見出し画像

各国紹介(南アメリカ) ペルー

地理に関心がある皆さんへ。
各国地誌を見ると、地理の要素や要因、系統地理を理解する助けになります。地理の学びは物事を見る解像度を引き上げてくれます。

本日の一国は「ペルー」。
南アメリカ大陸中西部に位置し、かつてはインカ帝国やナスカ文明が栄えた地。「最も豊かな地」とも言われました。
では、参りましょう。

位置
国旗
国章

ペルーは、南アメリカ大陸の中央部付近、太平洋岸に沿って南北にのびています。最北端はほぼ赤道直下。国土の大半は南半球に属します。
面積は128万㎢ほど。人口は3,300万人ほどです。
海岸線の長さは3,000kmに及びます。
海岸線は比較的直線的であることを考えると、南北にかなり長いことがわかります。

国名についてはいくつか由来については諸説あり、1つは16世紀のサン・ミゲル湾(パナマ東部)の首長(ビルー)の名から来ている説。他には、同じく16世紀、スペイン人がこの地に到達したとき、先住民と遭遇した場所の地名(ピル)から来ているという説、先住民の言葉でパナマ以南の太平洋岸を指す言葉(ビルー)に由来するという説など。

ペルーの地形はかなり独特。

アンデス山脈を抱える太平洋岸の国というイメージがありますが、アンデス山脈の東側、アマゾン盆地側にも広大な領域があります。
アマゾン川の上流部にはペルーの領域が含まれ、その地域には広大な熱帯雨林が広がっています。
土地利用を見ると60%が森林地帯、15%が放牧地(高山地帯の牧場)、農地は5%ほどに過ぎません。
最高峰はアンデス山脈に属するワスカラン山の南峰(6,768m)です。

この山は花崗岩質の山で、火山ではありませんが、ペルーは環太平洋造山帯に属する地震の多い地域。
そのため、この山も地震で大きく崩れ、その岩石が雪崩となって山麓の集落を襲って壊滅的な被害を出したこともあります。

ペルーの自然地域区分は
・内陸のセルバ(熱帯雨林)約60%
・アンデス山脈で構成される高地(約30%)
・太平洋岸の低地(約10%)
で構成されており、各地域で気候や植生もかなり異なります。

植生分布
気候分布

気候を見てみると、まず、ペルーは赤道直下から南緯18度まで南北に広いため、緯度の差、フンボルト(ペルー)海流の影響、アンデス山脈の存在(標高差や山地の風上、風下)に影響されて多様な気候が見られます。
気候因子の考察にはうってつけの国であるとも言えます。

ちなみに、この付近はかつて、アマゾン川が「太平洋に」そそぐ火口部であったと考えられます。
アマゾン盆地は、アンデス山脈が急激に隆起した際、太平洋側に流れ出ていたアマゾン川が行き場を失い、東にあふれるまでの間、巨大な湖になっていました。
そのため、現在も盆地内で自らの蒸散させた水蒸気が雲となり、再び降り注いでいることから、内陸部まで熱帯雨林が広がっています。

このことから内陸は、熱帯雨林気候(Af)や弱い乾季のある熱帯モンスーン気候(Am)が優勢。
一方でアンデス山脈は標高が高いことから、一気に気温と降水量が低下します。山地の多くはツンドラ(ET)気候ですが、標高が比較的低い一部で、温帯(C)気候の地域もあります。
これらの地域では標高が500m~1,500mくらいの低い所ではコーヒーなどの栽培、標高が上がると、リャマやアルパカの放牧が行われれています。

恐らく、多くの方のペルーのイメージはこの地域の様子ではないでしょうか。

標高が500mを下回ると、一転して乾燥気候が優勢になります。
これは、沖合のフンボルト海流の水温が低く、太平洋では雲ができにくい事、また、東にはアンデス山脈があり、こちらからもアマゾン盆地からの湿度の高い風の吹き込みが遮断されていることによります。
ただ、海霧は発生しやすく、カラッと常に晴天というわけでもありません。

