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【詩】砂塵

初夏の葉裏が瑞々しくて狂いたがり
春の踵で土瀝青を叩き割るような
拳の疼きは鬣を持つわたしの獣性に
エディソンランプの灯りが鈍器を照らし
液体の粘性を指先で試した
今日が稀に流れ着く
苦しみの梢に足を運んで
正しく日常の空隙に楔を打ち込み
角度をもらった切っ先に
わたしは全てを滑らせるのだ
段々下って涙がり
夕陽に上って涙がり
一様に湿った横顔は
あなたも同じく百人顔を為している
運動していた呼吸のプリズム
なにも今になって探さなくとも
無視され続けた嬰児の夢も
引き裂いた樹皮の湿りが
温もりは温もりの中にあった
執拗に眺めることで慕う心を養い
歩き出した理由は見失う
わたしは何者だったのか
不吉な黒鳥の鳴声が馬鹿馬鹿しく徒労
深海の砂が僅かな流れにさらさらと擦れ
森を見つめて静かに佇む騎士像の夜に
ネバダの岩陰に落ちた蜥蜴の尻尾が
朝陽を浴びた小さな魂の変化に
宛てがう命こそ選びとり
無窮の孤独へ牛車を遣う
畜生を屠るカトラリーすら
肉を喰らう生物として
責任に穿った釘を抜かんと
なにを今更抱えんとする
炎に揺られてわたしは生きよう
凡百の砂塵の只中に

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