日常的な光景(冤罪2)
もうやめてよ。おっかない園長先生がこっち来るから。
退屈な発表会の予行演習で、他所の組の子たちのへたくそな演奏を、じっと椅子に座って聞かなくてはならないのは辛いものだ。
でも、だからってそんな風に私の足を自分の足で持ち上げたりして、もて遊ばれても困る。
私はジロッととなりの明美ちゃんを睨みつけた。
明美ちゃんは知らんぷりをして舞台の演奏を見ているフリをしている。
私は明美ちゃんの足から自分の足を下ろすと、もう一度きちんと椅子に座りなおした。
園長先生が前の通路を通り過ぎる。
私たちは少し緊張してそれをやり過ごした。
他所の組の子たちの演奏はまだ続いている。ボーっと前を眺めていると、また明美ちゃんが隣から足を出してきて、私の足を自分の足に絡めて遊び始めた。
足をぐいっと引っ張られる。
もう。いい加減にしてよ。
足を戻してまたもや明美ちゃんを睨みつけるが、明美ちゃんは素知らぬ顔。
もう一度座りなおして前を向くが、もういい加減うんざりしていた。
発表会など自分の番でもない限り退屈なだけだ。しかも予行演習。
それでも他所の組の演奏もちゃんときちんと聞かないと怒られる。
皆退屈な時間を黙ってじっと耐えている。
つまりぼーっとすることを覚える時間なんだ。
しばらくするとまた明美ちゃんが私の足を自分の足でもてあそび始めた。
私の右足は明美ちゃんに引っ張られて大きく開き、明美ちゃんはその足を自分の足に乗せてポンポンと持ち上げている。
ヒマで、退屈で、遊びたくて仕方がないのだ。
・・・このまま、足を外さずに放っておいたら、明美ちゃんも飽きるかな?
ふとそう思って足をされるがままにしてみた。
案の定、明美ちゃんはそのうちそれも飽きて私の足を自分の足に乗せたまま、それきり動かさなくなった。
やっぱりね。私が抵抗するから面白がってやるんだわ。ざまあみろ。自分で足を外すまで私からは外してやんない。
私は知らんぷりをしてつまらない演奏を聴いているフリをした。
ぼーっと前を見ているうちに眠くなってくる。
だんだんと意識が遠くなってきていると、突然首根っこを掴まれて立ち上がらされた。
びっくりして後ろを振り返ろうとする。
しかし振り返れないままずるずると引っ張られて、講堂の外に連れ出された。
園長先生だ。
私がびっくりして声を上げようとすると、園長先生は「シッ」というような顔をして睨みつけた。
「どうしてここに立たされているか分かるよね」
はあ?
自分でもみるみると顔面が紅潮するのがわかる。
もしかして明美ちゃんのこと?私が明美ちゃんの足に足を乗っけられていたから?私が悪いと思われてるの?
怒りのあまり目が眩む。
「どうしてここに立たされているか?」そんなもん分かるわけないじゃない。私は立たされるようなことしていないのに。
「分かりません」
そういう私の声は怒りで震えていた。
園長先生はさもあきれたと言わんばかりに、わざとらしい溜息を着くと「じゃあ、分かるまでそこで立ってなさい」と言い残して去っていった。
どうして?私は何も悪いことしていないのに?どうして立たされなきゃいけないの?
どうして園長先生は理由も聞かずに行っちゃうの?
「あなたが明美ちゃんの足の上に足を乗っけてたから立たせているんですよ」
・・・ってそう言えば私だってちゃんと反論するのに。
「どうしてここにたされているか分かるよね?」
なんて言う言われ方をしたら、「分からない」って言うしかないじゃない?
いつの間にか大粒の悔し涙がポタポタと床を濡らしていた。
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