見出し画像

等身大の自分。 ー 池井戸潤著『鉄の骨』


建設会社を舞台とした小説。
地下鉄工事受注を巡り、下請けを叩いてコストを削減しようと邁進するゼネコン。談合を企む政治家・フィクサー・ゼネコン幹部。それを裏で追う特捜検事。さすが池井戸氏の筆致は鮮やかでぐいぐい読み進むことができる。公共事業の流れについてイメージを持つこともできるし、銀行与信の考え方や、ゼネコン社員の仕事ぶりまで知ることができる。その点、学びの大きいお得な小説だ。

しかし、この書評では本筋である談合をめぐる闘いについては触れない。
サイド・ストーリーでしかない、主人公・富島平太、その彼女である銀行勤務の野村萌、萌にアプローチする職場の先輩である園田。その関係に焦点を当てたい。

富岡と萌は長年付き合い遠慮のいらない仲。安い居酒屋でビールや焼酎を飲むことが楽しい飾らない関係。
そこに現れる、いけすかないエリート銀行員の園田。若手行員の中心で仕事ができ飲み会でも園田がいると盛り上がる。萌にアプローチし、ワインバーで建設会社を取り巻くマクロなトレンドなど、大上段に構えた話で萌を魅了する。一方、萌と富岡はそれぞれの業界・・銀行と建設会社という異なる世界に浸かり、お互いの世界が理解できず、すれ違い始める。そして萌は園田に惹かれていく。
富岡よりもワンランク上の世界を見せてくれる園田。その園田にと付き合うことで自分もワンランク上の人間だと思わせてくれる。
しかし、徐々に本当の自分と、園田ワールド内の自分の立ち位置とのギャップに戸惑い、園田の言動に苦しみ、富岡や建設業を腐す園田の言葉に違和感を覚える。
(結末は、読んでみて欲しい。池井戸氏の小説だから、後味は悪くない。)

背伸びすることは、ときには必要だと思う。結果として背が伸びることもある。しかし本当に幸せとなるための最低条件はこれ。
等身大の自分。

おまけ
経済小説は、ビジネス系自己啓発書より役に立つことが多く、この小説も例外ではない。例えば、この小説からスピーチで上がらない秘訣を学ぶことが可能。
人前でスピーチするとき、多くの人は緊張する。役員に案件を説明するときなど、なおさら。
そんなときに唱えよう。
等身大の自分。
大勢の聴衆の前。役員の前。背伸びは要らない。格好つけて背を高く見せる必要はない。等身大の自分。ありのままを見せればよい。
自分は自分のままでよい、という思いが安心感を与えてくれる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?