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もけると物語【6:建築家ペレさんと光と闇と中間領域】

もけるとの村のことを少しでも理解したいと思って、村周辺の古地図を手に入れました。談話室の壁に掛かってあったので探す手間は省けました。唯一、あの出来事から難を逃れた村の貴重な資料です。資料を所有するわけにもいかないのでスマホで撮影してクラウド保存しています。そのうち村を探検して地盤の高低、パワースポットなど把握して記録しようと思います。

これまでに数々の地に足を踏み入れては、また別の地へ移り住むという世に言う引っ越し貧乏はもうイヤです。20回目の引っ越しで妄想アパートメントもけるとを買い取り、今度こそ落ち着いて暮らせるかなって想いでいます。しばらくは古地図を眺めながら妄想アパートメントもけるとの変化を楽しもうと思います。

光と影と中間領域

もけるとの村は今まで住んだ場所とは全く異なるお土地柄です。今でこそ村人たちとはこうやって毎日のように挨拶を交わしていますけど、村の外の人々とはまだ一度も会っていないんです。まぁ、あの出来事もあって仕方ないのかなぁって思ってもしまいますが、だとしてもです。打ち合わせはテレビ電話だし、納品は郵送だし、そもそも私が外へ出歩かないで全てネットで食材やら模型の材料やら注文するものだから、会う必要が全くもってないことも要因かもしれません。それに、美しい景色を撮影してくれるドローンは、空の交通を牛耳る頭脳まで手に入れて人々の職種まで大きく変えてしまったことも忘れちゃいけない出来事です。

もう一つ気づいたことがありました。雨が一度も降ってないんです。霧に覆われる朝はあっても雨が降ることはなくて、それなのに小川が枯れることもない。夜は涼しく、昼下がりも程よい気温とそよそよとした風と澄み渡った青い空が途切れることなく続きます。まるで自分が思い描いた理想の村を夢の中から現実社会に引っ張り出してきたかのよう。そういえば、ここへ引っ越してくるまではパソコンの画面に壮大な自然の動画を映し出し、その大地の音をBGM代わりに流すのが通常の仕事場の風景でした。今はそんなことをしなくても、小鳥たちのさえずりと街路樹を蛇行する一風変わった小川のせせらぎがBGMになっているわけです。それらすべては光であって大地です。とにかく気持ち良い。

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薄暗い作業場とは対照的なもけるとの村。村人たちが使っていた談話室自習室はその間を結ぶ接着剤。村人とお忍びで宿泊していたアート職人との架け橋でした。そんなことを考え始めるといつもこの模型を思い出します。ランシーの教会堂です。鉄筋コンクリートでできたこの建築物は、モダニズム建築の先駆けとして知られているそうです。設計はオーギュスト・ペレさん。建築家としてはフランク・ロイド・ライトさんに並ぶ世界の3大巨匠のひとり、ル・コルビュジェさんの師匠。建築の世界ではとても重要な方なんです。

教会の内部に立ち入ればたちまち度肝を抜く柱とガラスの建築。三方はステンドグラスで埋め尽くされ、壮大で幻想的な雰囲気が心地よい。強い日差しを和らげて、訪れる者たちを優しく包み込む教会建築は、規模こそ違えど日本の縁側のような”中間領域”を思わせるんです。光と影の中間に位置する曖昧な境界がそこはかとなく存在する面白さがなんか好きです。

と書いてはみましたけど、実際にその場に立ったことはないので、この模型を覗いて想いを馳せる・・・みたいな妄想見解です。あしからず。

光と闇と村

この村の建築物は小ぶりなモノばかりです。妄想アパートメントもけるとも階数はあれど、大空や森を破壊しない程よい位置で高さをとどめています。独特なのは、粘土を積層させたエンボス強めの壁。モコモコとした壁は塗装もされず、鉄筋や鉄骨も見当たらず、部分的に木とレンガの装飾があしらわれた不思議な建築物。

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「天井、低いよなぁ・・・」

そう思ってコンベックスで天井の高さを改めて測ったら、不思議なことに気づいたんです。2メートルちょっとしかないんです。違法建築?ニホンの場合ですけど、居室、すなわち人が継続的に利用する部屋の天井の高さは2.1メートル以上にしなければなりません。でも、違法建築ではないそうです。その辺はまた次回お話します。

そんな建物が立ち並ぶこじんまりとしたもけるとの村人たち。彼らの小柄な体は世界の闇が生み出したのだと知りました。恐ろしさと悲しさで震えました。

ティーカッププードル、タイニープードルって皆さん知ってます?トイプードルのさらに小さい版。どうやって誕生したかというと、何度も繰り返される掛け合わせから。かなり大雑把な説明ですけど、そうやって生まれた超小型プードルはその小ささ故、元々の猟犬の能力は認められず、ワクチン接種も見合わせられたりするそうです。結果、伝染病に弱く、突然死してしまうことも多いらしくって。

ここまで話すと、「まさか彼らも!?」と思うかもしれませんが、そうなんです。もけるとの村人たちはそうやって生まれたんです。クローンではありませんし、遺伝子組み換えでもありませんし、掛け合わせでもありませんが、意図的に小さくされたんです。

「コンッ、コンッ、コンッ。マイスター!」

このお話の続きもまたいつか書きましょう。自習室図書室談話室の活用を考えるミーティングがそろそろ始まります。談話室へ行ってきます。





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