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龍の背に乗れる場所 14

 最後に私が書いたのは、拙くて、でも紛れもない本音を綴った作文のような詩だった。

 その詩については、いつか機会があれば発表したいと思う。

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 文章はその人の心を表す。

 それは間違いのない真実だ。幾ら綺麗事を書き連ねたり、それっぽい言葉を巧く使っても、その小聡明さは隠せない。

 作家が文字埋めの為に付け足した文章は、物語を一つ一つ選別し、確認し、削いでいけば直ぐに解るのと同じように、詩人が色紙に書く言葉もまた、心の入っていない見掛け倒しの物は、直ぐに解る。

 そう言う事なのだ。

 心を込めて真剣に書いた結果、今まで書いてきたデタラメな詩に嫌気が差した。

 そして丁度、同じ時期に、地へと沈みかけている。

 だから私は書けなくなり、そして書かなくなった。

 それでも詩人として路上に座り込むのは、精算の意味があるからだ。今の在庫が無くなれば、何かが変わるような、そんなどうしようもなく愚癡な、願掛けじみた思いからだ。

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 ……bad bad city, fat city bad Bad city, bad bad city, fat city bad

 時代遅れのスクーターから時代遅れの曲を流して慎吾が来た。

「よう、カオル。また仕事があるんだ、やらないか?」

 Bad city, bad bad city, fat city bad Bad city, bad bad city, fat city bad

「幾ら?」

「一万円でどうだ?」

 Bad city, bad bad city, fat city bad Bad city, bad bad city, fat city bad

「……その曲、ループしてない?」

「そう聞こえるだろ? このフレーズだけ繋ぎ合わせてるんだ。六十分」

「バカなの?」

「おいおい、分かって無いな。これだから女は嫌なんだ。男の浪漫や嗜好をちっとも分かろうとしない。お前なら分かると思ったんだけどなぁ」

 Bad city, bad bad city, fat city bad Bad city, bad bad city, fat city bad

「分からないよ……。慎吾の事も、誰の事も、分かったつもりになっただけで、私には何も分からないよ……」

 Bad city, bad bad city, fat city bad Bad city, bad bad city, fat city bad

「……ま、良いけどさ。で、やってくれるだろ?」

「やめておく」

「何でだよ、金、欲しいんだろ? 何ならもう五千円出すぜ?」

 Bad city, bad bad city, fat city bad Bad city, bad bad city, fat city bad

「気分が乗らないんだ」

 Bad city, bad bad city, fat city bad Bad city, bad bad city, fat city bad

「……チッ、そうかよ。案外、使えねえ女だな」

 Bad city, bad bad city, fat city bad Bad city, bad bad city, fat city bad

「じゃ、あばよ」

 Bad city, bad bad city, fat city bad Bad city, bad bad city……

 私に人の気持ちは分からない。分かろうとしても、全然分からない。

 慎吾の言うように、私は使えなくて、意味の無い女だ。

 慎吾に見限られるのも当然で、だからと言って、どうして良いのかも分からない。

 ・

 街路樹で蓑虫が、揺れている。

 その蓑は、人が触らなければ、雨にも風にも日光にも負けないけれど、一旦、力が加わると簡単に壊れてしまうのだ。