見出し画像

各国紹介(ヨーロッパ) アイスランド

地理に関心がある皆さんへ。各国地誌を見ると、地理の要素や要因、系統地理を理解する助けになります。
地理の学びは物事を見る解像度を引き上げてくれます。

本日の一国は「アイスランド」
ヨーロッパの北西に浮かぶ島国。国土を二分する広がる境界に位置し、多くの火山が分布する「火と氷の国」です。
では、参りましょう。

位置
国旗
国章

アイスランドは北大西洋と北極海、そしてユーラシアプレートと北アメリカプレートの間に位置する、北ヨーロッパに属する島国です。
世界最北の島国で、面積はおよそ10万㎢(本州の半分くらい)。
首都レイキャビクは北緯64度付近に位置し、同じ緯度はアラスカやカナダのユーコン準州等を通る、日本よりははるかに北の地域にあります。
人口はおよそ34万人で、ヨーロッパで最も人口が少ない国でもあります。

島は、ユーラシアプレートと北アメリカプレートの間を走る大西洋中央海嶺の北部地域の最北端にあります。

プレート同士が逆向きに動く、いわゆる「広がる境界」が海面上に現れている場所になります(通常は海底にあり、「海嶺」と呼ばれています)。

国名は、その名の通り「氷の国」の意味。
ノルウェー語で氷の国を意味する「イスラント(Island)」の英語読みです。
ちなみに、アイスランドの国名の由来は諸説あり、その中に、グリーンランド島と絡めて、「自然豊かなアイスランドに入植した人達が、他の入植者を排除するため、あえてアイスランドと命名。グリーンランドの入植者を増やすためにあえて「グリーン」と名付けた」という俗説がありますが、どうもアイスランドについてはそれは違うようです。

初期の入植者の一人が、山に登った際に氷河を発見。そのことが由来となっていると言われています。
現在も、南東部を中心に、国土の1割は氷河で覆われています。

アイスランド島の上を走るプレートの裂け目は、「ギャオ」と呼ばれる独特の地形となっています。

ギャオ

また、この裂け目には活火山が分布しており、現在も度々激しい噴火を起こしています。
2010年にはエイヤフィヤトラヨークトル氷河において大量の火山灰を噴出する噴火が発生、ヨーロッパの航空路線が大混乱したこともあります。
また、噴出する溶岩は玄武岩質で流動性が高く、同国の国土は8割以上が溶岩台地を含む火山性の地形で占められています。

地形図を見ると、アイスランド島全体が巨大な台地のようになっていることがわかります。
最高点は南東にあるクヴァンナダルス・フニュークルで、エーライヴァヨークトルのカルデラの一部。標高は2,106mです。

地形図


ちなみに、南東部には巨大なヴァトナヨークトル氷河があり、大きさは8,000㎢(ロシアのセヴェルニー島氷河に次いで、ヨーロッパで2位)。

ヴァトナヨークトル氷河

他に特徴的は、西部にフィヨルドが見られることが挙げられます。
緯度も近いスカンディナビア半島と原理は同じで、西風が湿潤な風を送りこみ、島の中央部は山地になっているため、フィヨルドは西側に分布しています。

島の中央部は火山性地形で気候も厳しいため住みづらく、都市は沿岸部に集中。首都レイキャビクに人口の7割が集中しています。
上の地形図では、茶色の部分が標高500m以上の高原地帯ですが、全く都市がないことがわかります。

このような火山性の地形は、アイスランドに恩恵ももたらしています。それが豊富な地熱と温泉。
レイキャビクの名は、「湯煙の立つ湾」という意味。
また、英語の「間欠泉(geyser)」はアイスランドの「グレートゲイシール(The Great Geysir)」が語源になっています。アイスランドは「火(火山)と氷(氷河)、そして湯煙(温泉)の国」と言えます。

北欧神話の世界観でも火と氷の二極が描かれていますが、これはアイスランドの風景そのものです。


気候は位置する緯度(レイキャビクは北緯64度で、すぐ北は北極圏)にも関わらず比較的温暖です。

気候分布

温暖な北大西洋海流が周囲を流れているからで、夏は湿度が高く温暖、冬の冷え込みも緯度の割にそこまで厳しくありません。
レイキャビクの1月平均気温は0℃、7月は11℃、年降水量は850㎜。
ヨーロッパ最北端の首都ですが、冬の気温が比較的高いことが特徴的です。
また、寒気と暖気の境界に位置するため、風が強くなる時期があることが特徴。

気候帯の図を見ると南側にCf(温帯かつ湿潤)気候があります。
この地域は南風が強く吹き込み、場所によっては降水量が4,000mm近い地域も存在するなど、アイスランドの中でも特に温暖で多雨な地域です。
レイキャビクをはじめ、多くの都市があるのもこの地域です。

発電は水力7割、地熱3割と非常に特徴的。
再生可能エネルギー100%で電力を賄っている点も特徴です。

経済は、まず農業について。
土地は全く耕地には向かず、農業は牧畜が主体です。
また周囲に好漁場があることから漁業国でもあります。現在でも漁業は主要産業の一つ。

イギリスとの間ではタラの漁場を巡り、1958年~1976年まで複数回にわたり「タラ戦争」と呼ばれる紛争があったことも。

かつては第一次産業主体でしたが、1940年代以降、食品加工業、金融サービス業、観光業など産業構造の大きな転換を図り、さらに自然エネルギーが主体で電力の安い利点を生かしたアルミニウム精練工業も見られます。
これは、カナダやノルウェーなど、水力発電が盛んな国で多く見られる傾向です。
観光業も盛んで、現在では世界屈指の生活水準を誇ります。

国民一人当たりGNIは62500ドルほどと非常に高く、北欧モデルの高福祉政策も行っています。
とはいえ浮き沈みはあり、2008年の世界金融危機でデフォルト(債務不履行)に陥り、IMFや北欧諸国から支援を受けたものの、3年ほどで回復軌道に復帰しています。
また、男女平等で知られ、ジェンダーギャップ指数では長らくトップに立ち、国会議員の半数が女性。
ケルトやヴァイキングの文化も受け継ぎ、古来から民主的な文化を持つこともその一因と言われています。

民族はアイスランド人が9割以上、言語もゲルマン系のアイスランド語、宗教はプロテスタントが8割ほどです。
アイスランド語は、その土地の隔絶性の高さから他地域の言語のように多言語の影響をあまり受けていません。
そのため、北欧地域の古語、古ノルド語の特徴を色濃く受け継ぎ、他の北欧言語と互いに通じづらい一方で、北欧神話の読解がしやすい特徴があります。

火と氷、そして湯煙の国。経済水準も高く治安も比較的良好。大地のエネルギーを間近に感じることができる国です。
日本人も大好きな温泉がふんだんにあり、世界最大の露天風呂、ブルーラグーン(この「温泉」自体は、地熱発電所の排熱を含む水たまりで、シリカが融け込んで乳白色になっています)も有名ですので、観光で訪れてみてはいかがでしょうか。

今日はこれくらいで。


地理に関する動画を投稿しています。
各国紹介、一問一答、世界の奇妙な国境線、地図の歴史、国当てクイズ(ショート)などのシリーズを進めています。
また、地理系の偉人の業績についても取り上げていく予定です。
是非ご覧ください。


サポートは、資料収集や取材など、より良い記事を書くために大切に使わせていただきます。 また、スキやフォロー、コメントという形の応援もとても嬉しく、励みになります。ありがとうございます。