立憲が勝つにはどうすればよいか?

立憲が勝てない理由をだいぶ前の記事に投稿しましたが、実はその記事が示していることは立憲の勝てない理由ではありません。それはどういうことか、そして立憲が勝つためにはどうしたらよいか、それをこの記事では示していきたいと思います。

○選挙の構造

私は選挙のコンサルタントでもなんでもないので選挙の実務は知りません。しかし選挙の構造について因数分解して解釈することは可能です。まず選挙において勝利するための条件は、衆議院でも小選挙区でも良いですがシンプルに考えれば誰でも知っている通り、票をたくさん得ることです。しかしこれは正確には少し違います。正しくは、「投票数のうち」「ライバルよりも多く」票を得ることが勝つための条件です。だから極端な例を言えば、いくら政党支持率が全国的に高い政党があったとしても、北海道だけ人気がなかったり、東京だけ人気がなかったりすればその政党は北海道や東京では議席を得ることができません。あるいは選挙にいかないひとたちからいくら支持されていようと実際には票になりませんから、その政党は議席を得ることができません。あるいはいくら票をたくさん取っていても、それより多数の票を得る候補者がいればそちらが優先的に当選します。
さらにここで次のように人々を二つの層に分けてみたいと思います。一方は投票先の政党がいつも同じで選挙に確実に行くが人口の少ない層、もう一方は投票先の政党がコロコロ変わるしほとんど選挙には行かないが人口の多い層です。前者を固定的少数の支持基盤層、そして後者を浮動的多数の支持基盤層と呼びましょう。この段階で勘の良い人ならば気づいてしまうかもしれませんが、もし前者の人口が100万人、後者の人口が1000万人としても、前者の投票率が100%、後者の投票率が9%なら前者のみが支持する候補者は後者のみが支持する候補者に勝ってしまいます。つまり熱狂的でそこそこ大きい集団は割と選挙に勝つことができます。この代表例が公明党であり、日本共産党です。前者の支持母体である創価学会はおよそ250万人と日本の総人口に占める割合は3%に満たない数ですが、衆議院での議席は6%を占め、参議院に至っては11%と高い議席占有率となっています。また日本共産党の機関紙赤旗の読者数はおよそ20万人とされていますが、衆議院の議席数は3%、参議院でも5%とそれらの政党がいかにレバレッジをかけられているかということが分かると思います。もちろん公明党に関しては自民党と連立を組んでいる関係もあり、自民党との選挙協力が議席数の増加に寄与しているという方もいるかもしれません。しかし地方議会で言えば、東京都で都民ファーストの会が大勝し大阪府で維新の会が伸長したのも背景には公明党の自民党からの離反があったはずです。このように実は固定的少数の支持基盤を持つ政党が意外と大きな影響力を持つことが分かったと思います。そして固定的少数の支持基盤層が重要な理由はもう一つあります。それは選挙資金の確保という観点です。例えば共産党はほぼ機関誌販売によって運営資金を賄っていますが、このように機関誌の販売や個人的な献金、一般党員からの党費という資金力は選挙活動において非常に重要です。こうした固定的少数の支持基盤層は結果を左右しうる安定的な得票を見込めるだけでなく、そうした選挙資金で政党の選挙活動を支えているとすれば、間接的に浮動的多数の支持基盤を獲得することにもつながっていると言えるでしょう。
ただそうはいっても結局固定的少数の支持基盤層は少数です。せいぜいが数百万人程度で、全て足し合わせてこの国の有権者の1割程度でしょう。毎度の投票率は3割から6割程度ともう少し大きいわけで、選挙で圧倒的多数を占めるのはこうした浮動的多数の支持基盤です。自民党がいつも大勝するのはなぜか。これは浮動的多数の支持基盤が自民党を支持しているからです。立憲民主党も同じように浮動的多数の支持基盤から票を得ているからこそ野党第一党の地位にあります。冒頭の発言をここで回収すると、前に書いた記事はあくまで「浮動的多数の支持基盤層がなぜ支持しないか」というところであり、選挙で勝てない理由ではありません。選挙で勝てない理由は、「固定的少数の支持基盤がライバルより小さく」「浮動的多数の支持基盤もライバルより小さい」からだということです。
さてこのように選挙は「投票数のうち」「ライバルよりも多く」票を得ることで勝つことができる、そして支持基盤には2種類あり固定的少数の支持基盤と浮動的多数の支持基盤がある、という見方を以て現実を解釈してみましょう。

