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建築家って何 - インテリアと家具も建築?

mok architectsというデザイン事務所を主宰している私のSNSの自己紹介には「コペンハーゲンの建築家🇩🇰」と端的に何者か表明する一文を入れているのだが、最近活動を追ってくれている友人から、「いろんなことしてていいね!でも建築家...なの?」と質問されることが増えた。特に自分の肩書きにはこだわりがなかったのだが、そもそも建築家ってなんだろう。

確かに、わたしがこれ迄デザインしてきた物は、インテリアキッチン

デンマークのインテリアショップ studio x のキッチン

こんな屋台、

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グラフィック(企業ブランディング)とか、

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こんな家具とか

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しまいには「モリタ民藝」と名乗って世界の民藝品を売り歩きはじめてもいる。それは確かに何者なんだろう。

修行先の設計事務所Space Copenhagenが扱うのもインテリアと家具のデザインで、室内空間について考え、家具の図面を描いたり、素材を選んだりする時間がほとんどである。

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前職での仕事の一部、レストラン108のインテリア

確かに新築の建物は前職ではやったことがない。

世間一般の建築家像、は新築の建物を設計し、それを世間に発表する人なのだろうし、その評価基準でいうと私はそれを満たしていない。インテリアデザイナーなのか家具デザイナーなのかどっちつかずなところをふらふらしているようにみえる、というのが質問をしてくれた友達の、私への印象だったんじゃないかな〜と思う。

それでは、わたしは何者なんだ?

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私は工学部建築学科卒ではなく、住居系の学科、居住環境学科を卒業した。そんなことから、自然に大きな構造物について、というよりは住居建築の歴史や暮らし方について興味を持って勉強していた。

そして卒業後の進学先を探していて、学生時代、バックパック北欧旅行に行ったことから運のいいことにデンマーク王立アカデミー建築学校に似たような学科を発見、大学院留学した。

似たような学科、といっても扱うものは小さな建築・インテリア・家具・ディテールそしてタイポグラフィだった。(当時の学科の正式名は、学科11. 空間デザイン・知覚・ディテールについて) (建築の大学院でこういうことを扱うところって他の国にあるんだろうか?私はあまり見つけることができなかった。)

そう、これらの領域は、今のわたしが得意とする領域で、日本では、それやるのって建築家なのか?という方向の分野である。

デンマークの建築の大学院は、卒業すると日本で言う一級建築士のように使える、「マスター・オブ・アート・アンド・アーキテクチャー」の称号がもらえる。これを持っている人はみんなアーキテクト、建築家である。せっせと家具のプロトタイプを作っていたクラスメイトも、建築家になったよ!家具しか作れないけど!と自虐を込めながら卒業し、今はたくさん素敵な家具を発表して活躍している。(最近はちょっと学校組織の構成が変わったので今もそうかはわからないけど。)

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わたしの卒業プレゼン、これの結果で建築家になれるかどうか決まる。めちゃめちゃ見られてる

なぜデンマークは家具、タイポグラフィまで建築の学校で教え、修了者に建築家の称号を与えているのか?
それはインテリア・家具・タイポグラフィがそれ一つで成り立つものでなく、都市・社会・歴史・土地・構造的な文脈から紐解かれる、つまり建築的文脈の中でデザインされるべきもので、それらは広義の建築である、と考えられているから。
地面に建ってないのに?いや、椅子は人間の荷重を担う小さな建築だし、文字の太さを表すウェイトも伝わる表現の中でとても重要な役割を担う。そう構造的にも建築である。!

実例を出すと、たとえば前職のインテリアデザイン事務所Space Copenhagenでは、インテリアのプロジェクトに合わせて家具をデザインすることが多くあった。例えばホテルの仕事だと、新しい空間にぴったり沿うような、インテリアとメッセージを同じくする新作照明をデザインして納めていた。

あるホテル、という下敷きの中でデザインされた照明はそこでしか使えないしそのためだけに特注するなんてもったいない、高価すぎる買い物だ、と思いきや、他のホテルやプロジェクトで使ってもわりと使い勝手がよい。なぜなら、その時代やベッド横のランプという機能が求めた性能(スタイルだけじゃなくて、大きさだったり素材だったりも)が、これまでの家具とは違ってしっかり実用・文脈のなかで考慮されていて、他のプロジェクトにおいても使いやすいし、家具の会社で販売するとベストセラーになったりする。周りを考慮した建築的な文脈でデザインされた家具が世間によく認められる一例である。

NYの11 HOWARDというホテルの客室のために作られたHOWARDランプ。GUBIで購入可能。
これはFaaborg MuseumのためにKaare Klintがデザインした椅子。
やわらかな曲線・素材と、モザイクタイルにぴったり乗るような細い足が特徴。

ありがたいことに、以前設計したコペンハーゲンのレストランのためにデザ
インした長いベンチも、作ってくれた業者さんによって増産されて違うレストランや住宅に納入されているらしい。けっこう座りやすくていいんです。

Izumi Restaurant

そして、建築家がインテリア・家具まで手がけると、そこで過ごす経験のトーンが全部同じになって、強い世界観をもったデザイン、一貫性が生まれる。アントチェアでおなじみアルネ・ヤコブセンがSASロイヤルホテルを設計するとき、インテリア・家具だけでなく、照明・壁掛け時計・テキスタイルからホテルで使うフォーク・ナイフまで作って、その世界観を作り切っていたのは有名なはなし。

こういったように、家具であろうがグラフィックであろうが、建築的な文脈の中でデザイン・ものづくりができる人を建築家と呼ぶ、というデンマークでの呼び方を参考にして、私は自分のことをアーキテクト、建築家と名乗って日々デザインの仕事に勤しんでいます。
でも、家具デザインが最初の成功だったヤコブセンみたいに、わたしもいつか新築の建物(とそのインテリアと家具とグラフィックとプロダクトと…)を建ててみたい。

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