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ボツになった原案002

こんにちは。
タイトルが002なのに、本文が003ってのは誤植ですか?
いいえ、002は使用しました。

***ここから本文***

0003 糞ゲー

「おい、知ってるか?」
 いきなりそう言ってくるのは、冒険者をやることになった寺岡三澄である。

 三澄率いる農業・工業志願者達は約150名。そのほとんどが三澄を尊敬している者達だ。
 まあ、三澄は「脳筋」なだけに、集まる人間も同じタイプばかりなのだが・・・。

「いきなりなんだよ。知ってるかって言われても?」
「役所がないんだよ!」
「ゲームなんだから、役所なんて要らないだろう?」
「違う!俺が言ってるのは、俺達に仕事をくれる役所の事だよ!」

 仕事あっせんの役所がない?じゃあ他の人達は、どうやって仕事を見つけてくるんだ?

「他の人達にも聞いたのか?」
「ああ、せっかく外を歩いて素材を集めても、どこも買い取ってくれないそうだ。だから、仕事を辞めるって奴が多いみたいだ。」

 実は大型アップデートの際に『冒険者』という訳の分からないジョブも追加になった訳なのだが、どうも細かいところまでは詰めていなかったようである。

「運営には連絡したのか?」
「運営?なんだそれ?」
 俺はため息をつくしかなかった・・・。

「分かったよ。俺が運営に連絡しておく、その間は皆で筋トレでもやってろ。」
「おお、筋肉は裏切らないからな!」
 三澄は、なんだか嬉しそうにその場を去って行った。

 メッセージなどは、フレンド登録しておけば、電話機を持つような感じで手を耳に当てると、テレパシーのように連絡が出来るのだが、運営に連絡の場合は文章でなければならない。

 俺は右手を水平に動かし、浮かび上がるキーボードとモニターを出す。
 JIPANG内では、ショッピングや食事などは本当に試着したり、フォークや箸を持って食事をする「アナログを楽しむゲーム」なのだが、キーボードやモニターなどデジタルの部分は、空中に光の線で構築された「現実離れした」物が浮かび上がる。

 運営への質問や苦情などは日本語のままで構わない。相手に届く頃にはAIによって、正確に翻訳されているのだから。

 俺が連絡をしたと思ったら、すぐに返事が返ってきた。
 内容は「どうぞ、好きに作ってください。」の一行だけ・・・。
 役所を自分で作れって?俺が?

 さらに俺は質問をした。
「どうやって、作れば良いのですか?」
 また、すぐに返事が返ってきた。添付ファイル付きで。

 俺は添付ファイルを見てみると、書面のよう・・・。いや、書面だった。
 誰が、何を目的に事業を始めるのかの理由。料金設定、事業内容を書き込む空白の一覧と規約が書かれた書面だった。

 さらに質問の連絡「料金設定に関しては、まだ決めていないのですが?」
 すると、「では、実際に運営を始めて一か月後にお知らせください。書面は空白で結構です。」と返ってきた。

***

 みんなを集めて会議をすることにした。誰が運営の代表者になるかの話し合いをするためだ。
 オフトは人間だった時から、全員で話し合う。最後の最後まで話し合って、みんなが納得の行く答えを出して決める。こういう方法を取って来た。それは、今でも変わらない。

・・・のだが?

「キンタでいんじゃね?」
 は?
 全員一致で、一瞬にして決まってしまった・・・。

「大体、俺達、オフトの運営事態、キンタがやって来たんだから、お前を除いて他にできる奴なんかいないっての!」
 この理由に全員がうんうんと頷いている。

「じゃあ、俺がやるから、みんな手伝ってくれよな?」

 こうして、「仕事あっせん役所」が発足したのである。

***

 役所を作りました!とは言っても、誰も知らないんじゃ、ないのと同じである。
 俺は三澄に頼んで、JIPANG内の冒険者という人種達を集めて欲しいとお願いした。

 集まった冒険者達は600名程、内150名はオフトの者達ではある程度の発言力を占めていることが分かった。

「え~、この度、冒険者さんの役所を作ることになった金田悟です。よろしくお願いします。」
 挨拶も早々に終わらせ、冒険者達の苦情と要望を聞く事にした。
 その意見から、冒険者役所のルールを作ろうと思ったからである。

