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失われた記憶を探す闇の魔法使い(The dark wizard searching for lost memories) 第1章 冒険者ルナ 第1話 冒険者ギルド

 ルナと生活を始めて、もう、1週間が経った。ルナは、11歳のまだまだ駆け出しの冒険者だった。

 冒険者と言っても、魔物を狩るよりは、森の中で、薬草を取ったり、その薬草で、ポーションを造ったりして、生活していた。そのため、それほど、裕福ではなかった。そして、ルナも、私と同じように一人っきりで、生きていた。幸い、父親が錬金術師で、一緒に薬草取りに行っていたので、薬草に関しては、大人顔負けの知識を持っていた。また、少しだけだが、光魔法を使えるので、治癒魔法やポーションを創るのには、向いているようだ。

 私は、ルナからは、5歳程度の幼児に見えるようだ。自分自身は、そんなに幼いとは思っていなかったのだが、今の容姿は幼児そのものだった。身長も、ルナより小さく、簡単に抱えられてしまいそうだ。

 「ラズ、もう、朝よ。早く起きてね」

 「うん。起きるよ」

 私達は、簡単な食事を取り、森に向かった。ルナの世話で、すっかり元気になった私は、小さいながらも、ルナに遅れることなく、付いて行った。むしろ、ルナに合わせて、ゆっくりと歩いている感じだ。

 私は、森の中の魔物や動物を感じることができる。どうも、これは探索というスキルのようで、誰でもが持っている能力とは違うようだ。しかも、私のスキルは、群を抜いているようだ。周りの人たちには、内緒にしているが、同じようなスキルを持っている冒険者の話を聞く限り、全く違う能力の様にさえ、思えた。

 「ラズ、この薬草を見て! 貴重な物なのよ」

 私は、ルナに呼ばれて、その草を見た。だが、私には、薬草の知識はあまりないようだ。そして、興味も湧かなかった。

 「どこが、他の草と違うの?」

 「ラズ、違いが分からないの?」

 「わからないよ」

 「薬草から出ている僅かなマナを感じて!」

 「マナって、なに?」

 「マナって言うのは、生命の元みたいなものよ。ラズ、貴方にも流れているわ」

 「よくわからない」

 「私の手を握って見て、マナをラズに流してあげるわ」

 私は、ルナに手を握られて、何かが流れ込んでくるのを感じた。

 「これは、いつも、吸収しているものだ!」

 「ラズは、マナを吸収できるの?」

 「ルナは、出来ないの?」

 「吸収すると元気になるよ」

 「えっ、大気からマナを吸収できるなんて、精霊ぐらいよ」

 「そうなの?」

 「ラズ、そのことは、誰にも言ったらだめよ」

 「うん、わかった」

 「そのマナが、この薬草からも感じられるはずよ。それが、薬草毎で、異なるの。だから、違いが判るのよ」

 私は、もう一度、薬草を見て、マナを感じようとした。確かに、マナが僅かではあるが漏れ出ている。

 「少し、わかった」

 「マナの色が見える? 少しずつ違うでしょ」

 「よくわかんない」

 「そうか。分んないか」

 ルナは、少し残念そうだ。でも、ルナのこの能力の方が特殊なのでは? ルナ自身は、感じていないようだけど。

 「まあ、いいわ。少しずつ、慣れて行くでしょう。そうでないと、薬草取りは出来ないわ」

 「ルナ、私、冒険者になりたい」

 「ラズは、まだ、幼いから、登録は出来ないと思うよ」

 「でも、見に行くだけならいいでしょ」

 「そうね。薬草も、結構溜まったし、一緒に冒険者ギルドに行って見ようかな」

 「ありがとう。ルナ、うれしい」

 私達は、薬草を背負って、森を出て、街に向かった。

 街の入り口には、門番が立っていた。ルナは、慣れた手つきで、冒険者IDを見せて、門を潜って行った。

 街の中には、人が溢れており、私は、落ち着かなかった。どうも、私は人が嫌いなようだ。

 「ラズ、こっちよ。逸れないように、私の手を握っていてね」

 「はい」

 私は、ルナに引きずられるように、歩いて行った。暫くして、冒険者ギルドに到着した。

 「ラズ、ここよ。ここが、冒険者ギルドよ」

 冒険者ギルドに入ると、中には大勢の人が、集まっていた。そして、数人のギルドの従業員がそれらの人をうまく捌いていた。

 「すみません。薬草を売りたいのですが?」

 ルナが、受付の女性に声を掛けている。私は、どんなことをするのか、興味があったので、ルナの横で、じっと眺めていた。

 「あら、ルナ。久しぶりね。どうしていたの?」

 「森で、薬草を取っていたのだけど、あまり、いいものがなかったの」

 「そう。でも、ルナが持ってくる薬草は、とても品質がいいのよ。もう少し、品櫃が悪くても、買い取れるよ」

 「本当! うれしい。でも、やっぱり、自分が納得できる物しか、売れないわ」

 「そうね。でも、もっと、稼がないと生活が苦しくなるよ。そうだ、薬草のままでなくて、ポーションにしてから、売れば、もっと、効率が良いわよ」

 「でも、私、魔力量が少ないの。だから、一度に沢山のポーションを作れないの」

 「そうなの。残念ね。でも、少しでも、ポーションにしている方がいいわよ。考えてみてね」

 「はい。ありがとう」

 ルナは、係の女性に薬草を預けた。それを係の女性は、確認して、硬貨をルナに渡している。

 「ところで、その小さな女の子は、誰? 初めて見るわね」

 「森で、迷子になっていたの。可哀そうだから、私が面倒を見ているの」

 「そうね。施設に預けても、苦労するからね。ルナが面倒を見てあげるほうがいいかもね」

 「もう少し、大きかったら、ルナと一緒に働けるのにね」

 私は、小さいと言われていることに、少しイラっとした。
 
 「私も、働けるよ」

 と、思わず、係の女性に言い放った。

 「まぁ、元気な女の子だこと。これなら、ルナの手伝いもできるかな?」

 「できるよ」

 「分かったわ。頑張ってね。名前は何?」

 「ラズ、ラズだよ。ルナがつけてくれたの」

 「そう。ラズ、ルナを助けてあげてね」

 「うん。分かった。ねえ、お姉さん、薬草以外にも、買って貰えるの?」

 「そうだね。魔物なら、もっと、高く買ってあげるよ。でも、危険だから、貴方達には、少し無理かな?」

 「魔物だね。私が狩ってくるよ」

 「あら、元気ね。でも、ルナの言うことを聞いて、一人ではだめよ」

 「うん。分かった」

 私は、ルナに手を引かれて、冒険者ギルドを後にした。

 「ラズ、どうして怒っているの?」
 
 「なんだか、バカにされたように感じたから」

 「そうか」

 ルナは、何度も、頷きながら、私を抱きしめてくれた。

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