ペルーの国土は、緯度で見れば熱帯に属する地域。
そのため、標高が高い地域は「常夏」から気温が下がり、気温の年較差が小さく、春のように過ごしやすい気候(常春気候)となります。
例えば、沿岸部に位置する首都リマの気候は1月平均気温が22.6℃、7月は17℃。しかし年降水量は2mmほどしかありません。
一方、アンデス山中にある「高山都市」の代表格で、標高3,400mに位置するクスコは1月平均気温が12.6℃、7月が10℃、年降水量が700㎜ほど。

ちなみに植生が少ない地域では特に気温の日較差が大きく、その対策としておなじみの民族衣装、ポンチョがあります。
また、高山では紫外線対策のために帽子も欠かせません。

伝統的な様々なポンチョ

人々が多く集まったのは、主に標高500m前後の地域。天水(雨水)は少ないものの、灌漑を行えば農耕が可能だったことから、オアシスや河川周辺に人々が集まっていました。
幸いアンデス山麓は、氷河を水源とする河川から豊富な水が供給されます。

一方でインカ帝国の首都だったクスコは標高3,400mに位置しますが、この地域は寒冷ながら、山地の山麓にあるためやや降水量も多く、優れた建築技術や灌漑技術がインカ帝国の隆盛を支えたと考えられます。
インカ帝国を支えた作物の一つが、高冷地で育つ作物、ジャガイモです。

産業は鉱業が主体。石油や天然ガスなどのエネルギー資源をはじめ、貴金属や亜鉛なども産出。銀はメキシコに次ぐ世界2位の産出量を誇ります。
また、ペルーと言えば漁業。アンチョビー(カタクチイワシ)の話は有名。

ペルー沖では深層水が上昇してくる(湧昇流)場所があり、栄養分が多いことから好漁場になっています。
そこで取れる主な魚種がアンチョビーで、一部は食用にされますが、肥料として用いる魚粉(フィッシュミール)としての用途も非常に多くなっています。
日本の輸入品目の中にも、「魚の粉」という珍しいものがありますが、これのことです。
また、エルニーニョとラニーニャの年で漁獲量が大きく変わる(エルニーニョでは減少、ラニーニャでは増加)ことも特徴です。

古代遺跡などをはじめとする観光資源にも恵まれ、その収入も経済に大きく貢献しています。
一方で、観光客が多いことによる遺跡の劣化も問題になっており、一部では立ち入りに制限をかけるなど、遺跡の保護と観光の両立を模索しています。

マチュピチュ

発電については、アンデス山脈の地形を生かした水力(55%)とエネルギー資源を産出するので火力(40%)がバランスよく使われています。

国民1人当たりGNIはおよそ6,800ドル。
民族構成は、先住民が45%、メスチーソ(先住民と白人の混血)が40%、白人が15%、わずかにアフリカやアジア系の人々となっており、アンデス地域の典型的な構成と言えます。
宗教は元スペイン植民地だったこともあり、キリスト教カトリックが優勢。

また、この国にはかつて日本人が多く移住したため日系人も多く、かつては日系人の大統領が誕生したこともあります(アルベルト・フジモリ氏)。

そういった意味でも、日本ともゆかりの深い土地です。というわけで、アンデス諸国の一角と言われるペルー、しかし、意外にアンデス一辺倒の国というわけではなく、地形も気候もかなり多様性に富んでいると言えそうです。
今日はこれくらいで。

地理に関する動画を投稿しています。
各国紹介、一問一答、世界の奇妙な国境線、地図の歴史、国当てクイズ(ショート)などのシリーズを進めています。
また、地理系の偉人の業績についても取り上げていく予定です。
是非ご覧ください。


サポートは、資料収集や取材など、より良い記事を書くために大切に使わせていただきます。 また、スキやフォロー、コメントという形の応援もとても嬉しく、励みになります。ありがとうございます。