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週刊俳句「角川俳句賞落選展2021」を読む

1. 杉原祐之 ウィズ・コロナ

着ぶくれてゐてスケボーでやつて来る
マスクずらせる→づらせる

2. 回り出す 西生ゆかり

柿剥くや午後は漫画と決めてゐて
最後まで誘はれてゐる芋煮会
ゐのこづち怒らぬ人は外の人
階段が送る人体水温む
春の夜の線路は北へ行く鎖骨

3. 水と茶 斉藤志歩

包まれてティッシュに透くる金魚の死
まな板に薄く残れる梨の水
水と茶を選べて水の漱石忌
朧夜のマウスウォッシュの味残る
蝶の来てそれを告ぐべき人の留守

4. ほつそりと 中矢温

踊場にかなぶん落ちてゐる拾ふ
血縁や藻の花音を立てて咲く
夢二忌の濯ぎて白き砂糖壺
秋霖や飲み終へてなほ茶器冷めず
トンネルを抜けて春外套を欲る

5. 舞うて舞うてなんの微熱や蝶の夢 片岡義順

水温む指の先からフェルメール
しばらくは背を向けているヒヤシンス
春暮れて頬のゆるみや観世音
女人高野の塔白骨やおぼろ月

6. メキメキポッ 松尾和希

自どう車がむこうに行って花粉がパッ
あざみの葉はりみたいで見たくない
メキメキポッさーバナナはぼくの朝ごはん
公園のぼくより大きいすすきだよ
はつもうで手をあらうだけでしなかった

7. 死後に聴く落語の落ち んん田ああ

春愁が大阪的な巨看板
その星は鈴虫だけで住むと良い

8. さみどり 恩田富太

色鬼に触れてつめたき空のいろ
田の雪や祖父の匂ひの拭ひきれず
悴み手繋がらぬ血をつなぎあふ
風信子不在の窓を飾りおく
昼寝して思ふ生家の間取りかな

9. ひかる 伊藤波

らくらくときみは跣になりかがやく
洗つても夏シャツひかるだらうか
爪の端に血の在り易しマスカット
マーガリンにジャムは濁つて雁渡し
これほどの蜜柑の届くひとり暮らし

12. 間取り図 川島由紀子

二月の木恐竜少女来て叩く
豆ごはん炊いて活断層の上

13. 紫陽花の門 青島玄武

祭髪もう泣かぬ子となりてをり
無著より世親の少し暑さうな
水鳥を昨日失業した人と
虚空より摑み取つたる嚔かな
世の中にしぶしぶ出づる石鹸玉

16. 溢るる泥 綱長井ハツオ

タロットに裸の多き余寒かな
三月の鞄なんでも入りさう
どれくらゐ握れば拳春うれひ
最後の晩餐やうやう雨は血の粘度
包丁てふ一枚の板研ぐ朱夏よ

17. 呼吸器不全 夜月雨

毛虫焼く煙空飛ぶ夢を見る
立葵諦めてほら手を挙げろ
投げ出した中指の先蝗食う

18. 垂水文弥 去ル・ド・死ネマ

悴むはエウロパの塩買うてより
春の風邪塔を孤独と思ふ距離
レコーディング・スタジオ夏痩が集ふ
こんなにも父は糸瓜を死後のため
父歩くはやさ雁鳴くとほさ

19.泥鰌鍋  クズウジュンイチ

さへずりが滑つてみづがめを伝ふ
犬の眼に月が滲んでよく歩く
凩のカットモデルが夜に来る
手袋が夜を遊んでゐるかたち
ひさびさに会つて白葱焦げてゐる

20. ハードエッジ プランA「御国の宝」

覗き見る点検孔の夜長かな

21. ハードエッジ プランB「汗の笑顔」

汗かいてゐる鯛焼の哀れかな

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