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狂ったファクトチェックを試みたら、いきなり終わった話。

神真都Q(やまときゅー)の幹部が逮捕されたのは記憶に新しい。神真都Qとは、いわゆる陰謀論のQアノンの派生系と言ってもよいだろう。

そこにいろいろなスピリチュアル系、オカルト系などの論を合体しながら、徐々に信者を集め、拡大し、カルト化していく段階で、幹部逮捕で小休止、といった段階であろう。神真都Qについてはこちらの記事が非常に参考になるので、より深く知りたい方は参照されたい。

神真都Qの直接的な行動として有名なのは、新型コロナワクチン接種会場への妨害であるが、その下地として様々な陰謀論があってのこととなる。

ここではそのひとつ、「DS(ディープステート)」に焦点を当てる。DSとは、「闇の政府」と呼ばれ、一般にある政府とはまた別に暗躍し世界を牛耳る政府であるという陰謀論の一種である。

陰謀論を信じる一般市民のSNSにも数多く登場する言葉だが、陰謀論ウォッチャーの度肝を抜いたのはこのツイートかも知れない。

仮にも国会議員が、DSに大真面目に言及しているのである。まさに目が点になるとはこのことであろう。

そこで、このnoteの本分に立ち返りたい。ファクトチェックである。DSを大真面目に信じたり論じたりしている現実に対して、DSが存在するのか否か「ファクトチェック」してみようと思う。

ここでは大義でのDSには触れない。例えば日本には内閣情報調査室があり、そういった情報機関までもをDSとみなすことはしない。そこの境目がまず曖昧であるのがファクトチェックの難しさなのだが、もっと狭い意味での「現政府を覆す存在としてのDS」と定義したい。

先に結論から言ってしまおう。

「DSが存在しないという証明はできない。DSが存在するというのは根拠不明」

「ないものをない」と証明するのを、俗に「悪魔の証明」という。

否定的な命題の証明が困難であることを比喩的にいう言葉。例えば、「雪男が存在する」ことは、雪男を1体発見すれば証明できるが、「雪男は存在しない」ことを証明するには、地球上をくまなく探してどこにもいないことを示さなければならない。これは事実上不可能であることから、議論の一般的なルールとして、否定側に立証責任はないとされる。

コトバンク

いきなりおしまいである。

まず、先に述べたようにDSの定義が非常に曖昧であることからファクトチェック対象を定義するのが難しい。

仮に定義したとしても、「ある定義のものをこれは違うとチェックする」のが普通のファクトチェックだとすれば、「定義できないものが存在しないことをチェックする」のはファクトチェックとしてはこれは無理難題となる。

先にも述べたが「悪魔の証明」となるからだ。せいぜい、DSを信じることに対して「根拠不明」というレーティングを付けることしかできない。それか「判定留保」、もしくはDS自体が事実でなく論であると定義すれば「判定対象外」となる。ファクトチェックのレーティング基準については下記を参考にしている。

これらから、今回はDSを例に取ったが「陰謀論」をファクトチェックする難しさを感じてもらえたかと思う。少なくとも日本国内のファクトチェックでは、陰謀論に対するはっきりしたファクトチェックはおそらくないのではと思う。海外の事情(特にアメリカ)については、ウォッチしきれていないのでわからないが。

世の中には陰謀論よりも優先してファクトチェックしなければならない問題も数多く、仮に陰謀論をファクトチェックしようにも優先順位は下がるだろうと思う。日本国内に限って言えばリソースは全く足りていない。かなり大きな話題からファクトチェックの手を付けざるを得ない。

陰謀論というのは、入り口さえ気を付ければ取り込まれる機会は減る。それは情報リテラシーとなる。ここで情報リテラシー教育を手掛ける下村健一氏の提唱する、情報を受け取るにあたっての「四つのハテナ」を紹介したい。

1:[ ソ ] 即断しない... いったん止める習慣づけ
2:[ ウ ] 鵜呑みにしない...意見印象を峻別する力
3:[ カ ] 偏らない..ほかの見方、考え方もありうると思いつく力
4:[ ナ ] 中だけ見ない...スポットライトの外側に隠れているかもしれない情報を、想像し見いだす力

東洋経済オンライン

この記事は子ども向けの教育を題材に取っているが、この「四つのハテナ」つまり「ソ・ウ・カ・ナ」は大人にも十分有効だ。事実、神真都Qの構成員は中高年が多いという。そのような年齢層にも浸透することを願いたい。

さらに、ここでひとつ動画を張っておく。一見支離滅裂な内容のアニメに見えるが、情報リテラシーについてわかりやすく説いている。

情報リテラシーとファクトチェックを両方いっぺんに扱ったので混乱したかも知れないが、このふたつは車の両輪である。どちらかが欠けても情報の扱いは危なっかしくなる。

情報の入り口でチェックする情報リテラシー、情報の出口でチェックするファクトチェック、これらは日本ではまだまだこれからだ。ファクトチェック側を主に嗜む者としては、この先地道に頑張っていくしかない。

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