○現実との対応

現実はどうなっているか。まず与党の自民党は公明党との選挙協力、そして医師会などの各種業界団体による組織票と圧倒的な数の自民党員によって固定的少数の支持基盤を確立しています。そして何より圧倒的な浮動的多数の支持基盤を持っています。Twitterでは何かと政権批判のタグがトレンドに上がりますが、2021年1月にNHKが実施した世論調査によれば、菅内閣の支持率は初めて不支持の割合が支持の割合を上回ったものの、自民党の支持率は37.8ポイントと、2番目に多く支持を集めている立憲民主党の6.6ポイントを大きく上回っている状況です。このように固定的少数の支持基盤層も浮動的多数の支持基盤も両方、そして圧倒的に押さえているのが自民党といえます。
一方で野党第1党の立憲民主党はどうか。固定的な支持基盤層としては連合があると思いますが、アベノミクスにおける働き方改革は親労働者的なリベラル政策であり、連合と立憲民主党との間にはかねてより隙間風が吹いていることが示唆されています。そうした中で立憲民主党は共産党との協力に舵をきりましたが、連合はそうした共産党との協力にも否定的であることから固定的少数の支持基盤とも言い難いのが現状です。共産党との協力は固定的少数の支持基盤層にアプローチする有力な手ではありますが、同党はイデオロギー色が強く、宗教色を頑なに薄めて世俗主義を取る公明党とはポジショニングが全く異なるのが難点です。イデオロギー色が強すぎる場合、立憲民主党の支持者たちが意見が異なると感じる機会が多くなり、その結果浮動的多数の支持基盤層を失うという本末転倒の結果になりえます。またそれらは自民党と違い自前の固定的な支持基盤ではないので資金調達という観点で大きな問題があり、自民党の劣化版にならざるを得ないというのが問題点です。また浮動的多数の支持基盤層では自民党に圧倒的な差で負けているので、政権交代というにはあまりに体制が整っていないと思います。
もちろんこの見方に反論はあって、2017年の立憲民主党の比例代表における得票数はおよそ1100万票となっていますが、自民党の得票数は1800万票とそれほど変わらないという主張です。しかし小選挙区での得票数が自民党で2600万票あまりであるのに対し、立憲民主党は500万票と大差をつけられており、小選挙区と比例代表で明らかに投票行動が異なっていることから、比例での得票を取り上げて小選挙区で逆転が可能と嘯くのはあまりにほらを吹きすぎていると言わざるをえません。
私としては、皆は自民党は圧勝するのは嫌だけれども立憲民主党が与党になるのは嫌だ、だからある種「デバッガ―」として立憲民主党には頑張ってもらいたい、そんなところを皆考えていることがこの乖離の原因だと思っています。だから誰が当選してもよい。この人がということもない。とにかく何に詳しいとかそういうことはどうでもよく、暴走しないように歯止めをかける役割のみを期待しているということです。

○打ち手

選挙の勝つための打ち手は3種類あります。固定的少数の支持基盤を自前で形成すること、浮動的多数の支持基盤を奪いに行くこと、相手の固定的少数の支持基盤を崩すこと、この3種類です。
1番目が成功すると固定的少数の支持基盤を得ることで安定的な得票と政治資金の獲得が見込めるので長期的な政権としやすい。しかし最大の問題点はハードルが高いことです。業界団体は政権を持っているからこそ陳情しに行く。ならば野党第1党に乗り換える意義とは?宗教団体にしても選挙運動に耐えられるほど強固な結束がある団体は、創価学会以外で想定しがたいのが現状です。強固に支持してくれるセグメントを形成するということになると、若者向けよりはやはり常に投票へ行く時間的リソースがあるのは高齢者ですから高齢者向けポピュリズムに走ることが一つかと思われます。あとは維新の会が大阪を基盤に国政へ進出できているという事例から、シングルイシューで地方議会を制圧し余勢を駆って国政への地盤とするのが良いかもしれません。それを横展開しシングルイシューでポートフォリオを組めば、浮動的多数の支持基盤層を固定的少数の支持基盤に転換できる可能性があります。やはり他の固定的少数の支持基盤に依存する政党も地方議会で存在感がある例をよく見ます。根っからの自民党支持者の私の祖母も、何か意見具申するとなると共産党の市議や公明党の市議にお願いすることにしていたそうです。それはよくそうした政党の人たちが比較的よくあいさつ回りをしていることに加え、困りごとをよく聞いてくれること、そして何より行政に直接掛け合ってくれることが多いからだそうです。また自民党が上手いのは、菅首相しかり二階幹事長しかり、割と市議や県議から国会議員になる人が多いという点もあると思います。ただこれでは資金調達手段としての固定的少数の支持基盤と少し違う側面があるので、どうしたら金を払う固定層を取り込めるかという課題がやはり残ります。

