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小説 万華鏡

この小説はフィクションです。
小説に出てくる地名などは関係ございません。


ここは岐阜県大垣。
現在と違い、この当時の大垣はのどかな田畑が広がる地域だ。

その森の中にお寺があり、そこは子供たちの遊び場でもあった。
いつものように子供が数人集まり、遊んでいると、
一人のキレイな洋服を着た少女が現れた。

当時は戦争の為に、都会からの『集団疎開』が多く、
この大垣も例外ではなく多くの人々が都会から移り住んできた。

少女はこの地域にはないフリルの着いたブラウスと赤いスカート、
スカートに合わせた赤い革靴を履いている。

皆、少女に興味津々だったが、そこは田舎のそれ、
のけ者扱いを受けていた。

それでも少女は毎日のように境内に現れ、何をするでもなく
ただ手に持っていた万華鏡を覗いていた。

万華鏡という物を子供達は知るはずもなく、
ただ、珍しい物を持ってるなと、少女から取り上げ
我先に覗くんだと取り合いをしているのが原因で
万華鏡は地に落ち、壊れてしまった。

「俺達が悪いんじゃないからな!」
子供たちは、一目散に少女を残して帰る。
壊れた万華鏡の破片を泣きながら拾い集めるのだった。

翌日。
「おい、神社で死体が上がったってよ!なんでも首を釣ったて話だ!」
大人たちが大騒ぎをしているのを、子供たちが聞いてしまった。

その死体って、まさか・・・。

「何でも、足元に壊れた万華鏡があったって話だ!」
その話を聞いた子供たちは、昨日、自分たちが壊した万華鏡だと悟った。

「おい、どうするよ、お前が万華鏡を取り上げたからだろうが!」
「なにを!お前だって見ようと手を出したじゃないか!」

子供二人が言い争っていると、
「私達があの子を殺したんだ・・・。」

女の子が小さな声で呟いた。

葬儀は彼女の疎開先、所謂、親戚の家で行われたのだが、少女の家族に知り合いは少なく、参列者の数は数えるほどだった。

この時代の埋葬は、火葬の主観がまだ定着しておらず、土葬の方式で、小さな桶に折りたたんだ身体を押し込み、墓地に埋めると言った形式が行われている。
少女も同じく土葬となった。

数日後。
少年が夜のあぜ道を提灯を持って歩いていたら、ガシャンと何かが割れる音が聞こえた。
少年は、何かその音の方向を見ると、白いブラウス、赤いスカートの少女が立っていた。

「ヒッ!」
少年は小さく悲鳴を上げて逃げた。
その時に提灯は落ち、地面で炎を出していた。

翌日。
「おい、また境内で死体が上がったてよ!」
「その死体の下にガラス玉のような物が落ちていたらしい。」
「いやな事があるもんだね~。」

大人の会話を聞いた子供たちは
「そのガラス玉って、万華鏡に入っていた物じゃ・・・。」
「そんな事、ある訳ねーだろ!」
「そうだよな、あの子が化けて出て来るなんてな。」
子供たちは、ハハハと笑うが、その声は乾いた音にしか聞こえなかった。

数日後。
少女はお風呂に入っていた。
この当時のお風呂は『五右衛門風呂』と言って、釜に湯を張り、釜に直接火を点ける為に、湯船の底に板を置いて入る形式の物。
バランス感覚が大事で、ちょっと狂うとすぐに滑って板が外れ、『アチチ』となる訳だ。
現代日本では、数えるほどしかない形式の風呂だ。

少女も例外なく、五右衛門風呂に入る。
窓から『湯加減はどうだ?』と、声が聞こえる。
「う~ん、もう少し、熱い方がいいかな?」
「そうか、もう少し、薪をくべようかね。」

良い感じの湯加減になった風呂で、鼻歌交じりに上機嫌で風呂を楽しむ少女の上から、何かがポトリと落ちてきた。
少女は、何が落ちて来たのか解らないので、天井を見ると何もない天井から、ポトリ、ポトリとキレイな石が落ちてきた。

「キャー!」

少女は慌てて風呂を出ようとするも、バランスを崩し、湯船から出ることが出来ない。
少女は湯船に沈んでしまった。

翌日。
「おい!また境内に死体が上がったてよ!」
「あの酒屋の娘さんだろ!まだ若いのにな!」
「それがよ、また死体の所にキレイな石が落ちていたんだと!」
「おいおい、まさか、祟りって事ないよな!」

死んでいったのは、子供たちの仲間である。
仲間のうち二人が死んだのだ、
ここまでくると、自分の番が来るんじゃないかと、気が気でない。

数日後、また、子供が死んだ。
その数日後、また子供が死に、とうとう子供は一人となってしまった。

大人たちは霊媒師や祈とう師を呼んだり、いたこを呼んだりと
ありとあらゆる手段で子供を守ろうとしていた。

昼間はどこに出かけても、大人と一緒、寝るときは寝ずの番が付き、少年は守られながら、しかし、恐怖に怯えながら生きていた。

数十年後。
少年は八十代になり、今では孫もいて幸せに過ごしている。
今日は、孫娘が遊びに来る日で、今か今かと待ちわびていた。

「おじいちゃーん!」
孫娘が手を振って走ってくる。
「よく来たね~。」

「あのね、さっき私と同じぐらいの女の子にあったんだけど、これをおじいちゃんにあげてってくれたんだ!」
孫娘の手にあったのは『万華鏡』だった。


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