錬金術師の召喚魔法 第Ⅳ部 サルビア編 第28章 魔大陸編 2805.聖剣の秘密
私は、転移魔法で、カタリナの住む城に移動した。そして、カタリナの部屋に入って行った。
「カタリナ、すまない」
机で、仕事をしていたカタリナが振り向いた。もうすっかり、大人の女性だ。落ち着いた振る舞いも、自然な感じがした。
「どうしたの? ムーンが謝るなんて、初めてじゃないかなぁ?」
「そうでもないよ。いつも、カタリナには、すまないと思っている」
「どうして、ムーンは、私にすべてを与えてくれたわ」
「まだ、まだ、これからも、沢山の物を与えたい。何か、欲しいものはないか?」
「そうね。そろそろ、…。いえ、何でもないわ」
「遠慮せずに、言ってくれ」
「そうね。その時期が来たらね。それで、私に何か、用事かしら?」
「少し、聞きたいことがあるのだが、いいかな?」
カタリナは、椅子から立ち上がり、私の傍に近づいて来た。そして、私の顔を見上げながら、私の両手を取った。
「いいわよ」
「カタリナは、ヘノイ王国の国王になったね。そして、ヘノイ王国の国王には、勇者を召喚する任務がある」
「そうよ。それで?」
「勝手な推測だけど、勇者を召喚する前に、何か予兆があるのではないか?」
「ムーンの推測通りよ。予兆があるわ。それに従って、神殿長に、勇者召喚の儀式を執り行って貰うことになっているの」
「やはり、そうか。それで、その予兆は、最近あったんじゃないか?」
「いいえ、ないわ。どうして?」
「実は、魔火山の噴火が近づいているようなんだ。そして、魔王の完全復活も近づいている」
「やっぱりね」
「カタリナは、何か、気が付いていたのか?」
「ムーン、私、これでも国王なのよ。それぐらい、気が付くわよ」
「そうか。カタリナは、もう、立派な国王だものな」
「そうよ。いつまでも、子供じゃないわよ」
「私は、何時までも、カタリナを初めて見た時のままだと、思っていた。時が過ぎるのは、早いね」
「ムーン、もしかして、私と結婚したことも、覚えていないの?」
「そんな、バカなことあるわけないよ」
「ふーん、でも、私の事を妻として、扱ってくれないでしょ」
「そんなことはないよ。カタリナの事は、一番大切にしているよ」
「そうそう、ムーンに言っていないことがあるの。それは、勇者について、先代の国王から、後で、聞かされたことなの。他言するなと言われていたの」
「えっ、そんなことあったのか」
「実は、先代の国王の時に、勇者召喚の予兆があったらしいの。でも、直ぐに、それが、立ち消えになったって。500年前と同じような感じらしいの」
「たしか、勇者召喚は、500年おきに復活する魔王に対抗するために、行うことになっていたね。そして、500年前には、それは、行われなかった。その予兆がなかった。そして、1000年前には、魔王軍の四天王に脅かされて、勇者召喚を取りやめた。しかし、魔王の復活もなかったから、大事には至らなかった。と、いうことだね」
「そうよ。でも、500年前は、予兆があったらしいの。そして、神殿長に指示をして、準備を始めたけど、いつの間にか、その予兆が消えてしまったらしいの」
「そうか、先代の国王が、予兆のことを聞いていたのか」
「そうなの。そして、先代の国王が言うのには、どうも、他の者が勇者を召喚したのではないかと、思っていたというの」
「でも、500年前には、勇者が現れたという話は、どこにも、なかったのじゃないか?」
「そうよ。それで、今回は、500年前の事を聞いていたのと同じように、感じていた予兆が、急に消えたらしいの」
「それは、本当なのか? それで、既に勇者が召喚されているのではないかと!」
「そうよ」
「それなら、直ぐに、勇者を探さないといけないね。今回、やっと、聖剣・聖盾・聖防具を揃えることができたんだ。それらを勇者に渡したい」
「えっ、聖剣は、勇者にしか、見えないのよ」
「でも、多分、聖剣だと思うよ」
私は、カタリナの手を振りほどき、アイテムボックスから、聖剣を取り出した。
「これだよ。私が、見つけたのは」
私は、聖剣を手にとり、鞘から出して、天井に向けて、突き上げた。すると、聖剣は青白い光を帯び、周り一体を照らした。
「本当に、聖剣なのね」
「ほら、勇者でなくても、見えるだろ」
「ムーン、勘違いしないでね。勇者が持てば、聖剣は、誰にでも、見えるのよ」
「何を言っているんだ。カタリナ、どうかしているよ」
私は、聖剣を鞘に戻してから、床に置いた。
「ほら、そこに、聖剣があるよ。カタリナも、見えるだろう」
「いいえ、ムーンの手から離れてからは、見えていないよ」
「そんなバカな、私をからかっているのか?」
「私が、信じられないの?」
「それじゃ、まるで、私が、勇者みたいじゃないか?」
「そうよ。そのとおり」
私は、大声で、侍女を呼び集めた。
「今すぐに、私の声が聞こえた侍女は、ここに集まれ!」
直ぐに数名の侍女がカタリナの部屋に入って来た。
「ムーン様、何でしょうか?」
侍女たちは、私とカタリナを取り囲むように、集まった。暫くすると、更に多くの侍女がやって来た。そして、私達は、完全に侍女達に取り囲まれた。
「私の足元にある剣を手に取れ!」
集まった、侍女たちは、キョトンとしていた。ムーンの足元には、何も、見えないからだ。
「何をしている! 早く手に取れ! 手に取った者には、何でも、褒美をやろう」
私は、更に声を荒げて、侍女たちに指示を出した。だが、誰一人として、動くものは、いなかった。先ほど以上に、驚いた表情をしていた。
「もういいでしょ。はい、はい、皆は、元の場所に戻って、仕事をしてね。ムーン、冗談が過ぎるわよ」
カタリナの声に我を取り戻した侍女たちが、部屋を後にした。
「ムーン、どう? これで、分かった?」
私は、何が起こったのか、事実を受け入れることができなかった。ただ、立ち尽くすだけだった。
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