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出会い系の女は 最悪のサイコパスだった


俺はなんとか起き上がろうとした。だけど駄目だった。体の感覚が無くて、何処に力を入れたら良いのか、分からないのだ。自分の身体が、何処か遠い所にあるような感じだ。
 俺はまだ、解剖するという言葉が、何かの比喩だと思っていた。まさか、その言葉通りの事を、するはずはあるまいと思っていた。そんな真似が出来るとは思えなかった。
 しかし、彼女が鈍く光るバナジウム合金の、不気味な形状をした鋏やメスをステンレストレーに並べて、持ってきた時、どうも本気でやるつもりだと考えざる得なかった。
 当然、俺は喚き散らした。
「 なにするつもりだ、この気違い女。そんな事が許されると思ってるのか、訴えてやるぞ。親は何しているんだ、会社をクビになるぞ。」ありったけの罵詈雑言を浴びせたが、悔しい事に、掠れ声しか出てこない。
 彼女は別に、気にする様子は無かった。俺の性器を手に取り、観察していたが、やがてステンレストレーから1つのメスを取り上げた。

俺はさらに穢い言葉で罵った。少しだけ声が大きくなったような気がした。彼女も一瞬こちらを見た。だがすぐに関心を無くしたようだ。俺の性器に身を屈め、鋭いメスを亀頭の下に当てると、スッと一直線に引いた。
 初めのうちは何も起きないように見えたが、すぐに切り口が広がり、陰茎を被う皮膚がハラリと落ちて広がった。
 俺の頭の中で、真っ白な眩しいスパークが爆発した。罵声は哀願に変わった。
 「 頼む、やめてくれ。お願いだ、よしてくれ、何でも聞くから、頼むやめてくれ。俺が悪かった、謝るから、そんな事は頼む、やめてくれ。」
 だが、彼女には、全く聞こえて無いようだった。完全に自分の世界に入ってしまっていた。人を切り刻むためにデザインされた、奇怪な形態のナイフや鋏を使い、俺の性器を丁寧に切り分けていく。

陰茎を被う皮を剥くと、向きだしになった陰茎筋の前後に深く切り目を入れて、真っ二つにすると左右に広げた。

陰茎の内側と尿管から、海綿体をゆっくりとほぐしながら、剥ぎ取っていった。空っぽになった陰茎が萎れたように、うなだれた。赤い血管の巻き付いた尿管が抵抗するように脈動している。

両方の睾丸に切り口を開けられると、精巣が露わになった。
 彼女は縁が鋭く研がれたスプーンのような器具を精巣の裏側に差し込み、細い筋を切っていき、睾丸から精巣を摘出した。

摘出した精巣に鋏を入れて、表面の膜をちょっとだけ残して2つに切断した。切断した精巣を、人差し指と親指で強く揉んでいき、造精管を押し出した。捻り出した造精管を指先で平たく広げていく。

彼女は深い溜め息をついた。
 「 素敵だわ。これって芸術品よね。あなたにも見せてあげる。 」
 彼女はルームミラーを持ってくると、解剖された性器が俺にも見えるように、鏡を傾けた。そんなものは見たくなかったが、見せられると目が離せなくなった。俺の下腹部には、分解された性器のパーツが広がっている。元の面影はひとつも無かった。
 俺は、とっくに言葉を無くし呻き声しか出せなかったが、それを見て呼吸さえ止まったような気がした。頭がガンガンする。
 彼女は俺の反応に満足したらしく、鏡を置くと、部屋の隅にあるテーブルの前に腰かけ、肘をついてスマホのアルバムをチェックしている。彼女は作業中に頻繁にスマホで写真を撮っていたのだ。

しばらくは集中してスマホで撮った写真を見ていたが、急に席を立つと冷蔵庫の前に行き、あろうことか、中から氷結を取り出してプルトップを開け、勢い良く飲み始めた。
 氷結なんか飲んでほしく無かった。何としても、このバラバラになった俺の性器を元通りにして欲しい。酔っ払っていたら、元通りにすることなんか出来そうに無い。
 俺は力を振り絞った。
「 頼む、元通りにしてくれ。 」
少し体の感覚を感じられるようになった。顔を彼女の方に向ける事も出来た。しかし、恐ろしいほどの痛みが、迫ってくるのも分かった。彼女は驚いたように、スマホから顔を上げて、こっちを見た。スマホをポケットに仕舞い、立ち上がって俺の方にやってくる。
 「 そんなの無理 」


俺の必死の懇願を却下すると、再びステンレストレーからメスを取り上げると、バラけた性器の根本にグルっと切れ込みを入れる。アルコールが入っているのに、メスの動きは正確だった。前立腺や射精管を含む生殖組織全てを、俺の下腹部から取り出すと、手術用具が入っているステンレストレーとは別のトレーの上に乗せた。グチャグチャの肉塊を、形よく並べ直し、またスマホで写真を何枚も撮り、霧吹きで何かの薬品をも散布した、たぶん酸化防止剤のようなものだ。それからサランラップを被せると冷蔵庫の方に行って、冷凍庫に仕舞った。
 もう完全に絶望的だった。無造作に置かれたルームミラーの片隅に、俺の下腹部が映っているのが見える。俺の下腹部には、赤い不気味なクレーターがあるだけだ。肛門の裏側に繋がって微動している赤黒い大腸まで見えていた。
 俺は首を振りながら、声もなく泣いた。彼女の手にいつの間にか、注射器と小さな茶色いアンプルが握られていた。アンプルの容器の頭をへし折って、中の薬品に注射針を入れてピストンを引き上げてる。薬品を充填した注射器で腕の静脈に薬品を注入した。
「 あなたが望んでいることはこれよ 」
不意に身体が軽くっなった。空を飛んでるみたいだ。風の中でくるくる回っているみたいな気がする。なんだか笑いたくなった。
「 うん、そうだね。ありがとう。なんかとっても楽しくなってきたよ。」
 最後にそんな事を言ったかもしれない。

辺りは騒然としていた。夥しい数のパトカーが集結していた。認知症を患う老人が住む、近所でも有名なゴミ屋敷の庭先でブルーシートに包まれた男性の遺体が見つかったのだ。
 男性の遺体には、下半身に大きな損傷があったが、マスメディアは詳細には報道しなかった。
 
 出会い系の女は 最悪のサイコパスだった
    ( おわり )


 

 

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