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大工、親父がキビシ~

 十代の頃、父に連れ出された現場では主に掃除をしていました。イエス! 一日中! そのせいか、今でもホウキを使った掃き掃除は得意です。って自慢になるんかこれ。


 父や他の大工さんが丸ノコでBeeeeeeN!!  と、木材を切ったあとの切りくずをすかさずサッサ。BeeeeeN! サッサ、BeeeeeN! サッサのリズムでございます。


 これ冗談に聞こえると思いますが、本当に一日中ホウキしか持たされなかった日もありました。だから退屈であることこの上ないのよね。父は無口だし。あれはつらかった。


 でね、たまに父が道具箱から特定の道具を取ってくるように僕に頼むんです。これがまっじで嫌だった。なぜかって、わからんのよ。父の注文が。


 たとえばこんな感じ・・・


 「おい! ガッチャ持ってこい!」


 「え・・・?」


 「ガッチャ持ってこい!」


 「なにそれ??」


 「ん~・・・ガッチャっ!!」


  大工のことなんて右も左もわからない、まだ十代半ばの少年相手にこれですよ。ちなみに、最初から最後まで右肩上がりに親父はブチ切れていくんです。


 ガッチャとは何かを問うても、これ以上聞くなとばかりに大声で「ガッチャ!」と繰り返すのみ。しまいには「ガッチャマン!!」って言っちゃってたからね。マジで。


 キビシ~!!


 また別のときは・・・


 「おい! カラス持ってこい!」


 「え・・・?」


 「カラス持ってこいっつーの!!」


 「なにそれ??」


 「だから・・・カ~ラ~スっ!!」


 ゆっくり言い直してもカラスはカラスだよ。なぜ泣くのじゃないんだよ。わかんないから泣いてんだYO!


 とにかく、この頃の父は厳しくて、質問すると例外なくブチ切れる人だったのね。だから自然と父に話しかけることなんてなくなったし、会話なんてほとんどなかったよ。


 たまに「じゃあ、お父さんが師匠なんですね」なんて言われることがありますけど、とんでもない。父から大工の仕事を教えてもらったことなんてほとんどないです。


 僕の師匠は強いて言うなら兄や常駐の大工さん達です。


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