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初めてのわがままは寝苦しい夜のせい。-SHISHAMO / 熱帯夜 より-

― side ”あの子” ー

うだるような暑さで眠れない夜。
ベランダに出ても一向に涼しさを感じない。

今日は君に会えなかったなあ。
私は毎日だって君に会いたいけど、君はどうなんだろ。
『会いたくなったらいつでも言ってね。バイクを飛ばしてすぐ会いに行くから』
そう言って笑ってた君の顔を思い出す。

君はすごく優しいんだよね。

でも、この夏が終わればそんな君もいなくなる気がして、
ずっと踏み込めないでいる。

フラれては泣きを繰り返す恋愛下手な私は、
いつの間にか長く続く恋愛を諦めるようになってしまった。

そんな私でも、
いつだってまっすぐな愛を伝えてくれて、
落ち込みがちな私を引っ張ってくれる君には、
これまでの人たちとは少し違う気がしてるの。

君との恋が終わるのは想像したくないくらい。

どうしようもなく惹かれている君に、
今日はなんだかすごく会いたい。

わがままなんて普段は言えないけど、
この暑さのせいにすれば言えそうな気がして。

スマホを取り出し君の名前をタップする。
呼び出し音を聞いてると、ちょっぴり鼓動が増して体温が上がる。

「会いたい、いますぐ」


ー "side "君" ー

バイトが終わって煙草を一服。
じっとりとぬるい風にあたりながら、ふとあの子のことを思い出した。
今日はあの子に会ってないな・・・
もう寝てるかな。こんな暑い夜は、あの子に癒されたい。

そんなことを考えてたら君から着信が。
『いますぐ』なんて、珍しくわがままを言った君が可愛くて愛おしい。
口元が自然と緩んでいることに気づかず、タバコの火を消しバイクに乗る。

あの子のふわっと微笑む笑顔や、柔らかい肌、
風になびく長い髪を思い出し、胸がきゅっとした。

早く君に触れたい。
いつもより少しスピードをあげて夜道を駆ける。

一緒にいてもどこか距離を感じるあの子。
これまでたくさん傷ついてきたあの子だから、
僕が守ってあげたいと思ったんだ。
僕のことで君を苦しめたくない。

わがままを言ってくれたのはきっと、少しだけ僕とあの子の心が近づいたってことだよね?

ドアを開け、そっと僕を見上げるきみ。

慣れないわがままを口にしたことを気にしているのか、
不安げに僕を見つめる。

そんな不安そうに見つめるなよ。
もっと僕だけにきみを教えて。

薄暗い部屋には、少しだけベランダのドアが開いている。

「今夜は熱帯夜だもんね。」

そう言って、僕はきみを抱きしめた。


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