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龍の背に乗れる場所 12

 楽しかったバーベキュー大会から数日経ち、私は家で色紙に詩を書き続けていた。あの思い出が霞む前に、出来るだけ多く『文章として』残すのだ。

 おかしなもので、あれから酒に手を伸ばす事が減った。但し、私は正真正銘のアル中なので、酒を断つには至らず、日々必要に迫られ《《適量》》を呑み続けはしているけれど。

 色紙に向かい、無心で筆を走らせていると、携帯電話の着信音が鳴った。アナルゥからだ。

「もしもし」

「カオル、ネットニュース見た? 大変よ!」

「暫くパソコンは弄っていないよ。どうかした?」

「とにかくパソコン点けて! ニュース番組! 科学者殺人!」

 言われるままにパソコンを点け、ニュース番組を探した。

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 速報! 科学者殺人・放火事件(20XX年08月XX日)

 20XX年08月XX日、XX市XX地区XX村の一戸建てから出火し、白い乗用車が走り去った後に、遺伝子工学の先駆者、住人の厳島誠一郎さん(顔写真)の遺体が見つかった。頭を鈍器で殴られ、首を絞められていた。約二十日後には、五十キロ余り離れたXX県XX町の山林から、犯行に使われたと見られる白い乗用車も見つかった。翌年(本年度)07月XX日、県警は捜査の過程でXX大学の准教授加納弘秋容疑者(顔写真)の車から厳島さんの血の付いた鈍器を発見。厳島さんを殺害した容疑で全国指名手配した。尚、共犯とみられる茂木容疑者(顔写真)も数日前から行方不明となっており、県警は駅等に合計六十四万枚のポスターを貼るなどして情報提供を呼びかける方針だ。

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 気付けば家を飛び出していた。茂木の家は知っている。直ぐに向かわなければ! 何故かそう思った。

 無心で走り続けた。酒で弱った内臓が悲鳴を上げていた。目の前が黄色く染まった。足の筋肉が引き攣ってきた。それでも無心で走り続けた。

 一体私は、何をこんなに焦っているのだろう。これまで茂木の事なんて、大して考えた事も無かったのに。あのバーベキュー大会の後から、私の何かが確実に変わっていた。

 茂木の家の前には、沢山の報道陣が集まっていた。間違いない。ニュースに書かれていたのは、やはり茂木の事だ。

 それに加納。間違いない。あの名前と写真は元彼の加納だ。加納と茂木は繋がりがあったのか。そう言えば何方も理系で、博士号とか言うのを持っているらしい。その繋がりなのか? 解らない。私には何も解らない。

 私は疲れた身体で地面に座り込んだ。暑さと熱さで、タンクトップと胸臆がびしょ濡れになっていた。吐く息が一定のリズムを刻めなかった。

 温い風でタンクトップが、ゆっくりと冷やされて行くうち、私の中でも何かが、ゆっくりと冷えて行った。