【読書感想】殺人犯はそこにいる 清水潔

この本の概要

5人の少女が姿を消した。群馬と栃木の県境、半径10キロという狭いエリアで。同一犯による連続事件ではないのか?なぜ「足利事件」だけが“解決済み”なのか?執念の取材は前代未聞の「冤罪事件」と野放しの「真犯人」、そして司法の闇を炙り出す―。新潮ドキュメント賞、日本推理作家協会賞受賞。日本中に衝撃を与え、「調査報道のバイブル」と絶賛された事件ノンフィクション。
「BOOK」データベースより

なんて本を読んでしまったんだ。

読み始めたら気になってしまっていっきに読んでしまいました。こんな本に久しぶりに出会った。
今のところ、2020年に読んだ本のなかでのおすすめランキング1位。
本当にすごい本。圧倒されます。

以下、それなりにネタバレを含みます。注意してお読みください。

この本は、報道記者・清水潔さんが書いた、渾身のノンフィクション。
17年間に、北関東の半径10㎞ほどの範囲で起きた5件の幼女誘拐殺人事件。このうち「足利事件」と呼ばれる事件だけ犯人が逮捕され、容疑者菅谷さんには刑務所に入れられていました。
が、この足利事件の逮捕にさまざまな疑問を感じた著者は、独自に地道な調査をずっと続けます。報道や記事で疑問を訴え続け、世論を動かし、司法や国を動かし、絶対だと思われていたDNA型鑑定の不完全さを暴き、再鑑定の道までつかみ、とうとう無実を証明することに成功。容疑者は晴れて無実として釈放されます。

が、冤罪だったということは別に犯人がいるわけです。その犯人は、国のさまざまな思惑が絡み、今現在も逮捕されていません。著者は独自の調査の結果、この人が犯人だろうというのを調べ、その情報を警察にも提供しています。しかし警察は動かない。なぜ…。

警察や国の機関のおそろしさ

街を守るヒーローであるはずの警察も、一人一人は解釈と思い込みを持つ不完全な人間なわけで、そこに階級とか国家の威信が絡むと、正義が正義ではなくなり、人の人生を大きく狂わせるあやまちを犯す。
公的機関の不完全さをここまで事実としてまざまざと見せつけられると、なんというか「いったい何を信じたらいいの…」という気分になりますね。

著者はこの足利事件についても調査を進めますが、他の冤罪が疑われる事件についても調査を進めます。冤罪以外にも桶川事件と呼ばれるストーカーによる殺人事件についても書かれているのですが、それらの事件のいずれでも、犯人をでっちあげるような警察の聴取のやり方や杜撰な捜査には、今と時代が違うとはいえ本当にビックリするほどでした。

どうしてこんなことになってしまうんだろう。
犯人は目星がついているのに…。
国の威信維持や不都合な過去のミスを隠すために、5人も幼い子を殺害した犯人は、今ものんきに週末パチンコしながら生きている。
被害者の家族たちの心情をも無視して…。

警察と報道機関のあり方

国と報道機関のあり方みたいなのも、初めて知ることも多く、「ニュースもだいぶといい加減なんだなー」と改めてわかりました。国や公的機関からの情報って確かなスジっぽいので、そういう担保がある情報を報道機関は使いたがるんだけども、公的機関だから正しいっていうワケでもないというのがものすごくまざまざと書かれていておどろきました。

「桶川ストーカー事件」では、被害者の女性は告訴状まで出して身の危険を訴えていたのに、警察はなかなか動かず、結局、その女性はストーカーによって殺害されてしまいます。
訴えを聞かず動かなかった警察はその非を隠すため、報道機関には「あの女性は水商売をしていたらしい」とかでっちあげ情報を渡して、「女性も悪い」みたいな書かせ方をしたりしてたんだそうです。ひどすぎる…。


足利事件でも、報道機関には「家宅捜索したらロリコンなアダルトビデオがたくさんあった」という情報を渡していたんだそうです…。(著者の方は、調査をはじめて、実際にそれらの持ち物のビデオを全部チェックし、ロリコンなモノがひとつもないことを確認しています)

ひどすぎじゃない?
まじで正義はどこにあるんだよ。

ワタクシ的名言

「菅谷さん。あえて『さん』をつけさせていただきますが、菅谷さんが無罪なら、早く軌道修正をしてほしい。捜査が間違っていたんであれば、ちゃんと謝るべきです。誰が考えたっておかしいでしょう」
そしてこう続けた。
「ごめんなさいが言えなくてどうするの」

被害者家族の方が、検察官に対して言った言葉です。
調査の結果、さまざまな検察や警察への疑問点が出てきたことについて、子どもを諭すように被害者家族がこう訴える。これ以上の破壊力はないのではないかしら。

「あなたは、私のことを人間性が無いといった。でも人間性がないのはあなたの方ではないですか!」
私は悲痛な叫びに、ペンを握ったまま圧倒されていた。

無実を証明するための法廷で、菅谷さんが当時取り調べにあたった検事に言い放ったことば。これも、半沢直樹級の破壊力。

この検事の人、型どおりの説明に終始して法廷で謝らなかったんです。
いろんな立場があると思うし、国の威信とか隠したいこととかあるんだと思うんだけど、自分の仕事の結果、17年もの間、無実の人を容疑者として刑務所に入れていたのに、どういう気持ちでこの菅谷さんの言葉を聞いていたんだろう。どうして謝罪できないんだろう。

もう読んでて圧倒されて、いっきに読み進めてしまいました。
これは本当に読んでほしい。そして多くの人に知ってほしい。
ちょっとネタバレ要素多くてスミマセン。でもネタバレ要素があっても、読んで絶対に後悔しない本です。

どうか、まだつかまっていない犯人がいつかちゃんとつかまりますように。そして遺族の方々が安心できますように。

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