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おっさんにドキドキは必要か。

同僚があるとき、恋がしたいと言い出した。

僕も彼も妻帯者で、彼には子供もいる。
彼の奥さんとの直接の面識はないが、写真等を拝見するに見目麗しい奥方だったと記憶していた。

「ただね、ドキドキしたりしてみたいんだ。
過去に経験した緊張感や高揚感を改めて体験してみたいと思っているんだよね。」

コメントに困るなぁ…。と思いながら、彼の話にさらに聞き入ることにした。

この彼は、若いときになかなかアドベンチャーな日々を過ごしている。
かなりの進学校から良い大学に進学するも、すぐに中退、バーテンダーなんかをやりながらお金を貯めて、
バックパッカーな旅行で4か月間東南アジアをの各国をめぐってみたり。
当時トレンドな仕事であったWEBサイト制作の仕事をはじめて、サラリーマン的には到底到達できないような金額を稼いでみたりもしていたらしい。
僕が知る同僚になったのは、そのしばらく後で、望まれるクライアント向けの企画書をものすごい速さで効率的に仕上げていく才能の持ち主でもある。

そんな彼の恋愛遍歴も、なかなかなモノで。
バーテンダーのアルバイトをしていた時代などは、女の子二人住まいの家に居候。二人とも彼女だったという謎の関係で過ごしていたりしたそうだ。

アクティブだ。

こんな風に書くととんでもない男のように思われるかもしれないが、この男は今会社に従順で目下飛ぶ鳥を落とす勢いで業績を伸ばすいわゆる「できる男」。
プライベートでは、先の割とハチャメチャな恋愛の後、今の奥方とお付き合いをはじめて順調に結婚。二人の子供にも恵まれて、順風万般な毎日を過ごしているし、彼の名誉のために書いておくが、彼は非常に家族を大切にしている。
週に1度は娘のTiKTOKの動画を見せられ、週末ごとの娘自慢をされている僕にはそう思える。

さて、遅めのランチタイム。

普通サイズなのに成人男性がおなか一杯になる量のスパゲティを出してくれるいつもの喫茶店。
急にそんな話が始まったのでびっくりしている僕に彼は恋愛がしたいと言いはじめたのだ。

なしたの?何か聞いちゃいけない系の告白?であれば仕事の後飲みに行くけど?

そう伝える僕に彼はいやいやと手を振りながら、困ったように半笑い。
どうやら、何かが進行中ということではないらしい。

良かった。大好きな納豆スパを食べるたびに思い出す話になったりする類のお話ではなさそうだ。
でも、急になしたん?ぶっこんできたね?

いや、お互い40を超えて家族がいて安定しているじゃない?
結構順調な部類かなと思うんだよね。
いろいろ楽しい事もあるけどさ。充実してるし。
でも、若い時のあのドキドキは…ね。

この男でもそんなことをいうのか…。みたいなことを考えていた。
僕と違ってバランス感覚の優れているこやつは、正直言って老若男女にもてるタイプだ。

僕自身も好ましい仲間だと思っているし、ここ数年は仕事上の相棒であると思っている。
なぜか若手の女子ばかりが部下についていることもあるが、いろいろ言われながらも周囲からは彼の名前を取って「●●ガールズ」と呼ばれるようになったりしていた。

これをモテるのか?という話に置き換えるのは少々強引ではあるが、おっさんのモテへの認識などこんなものだと思う。うん。彼はモテる部類だ。という前提で考えると、直接的に恋愛はともかく、十分なんじゃないかな?なんてことを思ったりする。

・娘かわいい
・奥さん美人
・会社でも女子に人気

こういう男が、恋愛がしたいというのか…。

ここまで読んでいただいて、申し訳ないのだがこの話にオチはない。
彼が取引先の若い女性とススキノを歩いていたと噂を聞いたり、この後、トイレに立った彼のおきっぱなしの携帯にLINEの通知で「飲みに行きましゅ💛」みたいな表示が出てきたのを目撃したわけでもない。

ただ思う。

この話を聞いた後、ドキドキするっていうことは確かになくなったなぁと。
もしも、あの若かりし日のドキドキに似た体験ができるのであればそれはいったいどれほど価値のあることなんだろう…。

そんなおっさんの昼下がり。

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