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小説 本好きゆめの冒険譚 第八頁

 翌朝、いつもより早く目を覚めたので、リビングへ降りていく。

「おはよう、今日は早いのね」とママが優しい笑顔で応えてくれる。
「・・・おはよう」と寝癖頭のパパがアクビをしながら、寝室から出てくる。いつもの光景。

 今日の朝ごはんは、フレンチトーストとソーセージ(自家製)、有機野菜サラダに果物、オレンジジュース。

「しっかり、食べてね。」とママが、嬉しそうに言う。

「ママの作ったごはん、大好き!」と言うとママは涙を浮かべながらニッコリと顔を向ける。

「ママの作った料理は世界一だからな!」と何故かパパが踏ん反り返る。

 朝ごはんを終え、今日から始まる授業・・と言っても、初日だから授業らしい授業はないのだが、教科書などを確認しながらランドセルに詰め込む。

 机の上には「白紙・・」のコピー用紙の束がある。

「あれ?」

 と思いながら、パラパラとページをめくるが、全部何も書いてない?いや、最後の1ページだけ、何やら書いてある。

「Πρόσκληση」…

 何て書いてあるか解らない。

 訳のわからない言葉の下に「紋章」の様なマークが書いてある。

 幼稚園で、ある程度の英語の時間はあったけど、初歩の初歩の内容だし、この文字は見たことがないからさっぱりわからない。

 リビングに居るパパに、コピー用紙を見せると、まず、白紙と言う事に、不思議そうな顔をしながら
 「何々?Πρόσκληση?これはだね、「・・・」ギリシャ文字っぽいんだけど、僕にも解らないな~」

 英語が得意なパパにも読めないし、第一、意味が分かったとしても訳が解らない。

 パパに聞いても、知らないって言うし、当然、ママも知らない。

 それにしても、このマークなんだろう・・・?

 何だか、手がムズムズする。
 このマークに手を翳したいのだ。

 恐る恐る、左手を近づけた刹那、パパが、何かを悟ったのか
「おっ、思い出した!ゆめ!やめろ!」
 パパが叫んだのだが、遅かった…

 手を翳した紋章から光が溢れ、ゆっくりとゆめの身体を包み込む。

「その紋章は、僕が書いた小説に出てくる勇者の証のイメージなんだ!」

 パパが手を出そうとする前に、光は消えた。
 と言うか、ゆめの手の甲に紋章が光り刻まれ、やがて消えていった…

「ゆめ!大丈夫か!」パパが叫ぶ。

「…うん、何ともないよ。」

「本当に大丈夫なの?」ママが確認する。

「本当に何もないよ。」

「今日は学校を休ませた方が…」
「僕も有給を取って…」

「大丈夫だから!」

 コピー用紙を見ると、Πρόσκλησηと書いてあった文字や紋章、全て消えて、白紙のコピー用紙の束だけになっていた。


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