‼ 後になればなるほど、その基準で、損害賠償、低く、見積もられるだろ、って⁉
確かに‼
確かに、そうです‼ そう、見えますもんね⁉ この集合写真に、そもそも呼ばれた人で、回数も多くて、非常にアブノーマルな集合写真という行為をさせられた方から、損害賠償を払っていったら、不平等になりますもんね⁉ 逆に、そもそも呼ばれてなくて、回数も少なくて、別段、アブノーマルな集合写真を撮られていない、け・れ・ど・も、私は集合写真被害を受けた! っていう方から損害賠償を始めた、としたら、m-1の審査みたいに、後半にいけばいくほど、損害賠償額、高くなっちゃいますもんね⁉ 不平等ですもんね⁉ え? 「それより、なんで、今回の集合写真に出席する誓約書、印鑑、要るんだ⁉」ですか? 確かに‼ ほんと、確かに、そうですよね⁉ ぶっちゃけ、言います! 紙の印鑑なら、証拠、残んないじゃないですか⁉ はい、そうです、今の政府がやっていることと、同じですね‼ マイナカードのデジタル化、勧めてきている癖に、内閣の人たち、全然、デジタル化する気、ないですもんね⁉ 彼ら、紙と印鑑のままを望んでますからね⁉ だって、デジタル化したら不正、隠せませんけど、紙と印鑑のままなら、不正がバレないですから!
え⁉ 
そんな、皆のご機嫌を撮っている(「取っている」の誤変換)から撮影が遅くなってんだろ、って⁉ そうですね‼ 今ね、そこの最も前列の真ん中にいらっしゃる、闇バイトで、死刑囚の代わりに集合写真代行で写りに来られた方が、仰る通りです‼ その通りです、すみません‼ あ、いえ、そこも、多様性ですので、犯罪者でも全然、大丈夫なんです‼
本当に、すみません‼ 全て、こちらの責任で、おしております(漢字が分からない)‼あ、はい⁉ あ、彼をここまで送ってきた、タクシードライバーの方、ですよね⁉ あ、え⁉ この集合写真が時間がかかり過ぎたせいで、会社、クビになった、と⁉ ――本当に、申し訳ございませんでした‼
時間、かかっております‼
大前提としてね⁉ 大前提として、全て私の責任、それは間違いないです‼
ただね、こちらも、ここまでの騒ぎになっている以上ね、多少、実情と言いますか、腹を切らないといけない、と思うんです‼ 誠実さとして、私自身の実情を言わせて頂きますと、私自身、こう見えまして、あの、撮影監督ではなく、代行なんです‼
いや、そうです、はい‼ 確かに‼ 確かに、言い訳です、はい、言い訳です‼
ただ、ただですよ、こういう実情を言う事で、皆さんが、批判という形で、一つになれるんなら、私は、誠実さをもって、言い訳をします‼
監督自身が、「これはNGだ!」はちゃんとある人なのに、「これが正解だ!」が、分かっていない方なんです‼
毎回、「自分で撮っても自己満足になるから、お前の偶然性に任せたい!」と言われまして、私、今回みたいにね、色々、偶然性を狙って撮るわけですけど、毎回、監督の元にそれらを持っていくと、却下されてましてね、――あ、いや、庵野監督ではないんですけど、はい‼ でも、まぁ、似たようなもんですかね⁉
で、まぁ、とにかく、あ、そうです! 集合写真、いくら撮っても、使われないんですよ、毎回‼
――そうですね、はい‼ 監督の想像力が欠けてきているんでしょうね‼
皆さん‼
ちょっと一端、休憩にしましょうか⁉
トイレなど、行きたくなっておられる方も、いらっしゃるでしょう⁉ あ、そうですね、はい、私がとりたいです、休憩‼ はい、私がとりたいので、休憩にしましょう、皆さん‼』
そう怒涛の対応をしたカメラマンは、人垣津波たちに深く頭を下げ、三脚のカメラを置きっぱなしにしつつ、がちゃ、と自分の部屋に入ってきて、バタン、と扉を閉め、はぁ、と、でかいため息をつき、自身のメガネを取り、ふきふきと指でこすった後、ちっ、と舌打ちをし、
「――こんなもん、見えねぇ方がいいわ」
と言い、そのメガネを、投げ捨てて、その足でふんずけ、粉々にした。
……いやぁ、相当なストレスだったんだろうなぁ。
そう、自分はそのカメラマンに感情移入していると、どういうことなのか、再び、ドアを、がちゃ、と開けた。
 
