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【読書感想】「きよしこ」 重松清

読了日:2012/6/27

語り手の元に1通の手紙が届く。
『テレビ番組であなたのことを見て、吃音があることに気付いた。
小学校低学年の自分の息子も吃音で、いつもうつむき、元気がなく可哀想でたまらない。
息子に励ましの手紙を書いてくれないか』
という内容のもの。
語り手は悩んだ末、手紙を出さなかった。
かわりに、ある少年が主人公の物語を作った。
これは、吃音をもつ少年の、小学校から大学生になるまでの生活と戦いのお話。

重松清は初めて読みました。
すごく良かった。

少年の物語は、悲しくて、悔しくて、悲しい。
でも温かい。
ドラマチックなことが起きるわけでもないし、特別な事件もない。
無駄に感情的でもないし、淡々と少年の生活の断片が切り取られているだけ。
でも泣ける。

「何に泣いたの?」って聞かれたらうまく説明できないのだけど、深いコンプレックスをもつ少年の葛藤とか戦いとか諦めとか。
文章にすると陳腐だけど、そういうのがズッシリくる。
でも読後感は比較的爽やか。

息子が吃音だったらどうだろう?
吃音以外でも、なんらかのハンディキャップをもっていたらどうだろう。
私は母としてどう振る舞うのだろう。
可哀想だと思うだろうし、なんとかしてあげたいと思うのだろう。
産んでしまった自分を責めることもあるだろう。
きっとそう思うのは仕方ないし、誰がどう言おうがそんなふうに思う気持ちは止められないのだろう。

でも、母も息子も、そういう感情とか葛藤とか悔しさとかもひっくるめて、1人で乗り越えるしかないんだろうな。

周囲の理解は大事だけど、理解しない人もたくさんいることを覚悟しなければいけないし、
母親は「なんとかしてあげたい」と思ってしまうけど、なんとかするのは結局本人なんだと気付いていかなければいけない。歯がゆいしつらいけど、母親は温かく、でも淡々と冷静に、見守っていくしかないんだろうな。
だから語り手は、安易に手紙で励ますことをしなかったんだろう。

なんて色々なことを考えさせてくれる、とってもステキな作品だった。

ワタクシ的名文

「君はだめになんかなっていない。ひとりぼっちじゃない。ひとりぼっちのひとなんて世の中には誰もいない。抱きつきたい相手や手をつなぎたい相手はどこかに必ずいるし、抱き締めてくれるひとや手をつなぎ返してくれるひとも、この世界のどこかに、絶対いるんだ」
「あたりまえじゃろうが、通行人いうても、このお話の中でたまたま脇役じゃったいうだけで、そのひとにとっては自分が主人公なんよ。そうじゃろ。
みんながほんまは主人公で、たまたまお話の中で主人公と脇役に分かれただけのことよ。

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