 冒険者達から出た苦情はこうだった。
 
・武器屋がない。
・回復できるアイテムがない。
・素材を持ち込んでも、買い取ってくれる所がない。
・死亡した時に、Lv.1に戻ってしまう。

 希望はこうだった。

・常に仕事がある状態にして欲しい。
・魔法が使えるようにして欲しい。
・モンスターがいないので、弱いモンスターから強いモンスターまで、揃えて欲しい。

「ん~、僕は冒険者の経験がないからなぁ〜。」ぼやいていると
「私は昔、冒険者のゲームをやりこんでいましたよ!」の声が上がった。
「貴方は?」
「私の名前は通称で〈斬撃〉と言います。昔は結構、有名人だったのですよ。」
 すると、その人は本当に有名人らしく、周りから「斬撃!知ってる!推奨15名パーティークエストのラスボスをソロで最速タイムでクリアした方でしょ?」ざわざわと声が上がるのが分かった。
「まあ、昔の話ですから。ですので、ギルドの事は概ね、知っていますよ!」
「は?ギルドとは?」
「これは失礼。大体の昔のゲームでは皆、冒険者が集まる場所の事をギルドと呼んでいたのです。冒険者ギルドですね。」

「私で良ければ、お手伝い致しますよ。」
〈斬撃〉さんはニコニコ笑いながら、握手を求めて来たので、こちらこそよろしくお願いします。と手を握った。
「ただ、運営にもルール変更をしてもらわないといけない部分もありますね。」
 斬撃さんが険しい顔つきで、私も苦労しているのですよと言って来た。

 問題は「死亡したら全額没収の上、LV.1に戻ってしまう事」

 本来、JIPANG内では人は死なない。
 何故ならば、危ない事はないという前提からである。
 さらに、プレイヤー・キルも存在しない。そういうルール。

 娯楽をみんなで楽しみましょうというのが、このゲームなのである。だから、危険や死ぬことなど、事故が起こらない限りありえないのだ。万が一のことで死亡してしまった場合、死亡ペナルティとして所持金の全額没収・レベルも1に戻されてしまうのだ。

 しかし冒険者は他のプレイヤーとは違う職業。元々のゲームとは内容自体が違う。未知の世界に冒険に行くのだ。当然、危険や死と隣り合わせである。故に、負傷した時の回復アイテムや死亡した時のルールが他の人達と同じでは冒険なんて、怖くて出来ないという事だ。

 俺は、解りました。運営に掛け合ってみますと言って、会議は終了した。

***

 俺は、運営に連絡をする。
 今度は質問ではなく、要望を伝えるためだ。

「冒険者のみ、ゲーム要素を追加してほしい。」
 すると、すぐに答えが返ってきた。

「実際の世界では冒険者は失敗すると死ぬものです。何が不満なのでしょうか?」
「では、せめて冒険者の場合、死亡した時は所持金没収とLV.1に戻ってしまうシステムを破棄して頂きたい。」
「新たに冒険者になるのです。誰もが最初はLv.1の所持金0から始めるはずですよ。」
・・・確かに。運営の言っていることは筋が通っている。が、ここはゲームなのだ!そこまでリアルにしなくてもいいでしょうに!

「・・・はぁ〜。このまま帰ったら、皆に「この糞ゲーが!」って言われちゃうよな・・。」
 思わず愚痴をこぼしてしまった事がキッカケで話が大きく変わることになる。

「何!糞ゲーだと!それだけはユーザーに言わせてはいけない言葉だ!」
 あれ?俺の言葉が聞こえてるの?だったら、文章でなくてもいいじゃん!

「あの~。」今度は声を出してみる。
「何ですか!」向こうも声で返して来た!
「今から音声でも構いませんかね?」
「ああ、構わない。文章にしているのは、正式なログを残すためだからな。」

 運営の人は、こう言って来た。
「つまり、冒険者の方達は、昔のRPGゲームのように、負傷しても回復するアイテムがあって、死亡しても再生する、魔法使いも魔物やモンスター、魔王やストーリーが欲しいと言うのだろう?」

「随分と詳しいのですね?」
「ああ、昔は私もRPGゲームはやりこんでいるし、ゲーム開発者だからな。冒険者達の言い分は痛いほど分かる。」
「来月に大型アップデートをする際に、冒険者に関してはそのようなルールを儲けよう・・・。君もそれまでに冒険者ギルドの立ち上げに携わればいい。それと、今後は運営の仕事もしてもらう。」
「ありがとうございます!」

 俺は誰もいない壁に頭を下げた。

「でも、一言だけ言わせてくれ・・・。」

「二度と『糞ゲー』とは言うなよ!」


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