                 Ⅰ-4-5
 
そのカメラマンは、部屋の扉を開けっ放しにしたまま、後ろを向き、――それこそ三途の川でのコンビニの店長ではないが、今や全体的に静止した「点線」になっている人垣津波を、まるで壁紙を剥がすように、波頭の上の部分から、びりびりびりびり、と剥がしだした。
その人垣津波をまとめたものを、自身の股間にあてた、つまり、あれだ、ペニスバンドになった。
「――おい、監督さんよ。俺は、お前の『これは違う』に付き合うのは、もう嫌だ」
ああ、――自分が、監督ってことか。
そのカメラマンにとっての、最適な排泄行為だったのだろう、
「うおん‼」
と大声を出しながら、その巨大なペニスバンドで、仰向けに寝ている自分の身体のお腹の辺りを、貫いた。
ペンスバンドは自分の身体を貫いたまま、監督の股間から外れた。
仰向けのまま、ペニスバンドに貫かれた自分の身体は、部屋のちょうど中央の高さまで引き上げられ、――恥ずかしい例えだが、ペニスの十字架にかけられた男のようになった。
と同時に、自分の身体の上に置かれていた、姉夫婦が残した、生卵が、ぶちゃ、という音を立てて、砕け散った。
「ああ、すっきりした」
――死んだってことかペニスの十字架にかけられた男、姉の子供が。
……つまんねぇなぁ。
……ほんと、つまんねぇし、最悪に、恥ずかしい、41年だよ。
……41年も、人生、生きてきたのにさ、なんだい、この作品の、有様は。
……ある意味で、構想41年もかけて、こんな、自分が否定してきた自分の体験を貴重なものとして語ちゃって、しかも、誤字脱字だらけで、文章も無茶苦茶で、それ含めたアイデアもイマイチで、構築性もロクでもねぇ、こんな作品にもならんような作品しか、「遺作」として、作れなかった、ってことだからね、事実。
……はぁ。 
――そのカメラマンの背中を追うように、一人のメイクさんが、次いで、部屋に、がちゃっと、入ってきた。
カメラマンは小声で、
「頼むわ。一応、監督も、『集合写真』の一部だから」
とだけ、そのメイクさんにそっと告げ、部屋から出ていった。
そのメイクさんは、ペニスの十字架にかけられた男状態の自分を、まるで美容室で座っている椅子を極限まで上昇させた客に見えたのか、
「じゃあ、仕上げに入ります」
と言い、自分の頭を、ぐい、と両手で持ち上げた。
なぜかしら、眼の前には、美容室でよく見る鏡があった。
メイクさんは、その鏡に映る自分の姿を、現実の美容師さんのように前かがみでちらちらとチェックしながら、後頭部を切る際に美容師がよくやるように、
「動かないで下さいね」
と真面目に言いながら、髪を切るわけでもないのに、自分の頭を、左、右、真ん中、と勝手かつ強引に動かした。 
――うわ‼
自分の頭が左にひねられると、その鏡には、――自分の顔の造形そっくりの、まだ、幼児の頃であろう、小さな女の子の子供の顔が映る。
自分の頭が真ん中にひねられると、その鏡には、――自分の顔の造形そっくりの、高校生ぐらいの時期の、若い女の子の顔が映る。
自分の頭が右にひねられると、その鏡には、――自分の顔の造形そっくりの、もう、50代過ぎぐらいの時期の、老けた女の子の顔が映る。
……確かに。
……全然、ありえたんだよなぁ。
……自分が、殺された姉夫婦の子供として、この世に生まれていた可能性もあったんだよなぁ。
 
                  Ⅰ-4-6
 
そのメイクさんも、部屋から出ていった。
しばらくして、――誰もいなくなった、この部屋に、一人の小学生ぐらいの少女が現れて、まるでm-1の決勝進出者を読み上げるように、手に持ったスマホをじっと見ながら、次のような発表をし出した。
「――では、今回の、地獄進出者を、発表します。
スマホのブックマーク、
『生月中殺を持っている人 --データがないところを自分で開拓していく人生--』
『宿命中殺を持っている人 四柱推命研究』
『画数大全:19画について』
『【毒親】逃げるために必要なこと』
『九紫火星の特徴-note』
『「AB型」⇒パラドックス型思考』
『第8ハウスの冥王星--占星学--』
『6月19日生まれの運勢 誕生日占い』
『19というカルマナンバー 数秘術』
『ペドフォビア-wikipedia』
の方です。
さらに、自作動画フォルダ、
『〈遺作・未発表〉ポエトリーリーディング『父親殺し』~小説『ナンバー1』のテーマソング~』
『【一週間フレンズ。】奏remix』
『ポエトリーディング「12月のクイズ」 - ニコニコ動画』
『ポエトリーリーディング「微笑」 - ニコニコ動画』
『ポエトリーリディング「人はパンのみにて生くるにあらず」』
『ポエトリーリディング「undercooled-2015remix-」』
『(遺稿)没ネタ 落語『転生橋』
『コント「BALANCE!!」』
『コント「MIXNEWS」』
『コント「ドラクエ・オリエンテーション・ショー」』
『コント「プッチンプリン」』
『コント「哲学的絵描き歌」』
『漫才「ニコニコ動画「とは」』
『漫才『桃太郎(未来ver.)』
『漫談『モーフィング(やかんの話×デモの話×国勢調査の話)』
『落語「クリスマス」』
『落語「怪談話」』
『落語「笑み」』
『落語「話の種」』
『春の落語「なまけ太郎」』
『〈遺稿〉詩小説 『落丁城』あとがき まとめ』
『究極のライト・ノベル『自我.com』まえがき』
『【拡散】新たな「書籍」のモデルを発明!【希望】』
以上です。
以上の、ブックマークの履歴をお持ちの方が、地獄進出者決定となります」
自分にはなんの反応もできないし、反応する気もない。
少女は、それを読み上げた後、純粋に、あれ、もう、誰もいないのかな? と思ったのか、部屋中を好奇の目でちらちら見たあと、
「もう、いないのかなー」
そう、ぼそっと言った後、
「えーと、それじゃ、『プレイリスト「エロasmr」』と、『プレイリスト「インストゥルメンタル」』と一緒に、――彼のグループLINEの”家族”に送信、っと。よし。これで、仕事、終わりっと」

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