ふたつにひとつ-ペンダントをつくる編-

詰んでいる。あなたは何になりたいですか?と聞かれたら、食い気味に千手観音と答えるくらい手が足りない。

クライアント先に顔を出す予定は把握していた。けど、その日社長の誕生日パーティーをするなんて聞いてない。

聞いてしまったからには、贈り物をしたい。
というわけで、すでにギッチギチだったスケジュールにプレゼントを作るというミッションが立ち上った。
明後日の朝までに仕上げなければパーティーに間に合わない。
作るか、作らないか。これは究極の2択だ。
私は自分の首を絞めることにした。

先様の名前にちなみ、大急ぎでデザインを決める。目標は、自分がつけて恥ずかしくないクオリティで差し上げること。

まずは切り出し。
銀と銅の板を糸ノコで切り、できる限り形を合わせる。本来はもっとキレイに合わせるほうがいい。けれど作り手が私であり、何よりタイムリミットが目前なので、ハイクオリティは望めない。
隙間は、なるべく融点の高いロウ材(接着剤)で埋める作戦でいく。

富士山は 雰囲気だけで 押し通す

次に、切り出した銀と銅をひっつける。
金属同士をひっつけることを「ロウ付け」といい、ひっつける金属の隙間にロウと呼ばれる金属を溶かし込んでいく。
ロウの融点は700〜800度。銀の融点は約960度なので、銀が溶ける温度になる手前、ロウだけが溶ける温度まで熱してひっつける仕組みだ。

ロウ付けで 失敗すると やりなおし

接合する部分に酸化防止剤(フラックス)を塗るのだが、身体に傷があったりして、フラックスが触れると超痛い。
もし目に入ったら、本番直前の歌舞伎役者でも思いっきり顔洗うと思う。

ロウは多くても少なくてもダメで、私はいつも多いほうで失敗する。
失敗しやすいポイントを知っているのだから、対策すればいい。

失敗を 学びにかえず くりかえす

今回も安定の失敗。お決まりすぎて落ち込む気持ちもわいてこない。

多すぎると、流したい場所以外にもロウが流れてしまい、削る手間が増える。
でも、ロウが少ないと、銀と銅の境目に隙間が開いてしまう。

ロウは多めか少なめかの2択。
あとで隙間を埋めるほうが絶対めんどくさいので、つい多いほうの失敗を選びがち。
当然正解のほどよき量のロウを使えば、その後の手間が省かれキレイになるのだが…成功を目指すマインドセットが落ちてたら多分私のものなので、拾った方は連絡ください。

ハミ出たロウを削ると、いい感じになった。
と、ここで欲が出た。

月を、月明かりを添えたい…!

やめておけ 心の声を ミュートする

時間がないときに要らんことをすると、大体イタい目に遭う。
けれど、本当は月を足したかった…と思いながらプレゼントするのは嫌だなぁ。また2択を迫られる。結果、急遽、月を削りだす。

だから最初にしっかりデザインを決めたり、事前に手順をシュミレーションしたりが大切なのだ。
いつも心に刻むのに、懲りずに繰り返すところからして、私の心のノートは水に溶ける紙製らしい。
デザイン変更したことで切ったり貼ったり追加したりといった細かい作業が山盛りポテト。アナコンダのように私を締め上げる。

その後、せっかく作った月を一度溶かしてしまい、やっぱりやめておこうかとも思った。
が、やはり2択した結果、2代目を制作するなど散々な目に遭いながらも、パーツを作っていく。それでも、いつもよりはスムーズかも。
ここまできたら、もう後戻りはしたくない。

ここからは 差し戻しには 応じない
いい感じ あとはひたすら 磨くだけ

あとは磨くだけ。これもめちゃくちゃ手間はかかるが、今日中には終わるはず。
今日中に仕上げて、明日はチェーンを選んだり、ラッピングをしたりといった時間に充てたい。
誕生日パーティーとはいえ、一応仕事で行くわけなので、できれば仕事も進めて、優秀な人材を演じたい。

ここで最後の2択。
Noteを書くか、磨くか。
今までの過程を見れば、私がどちらを選択するかは明白だ。
こうして私は、いつも追い立てられている。

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