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【短編】ダイナミックジャンケン

荒廃したかつての商業都市テッシは、もはや見る影もなかったが、いなくなったビジネスマンや投資家の代わりに新たな住人を受け入れていた。

彼らは皆根っからのバクチ打ちで、街頭で鉢合わせるなり素早く戦闘体制に入る。
戦闘体制と言っても、本当に闘うわけではなくジャンケンが始まるのだ。

テッシは終末戦争後、ひどく荒廃し商業都市としての機能は破綻していて、旅人も滅多に近寄らない治安の悪いエリアになっている。

そこに棲みつき、旧暦時代のオリエンタルな島国で行われていた「メンコ」や「ベーゴマ」のように、対決の末に手持ちのアイテムを奪い合うバクチ要素の強い遊びに日々興じる連中のウワサは、新共産圏にも旧資本主義圏にも広まっていた。

いつしか「ダイナミックジャンケン」と呼ばれるようになったそのファイトスタイルは、荒廃都市テッシで生きる彼らの最大の特徴だ。

街で出会うとまず一定の距離を確保する。暗黙のタイミングで「ジャーン  ケーン!」と掛け声を発し合いながら姿勢を低くして両足で大地を掴む。

「ダイナミック!!」の絶叫とともに双方が相手に向かって突進しながら
右手で「ダイアモンド」「ラバンティ」「ケブラー」のいずれかを高速で繰り出し、勝者が敗者の全財産を没収するという、一見馬鹿馬鹿しくも思えるこのバトルは、スピード感と躍動感に富み、トップジャンケナー同士のバトルともなると大地を蹴ってから技を繰り出し着地して勝敗が決するまでの滞空時間の長さは「エアー」と呼ばれ、ならず者たちの人だかりが出来るほどだ。
硬い鉱石「ダイアモンド」は鉄を裁断する「ラバンティ」に勝ち、「ラバンティ」は破れない繊維布「ケブラー」に勝つ。「ケブラー」は石ころであるダイアモンドより強い、というわけだ。
世界有数の商業都市だったテッシならではの「グー、チョキ、パー」の表現だ。
トップジャンケナーはその芸術的なエアーだけでなく、そもそもジャンケンがめっぽう強い。負けないのでかなりの資産家となる者も多い。

そんな「ダイナミックジャンケン」を興行としてビジネス化しようとある起業家がテッシへやって来た。

「あんたたちの真剣勝負、ぜひ興行としてサポートさせくれないか。今よりもっと潤う事は約束するから」

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