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各国紹介(アジア) シリア

地理に関心がある皆さんへ。
各国地誌を見ると、地理の要素や要因、系統地理を理解する助けになります。地理の学びは物事を見る解像度を引き上げてくれます。

本日の一国は「シリア」。
「肥沃な三角地帯」に位置し、アダムとイヴが降り立ったともされる地。悠久の歴史の名残が各地に残り、シルクロードの結節点でもあります。
では、参りましょう。

シリア=アラブ共和国は、西アジアに位置し、東にイラク、西にレバノンとイスラエル、南にヨルダン、北にトルコが接しています。また北西には地中海に面する海岸線があります。
国土の中央をユーフラテス川が流れ、国土は乾燥した高原地帯が主体ですが、砂漠と山脈、そして肥沃な三角地帯と呼ばれる平野が含まれます。

国土面積はおよそ18.5万㎢。日本のおよそ半分です。
人口は2132万人。国土に乾燥地が多いため、広さの割に人口はそれほどでもありません。

国名の由来はよくわかっていませんが、古代国家「アッシリア」に由来する(アッシリアは「日の出ずる地」という意味で、その言葉は古代ギリシャ語に由来するという説もあります)という説などがあります。

地形は山岳地帯から高原、海岸平野など多岐に渡ります。

まず目につくのが、西側で南北にのびる山岳地帯。
これはレバノンとの国境を形成する山地群にあたります。

この山地群の西側は地中海からの風を受ける山地風上側に当たります。
そのため、内陸部の砂漠地帯とは打って変わって、地中海沿岸は比較的多雨地域です。
この地域には北に向かってオロンテス川が流れており、肥沃な農地を形成しています。

このオロンテス川沿いの平野は比較的人口が多いだけではなく、その利便性から古代には度々外国勢力の侵攻ルートとしても用いられました。

そして、レバノン国境地帯に接し、国土を南西から北東に横切るのがアンチレバノン山脈。

この最高峰は3,000m近く、形成要因はアラビアプレートがユーラシアプレートに衝突したことです。
アンチレバノン山脈の南東側は降水量が少なくなり、アラビア半島の砂漠地帯に繋がります。
また、レバノン国境からヨルダン、サウジアラビアにかけて特徴的な高原地帯があります。それは「黒い砂漠」と呼ばれる場所。その名の通り黒々とした岩石砂漠です。

これは溶岩台地で、周辺にはいくつかの火山も見られます。

最高峰のヘルモン山(2,814m)も南西端のヨルダン国境にあります。

気候帯を見ると、東部地域はおおむね半乾燥の高原地帯。そこにユーフラテス川が流れており、東に進むにつれて乾燥が強くなり、イラク国境は砂漠地帯です。
南西部に位置する首都ダマスカスの1月平均気温は6℃、7月は27℃、年降水量は176mmと、典型的な乾燥気候の地域です。

ちなみに、首都ダマスカスは「迷路型」街路を持つ都市の典型ですが、この街路は外敵の侵入防御だけではなく、入り組んだ路地が日陰を作り、熱風を防いで気温を下げる効果もあるとされます。

シリアにはほとんど森林地帯は見られない一方、耕地がおよそ3割、牧草地が5割を占め、農業利用は比較的盛んです。
これは、やはり国の水資源の8割を賄うとされるユーフラテス川の存在が大きく、先述のオロンテス川も含めて灌漑による農業生産が非常に盛んであることが伺えます。

シリアにとって北東部地域は非常に重要です。
ユーフラテス川河畔の肥沃な三角地帯として農業生産力が高いだけではなく、近年発見された油田がこの地域にあるからです。
シリア内戦時、ISISに同地域を占拠されたことは、アサド政権にとって大きな痛手だったと思われます。
石油資源の存在はシリア経済を大きく好転させた時期もありました。
1989年に石油の輸出を開始する以前は、シリアには有力な輸出品が乏しく貿易収支は赤字でしたが、以降黒字に転換。
しかし、シリア内戦の勃発で国内インフラが壊滅状態になったため、現在は再び大幅な赤字に転落しています。
原油や石油関連製品の輸出も徐々に回復はしていますが、未だ、輸出16億ドルに対して輸入は43億ドルに達しています。

また、シリアはかつては観光大国でした。
シルクロードの結節点に位置するため、キリスト教、イスラム教の文化の結節点でもあり、歴史的に見ても両宗教の遺跡などが多く見られ、美しい街並みが人気でした。

ウマイヤ朝の中心地であった首都ダマスカスは勿論、第二の都市アレッポは、フェニキア人とメソポタミアの交わる場所であり、どちらも多くの観光客でにぎわっていました。
しかし、シリア内戦でアレッポは瓦礫の山と化してしまいました。

交易都市パルミラの遺跡も有名ですね。

今は砂漠にたたずむ廃墟ですが、かつて女帝ゼノビアが作り上げ、ローマ帝国をも恐れさせた大帝国でした。

現在の国民一人当たりGNIは960ドル。徐々に回復基調にあるとはいえ、シリア内戦では国富が1兆ドル(150兆円)ほども失われたとされ、GNIも一時は7割も減少したと言われています。

国内の民族はアラブ人が9割と圧倒的ですが、少数民族にクルド人やアルメニア人がおり、内戦では民族間の紛争も絶えません。
国外へ逃れた難民の数は680万人ほど、国内避難民が500万人ほどいると言われており、これはシリアの総人口から考えると異常な値です(シリアの総人口は2130万人ほど)。

なお、少数民族のクルド人と言えば、およそ2500万人の人口を抱える「国を持たない最大の民族」と称され、シリアだけではなく、イラクやトルコにも居住しています。

宗教はイスラム教スンナ派が8割と圧倒的ですが、1割ほどキリスト教徒も居住。
レバノンはキリスト教徒が4割、イラクが3%ほどなので、その間にあるシリアはそのやや中間の割合と言えます。古くはキリスト教の文化も多く見られた場所でもあり、信者数はそれなりに多くなっています。

肥沃な三角地帯と油田、そして各地の結節点という発展の要素は内包するシリア。
観光資源も豊かだったこの国を、再び多くの人々が安心して訪れることができる日はいつになるのか。
1日も早く、平和が戻ることを願ってやみません。

地理に関する動画を投稿しています。
各国紹介、一問一答、世界の奇妙な国境線、地図の歴史、国当てクイズ(ショート)などのシリーズを進めています。
また、地理系の偉人の業績についても取り上げていく予定です。
是非ご覧ください。

https://www.youtube.com/channel/UC5Oz3Y6qHQShwt4eOdW1jRw


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