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たくさん支えられて、今があること

木工作家の馬所あゆみです。
2児の母、主婦の傍ら、木彫りで暮らしの道具を制作しています。

現在、twitterでご縁をいただいた、埼玉県北本市にある小声書房さんという本屋さんでの展示に向けて、色々制作している。
色々といっても、展示は11月の予定で、10月の下旬には作品を発送しなければいけないので、できることは限られているけれど、そんな中でも、今まで作ったことがないものを作りたい気持ちがむくむくと膨らんで(時間がないのに!)、大きな刳物を制作し始めてしまった。しかも、切り出しから全部手作業で!(馬鹿かな!?)

思えばこの作品は最初から無理続きで、材料はトウカエデという木の、太めの枝。これもまた、twitterのご縁で知り合った方が2年ほど前に送って下さったものだけれど、当時の自分には固くて、文字通り歯が立たないまま作業部屋の片隅に積んであった。それをふと取り出した所から今回のチャレンジが始まってしまった。当時固かった木は、2年の間にすっかり乾燥し、ますます固くなってしまっていた。それをまずは万力で固定して、縦半分に鋸で半割りにする。バンドソーで半割りにすれば早いけれど、こんな固い乾燥材を縦割にしたらあっという間に刃がなまくらになってしまうので、前回の自分と比較する意味も込めて、最初から手作業でやってみることにした。少し時間はかかったけれど、あれ?できるようになっているぞ?という感覚が嬉しくて、やり切ってしまった。ダイエットにはすごく良い。

次はひたすら鑿で彫っていく作業。これも以前は、ものすごく時間がかかったけれど、意外にいけるぞ?という感覚で、固いなりに順調に彫り進めてしまった矢先、隠れ節(材面から見えない節のこと)にぶち当たる。器の底にあたる部分に節が出てしまったので、諦めようかと思ったのも束の間、単純にもっと深く掘り下げればいいんじゃないか?と思い、手を止めずに先に進める。そのうち側面にも節が出て、それを回避するうちに、ほんとに深い、今まで作ったことのない刳物になった。

深皿の平な底を浚う、という今までやったことのない作業も、普段使わない鑿(でも使えるようには研いであった)がたまたま目に入って、それでやってみたらできた。

自分にとって成長を感じる瞬間は、今までは手も足もでなかった制作ができるようになる瞬間がそれで、そんな時は不思議と、色んな助けが現れると感じている。ふわっと導かれるような風が吹くような。でもその風は、いつも吹くわけじゃなくて、『絶対無理』という過去の自分が拵えた壁を乗り越えてみようかと何となく思って、『これ無理じゃない?』という諦めたくなる気持ちをも乗り越えて、できる自分を無理なく信じられたときに、やって来る。『無理だ、いやだ、やめたい』の向こう側にあるものを見たいと思っているのか、それとも見えると信じているのかはわからないけれど、そんな時の気持ちは、むしろ肝が据わっていて、淡々と作業を進めているから不思議だ。

そして成長とは、自分一人では絶対にできないもの。刃物を研ぎ事の大切さを粘り強く教えて下さり、制作を面白がって木を送って下さり、作品を目にとめて下さって展示のお声がけ下さり、そして応援して下さる方がいたからこそ、今まで作れなかったものが作れるようになったことを、本当に心から感謝している。

技術面でサポート下さった方だけでなく、精神面で鍛えて下さったちゃぶ台返しコーチの内田くみさんにも改めて感謝申し上げたい。twitterのご縁で知り合ったのをきっかけに、コーチをお願いし、何がどう変わったかは説明しきれないほど、今まで目を背けてきたものや向き合わなかったもの、逆に自分の良い所など、多くに気付かされ、今日の自分がある。『無理』と決めつけなくなったのも、そこからの学びが大きいと思う。くみコーチに出会い、投げかけられる様々な問いに向き合うことで、がんばりすぎちゃう部分が少しずつ柔らかく溶けていって、無理してた部分が剥がれ落ちることで、『無理と決めつける』ことがなくなったのは、本当に不思議だ。

そしてそうして一つ一つ、時に投げ出しそうになりながらも積み上げてきた自分も褒めてあげたい(これがなかなか難しい)。自分を信じて、猪突猛進よろしく突き進んできたこと(燃費はすこぶる悪いけれど)を誇りに思って、来年は、ものづくりの原点に立ち返り、ミニチュア制作も始めてみようと思っている。それで展示ができたら、本当に最高だ。でもそれと同じぐらい、幸せの形を探求すること、誰かの想いを形にすることも大事にしていきたい。

話が逸れてしまったけれど、刳物の中でも、我谷盆の素朴で荒々しい佇まいにずっと憧れていて、密かにいつか作りたいな、と思っていたもの。今回そこにぐっと近づけた気がして(できたと思った瞬間に遠のくのだけれど)、すごく興奮した。

刳物のバターケース、弁当箱など。作ってみたいとは思っていたけれど、無理と決めつけていたものが、できるかもしれないと思うと、いてもたってもいられないけれど、まずは展示に向けて、感謝の気持ちを込めて全力を出し切りたいと思う。


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