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小説 本好きゆめの冒険譚 第四十七頁

 10月半ば。

 暦の中では、秋の真っ只中のはずなのだが、まだまだ、夏の残り香があるようで、外の気温は高い。

 緑の中を、車はゆっくりと走る。
 車内では、笑い声が絶えない。

 エアコンの効いた車内から外を見ると、少しだけ黄色味がかった銀杏の葉が、秋が近いと言っているようだ。

「それで、ゆめ?ゼウス様とは、どんな話をしたりするの?」

「あっ、お父さん?」

「え?お父さん?どういう事?」

「あっ、本当の親は、パパとママだよ。でも、ゼウスさんが、お父さんと呼んで欲しいって言うし、ヘーラーさんは、お母さんと呼んで欲しいって言うから、そう呼んでるの。」

「な、なるほど…。」

 確か、ゼウスとヘーラーって、夫婦だったよな…。
そんな2人が、お父さん、お母さんと呼べとは、どういう事だ?

 確かに、うちのゆめは可愛い。それは、贔屓ではなく、客観的に見ても、そう思う。

「ゆめが、可愛いから、そう言ってるんだろうね。神々に愛されるゆめが羨ましいよ。」

 ゆめは、嬉しそうにしている。
 それに、少し、大人っぽくなってないか?
 それも1年、神々の所にいたからなのか?

「なぁ、ゆめ?」

「何?パパ?」

「また、ゼウス様に会えないかな?」

「今度、聞いてみる!」

「頼むよ。」


 海に着いた。

 季節外れの平日の海とあって、人は誰もいない。
 それでも、日に焼かれた砂浜はまだ熱い。

 砂浜で鬼ごっこや、砂遊び、貝殻集め、写真とか撮ったりして、ひとしきり遊んだ。

 服は、汗でじっとりと湿り気を帯びているが、その不快感よりも、楽しさの方が勝ってる。

「お昼ごはんにしましよー!」

 ママの声の方へとパパと競争しながら駆ける。

 今日のお昼は「サンドウィッチ」。

 肉や野菜、魚にフルーツと色とりどりで目を楽しませてくれる。

 口をめいいっぱい開けて、かぶりつく。口の周りについた食べ物を、ママが笑いながらハンカチで拭いてくれる。

 お昼ごはんを食べた後は、少し休憩。

 家族水入らずでの話。笑い声が絶えない時間。

 少し、日が傾いて来た。

 夕日を見ようとパパが言うので、3人で波打ち際へ行く。

「実はね、夕日に照らされた波打ち際で、プロポーズされたのよ。」
と、ママが言う。

「ちょ、恥ずかしいから言わないでよ。」
 パパは照れくさそうに笑ってる。

「ゆめは大きくなったら、パパみたいな優しい人と結婚したいな!」

「え?パパじゃないの?」

「だって、パパと結婚したら、ママが寂しがるもの」

 ゆめ〜と言いながら、ママが私を抱きしめてくれる。

 そうやって、夕日の落ちて行く海を眺めていると
 何やら水しぶきが見える。

 その水しぶきは、異様に盛り上がり、中から人が出てきた!

「よー!ゆめ!久しいな!」

 ポセイドンである。

 慌てて、パパとママを見るが、何も見えていないような表情をしている。

 どうやら、私にしか見えていないようだ。

「どうして、伯父さんが、ここにいるの?この世界には不干渉なんじゃないの?」

「不干渉?いや、私はこの世界に干渉を許されておる!でないと、海で死んでしまう人間が増えるからな!」

「どういう事?」

「フム、ゆめは知らんのだな?」

「はい。」

「では、教えてやろう!この海に出てくる怪物を退治しているからよ!」

「確かに、そんな話は本で読んだ事があります。でも、それって、御伽噺ですよね?」

「いや、あれは全部本当の話でな!この海での事故は、全て魔物や怪物のせいなんだよ!」

「じゃあ、何で今も海での事故が多いの?」

「そりゃ、私は1人しかいないんだぞ!そんなに全部には、手が回らんと言うことだ!」

 続け様にポセイドンは告げる。

「ゆめよ、今すぐに帰るんだ!」

「何でですか?」

「もうすぐ、ここは津波に飲まれるからな!」

「本当ですか?」

「ああ、伯父さんの言う事を信じよ!分かったな!すぐに帰るんだぞ!」

 そう、言い残してポセイドンは去った。

「パパ、ママ、今すぐ帰ろう!」

 2人がビックリして、

「どうしたんだ、ゆめ?」

 ポセイドン、改め伯父さんからの「お告げ」を話した。

 信じられないが、神との繋がりを持つ、ゆめの話をパパは信じて、急いで帰る事にした。

 特に天気の変動はない。

 パパは神様でも当たらない事があるんだな〜と、ソファに座り、テレビをつけると、緊急特番が放送されていた。

 内容は、突然の大津波で家屋倒壊・床上浸水の被害などが、流されている。

 この場所…今日3人で行った、あの海のある場所だ!

 深く息を吐きながら危機を脱した事に安堵した。


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