次に浮動的多数の支持基盤を乗り換えさせるためにはということですが、そのためには「できる感」を演出しないといけません。しかしどうも今の立憲民主党には悪いイメージが付きまとっている。それは先の民主党政権においてついてしまったイメージですが、それを払拭できないのは指導部の顔ぶれが全く変わらないからでしょう。イメージを変えるとなれば、先の政権における主要なメンバーを全て切り捨てる必要があると思います。特別顧問だとか名誉顧問だとかそういうのにも一切就けさせず、党にすら所属させないということです。しかしそのような議員は基本的に小選挙区で勝てるような人材ばかりです。彼らを切り捨ててしまえば、彼らが築いてきた資産とも呼べる固定的な支持基盤をみすみす捨てることになります。それを決断できるかどうか。サンクコストがあまりにも大きい。それに2番目のみでは長期政権となりづらい。固定的な票を獲得できないので内閣支持率=政党支持率ともなりえ、短命の政権も多くなりコストがかさみやすい。しかも選挙が多くなれば資金的に優位な自民党が勝ちやすくなります。長期的には敗北必至のゲームです。2009年の政権交代で勝ったにもかかわらずその後転落した理由のひとつには、実は固定的少数の支持基盤が脆弱だったことによる資金力不足もあったのではないかと私は疑っています。話を戻して浮動的多数の支持基盤を獲得するための政策パッケージに関しては前の記事でもいった通り、やれることはとても少ないです。しかし一番は「やれる感」を作り出すことなので、若手や女性、マイノリティを積極的に指導部へ起用してポジティブな「やれる感」を演出しつつ、国民への丁寧な発信、あえて痛みのある政策をやる意義、実行可能性を説くことで、自分たちの目指す方向性が国民にいかに寄り添っているかということをシグナリングできるかが重要になるかと思います。ただやはりリアリズムに徹することで今までの固定的少数の支持基盤をある種放棄せざるを得ない側面がありますので、これまたサンクコストが大きな障害となるでしょう。
3番目は知人と議論したので割と大本命の打ち手なのですが、公明党という有力な固定的支持基盤を突き崩すことが可能であればだいぶ選挙に有利になると考えています。実際先述のように維新の会や都民ファーストの会は地方選挙で自民党と公明党を分断することに成功し、地方議会においては多数を占めることが可能になっています。もちろんこれを国政にスケールさせることはなかなか難しい状況ですが、そもそも公明党は社会民主主義的な主張が多く、それに親和的な形の主張を行えば同調する可能性もあります。ある種固定的少数の支持基盤を奪うということですが、実はイデオロギー色が強く浮動的多数の支持基盤が反発する可能性の高い共産党との野党共闘よりも、連立与党の分断工作を行った上で浮動的多数の支持基盤を得ることの方が、成功する可能性が高い打ち手のように思われます。しかしこれには難点があって、国政でそのようなことを行うには公明党はとてもリスクが高いということから応じる可能性が低いということです。地方議会の場合は、あくまで公明党にとって優先順位が低く有権者と距離が近い戦場だったからこそ、議席の死守のために自民党との盟約を破って風見鶏となることができましたが、国政においてもまたそれが可能になるかというと、それはかなり難しいといえます。またこれだけではやはり選挙資金の調達という意味合いで弱く、やはり自前の固定的少数の支持基盤を作る必要があるのではないかと思います。ただ1番目の地方議会をまず制圧するという施策と絡めるならば、シングルイシューと徹底的な市民交流で支持を獲得しつつその支持を背景に公明党と自民党を地方議会で離反させ、これを各地で行うことで国政連携を骨抜きにするというのは一つの手になるのかもしれません。ただそれにしても「やれる感」を出してマスを獲得しつつ、その中でお金を出してくれるコアなファンを獲得するという戦術が大前提となるので、現在の立憲民主党にはなかなか骨の折れる難しい施策ばかりとなりそうです。
少なくとも現在の執行部で寝てれば政権が転がり込んでくるなどという夢想をするのはやめた方が良いのではないでしょうか。

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