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”Krakatau”が消えた日

1883年8月27日、インドネシアのクラカタウ(Krakatau)火山で未曽有の大噴火が発生した日です。

クラカタウは、インドネシアのジャワ島とスマトラ島の間にあります。

この島は、今では

このような姿をしていますが、元々は全く違う姿をしていました。

この網掛けの部分が、1883年以降消滅しているのです。

クラカタウが、人類史上最大規模の噴火を起こしたのは、1883年8月27日、インドネシア時間午前10時2分のことでした。
5月から噴火と地震活動は続いていましたが、遂にクラカタウ島が消滅する瞬間が訪れたのです。

クラカタウから西におよそ4800km離れたロドリゲス島(西に見えるのはマダガスカル島です)

の警察本部長であるジェイムズ・ウォレスは、保護領日誌に「26日から27日の午後3時にかけて、3、4時間おきに7-10回、東の方角から銃砲が轟くような音が聞こえた」と記しています。
これは、自然音として到達した最長記録とされています。
同様の轟音は各地で記録されており、その記録を総合すると、この噴火の爆発音は地球上のおよそ13%の場所で聞こえたことになります。
この音は銃砲の音ではなく、クラカタウの爆発音だったのです。

爆発の凄まじいエネルギーは島を吹き飛ばすほどでした。
そして、これにより起こったことは…

①海中に巨大な陥没が生まれた
②膨大な火山灰を含む噴煙は、高度2万7000mまで到達
③噴石が音速の2倍(!)とも言われるスピードで放出され、巨大火砕流が周囲を破壊し、埋め尽くした
④衝撃波が地球を7周した

など、筆舌に尽くしがたいものでした。

①により、周囲の海水が急激に変動し、高さ30mを超える津波を発生させました(発生原因については異説あり)。
3万人を超える死者の多くはこの津波によるもので、2004年のスマトラ沖地震発生以前は、津波による死者数としてはインドネシア最大のものでした。

②は、全世界的な異常気象を引き起こしました。
インドネシアなど、クラカタウに近い地域では一時的に8℃もの気温低下を招いたとされ、北半球全体でもその後数年間、平均気温が0.5~0.8℃低下したとされます。
また、ヨーロッパでは数年にわたり、七色や赤色に光る太陽が観測されました。
画家エドヴァルド・ムンク

が1893年に描いた「叫び」

は、その光景がモデルになっていると言われています。

③により、クラカタウに生息していた生物は全滅。文字通り不毛の島と化してしまいます。
この事は、図らずもその後の生物学の発展にとってまたとない契機となりました。

イギリスの博物学者、生物学者、探検家、人類学者、地理学者であるアルフレッド・ラッセル・ウォレス

は、この噴火以前にインドネシアを探検し、インドネシアには生物相の境界線が存在することを特定しました(いわゆる「ウォレス線」

彼の唱えた「自然選択説」は、「進化論」の提唱者チャールズ・ダーウィン

にも大きな影響を与えています。
このように生物進化の研究の舞台であったこの地域で環境が「リセット」されたことは、世界中の生物学者たちの関心を惹きつけました。
何故なら、「無の状態からどのように環境が構築されるのか」を観察するまたとない舞台だったからです。
それ以前にウォレスが収集した膨大なデータが、研究にも役立てられました。

④の衝撃波は、噴火時に島から約64kmの海上にいたイギリス戦艦「ノーマン・キャッスル」の艦長は航海日誌に「乗組員の半数が耳の鼓膜が破れるダメージを負った。私は妻のことを思った。ついに審判の日がおとずれたと思った」と記しています。
また、ジャカルタ市内の水銀気圧計が、当時の衝撃波を気圧の変化としてとらえています。それによると、最大の変化では目盛りが6.4㎝上昇したとされています。
それを音に例えると、
「フルパワーで回転する戦闘機のジェットエンジンの真横にいる」
ような状態。一瞬とはいえ、凄まじい衝撃波が駆け抜けていったことがわかります。
艦長の日誌は、全く誇張などではなさそうです。

また、この噴火は、世界中に敷設された海底ケーブル網を通して世界中に速報された初めての自然災害とされています。
この時、同時に世界各地の噴火に関連する観測データが収集され、これが世界的な気象や自然災害に対する観測体制構築の第一歩となりました。

さらに、この噴火による異常気象は農作物の不作を招き、植民地支配への不満が高まり、その支配体制を揺るがしていった…という研究もあります。
たかが火山噴火が…と感じますが、世界的な文明・歴史の転換点には、火山噴火が関係していることが実は多いのです。

代表的な説としては

①535年のクラカタウの噴火
・ジャワ島西部の「カラタン」と呼ばれる高度な文明が消滅
・東ローマ帝国の衰退
・ヨーロッパ中にペストが蔓延
・中央アメリカではマヤ文明が崩壊
・イスラム教の誕生

③1783年のアイスランドのラキ火山、日本の浅間山の大噴火
・天明の大飢饉発生(徳川幕府の支配体制が動揺)
・フランス革命勃発

など。
勿論他の要因も関連していますが、これらの事件が起きた要因の一つが火山噴火…と考えると、その影響力は極めて大きいものです。


ちなみに、クラカタウの1883年の噴火は火山爆発指数(Volcanic Explosivity Index, VEI)で言うと「6」に相当します。
そして、この指数は実は「8」まで存在します。
「7」に相当するのが、例えば鬼界カルデラ(アカホヤ噴火)
九州南部が火砕流で消滅し、西日本の縄文文化が壊滅的打撃を受けるなど、日本でも想像を絶する被害が出ました。
それ以外にも姶良カルデラ、ギリシャのサントリーニ島、インドネシアのタンボラ山などがこれにあたります。

さらに、「8」になると…人類の大半を死滅させたと言われるおよそ74000前のインドネシア、トバ湖の巨大噴火、他にもニュージーランドのタウポ湖、イエローストーンなど、地球環境を激変させたレベルの超巨大噴火が名を連ねます。

ちなみに、VEI6は100年、7は1000年、8は10000年に1度の頻度で起きるとされていて、VEI8の噴火は過去10000年では発生していません。
これは、良いことと捉えるべき…なのでしょうか。

というわけで、今日はクラカタウの噴火について取り上げてみました。
日本でも最近、火山噴火に関するニュースが増えつつあります。
まだ「予知」が困難な火山噴火。
念のため、心の準備(と防災用品の準備)はしておきたいものですね。

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