記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

The Holdovers ; アメリカ社会の闇とそれぞれの立場の苦悩を超えた優しい関係性が育まれる物語(1)

アカデミー賞助演女優賞をとった、この映画なんだろ?
待って待って、ゴールデングローブの主演男優賞もとってるよ。

私とオットは夕食後に時々ストリーミング(ネット配信)で映画を見る。大抵お酒を飲みながら、体調にあわせて軽いアニメからオットの好きな(?)バイオレンス満載なものまで。まぁあんまり映画に詳しくない私と映画をみて育ってきたオットとの、会話のいらないコミュニケーションでもある。

大抵オットが選んだ映画をそのまま見る。のだが、私も先にあらすじくらいは知りたい。これも映画が始まってから手許の携帯で映画タイトルをググったら、ぞろぞろと受賞した結果が出てくる。なんだなんだ、全く知らなかったよ。しかも画面の中に映し出される学生たちのファッションはどうみても40-50年前だ。去年公開の映画だよね?

A cranky history teacher at a prep school is forced to remain on campus over the holidays with a grieving cook and a troubled student who has no place to go. (プレップスクールのいつも不機嫌な歴史教師は、悲嘆にくれているコックと、行き場のない問題を抱えた生徒とともに、休暇中もキャンパスに留まることを余儀なくされる。)

IMDb 'The Holdovers'より

その下にあるStorylineを読み進めると舞台は1970年の名門ボーディングスクール。映画は容赦なく進むのであらすじを読むのはここまでにした。ちなみに私が1969年生まれなので、その頃のアメリカの話、と思った方が親近感が・・・・いや、全くない。知らんよ、私が産まれた頃って朝鮮戦争は一応休戦になって、その一方でベトナム戦争が始まった頃でしょ、っていうくらいしか。

・・・さて。いきなりその後の2時間をすっ飛ばすが、これは本当に心の中でなにか温かなものを両手で包み込んだような気持ちになる、素晴らしい人間同士の心の触れ合いのお話だった。日本語でのあらすじはウェブ上のあちこちに落ちているしイイ感じにまとめられているのでぜひそちらを。とにかく見終わってこの「優しい気持ち」が数日身体を温めてくれるような、そんな素敵な映画が色んな賞をとるのは当たり前です。

日本での公開が6月かららしいので、あらすじは公式ウェブサイトなんかに譲ります。そして私は私なりの視点、個人的にいろいろとじわぁんとした「アメリカ社会」の構造の中で苦しむ子供達や色んな立場の人の話をしたいと思います。(当然ネタバレさせてしまいますので、その辺お気をつけて。)

ちなみにnote内でもこの映画のことを既に早い時点で書かれていらっしゃる方達がいらして、こういう専門的な深掘りは私にはできないのでそういう映画評を期待される方はそちらをどうぞ。

舞台は1970年・・・なぜ?

さて、まずなんで1970年だったんだろう、と見始めた時思ったのですが、これは比較的早い時点で分かりました。ベトナム戦争です。料理長のメアリー・ラムは息子カーティス・ラムをその戦争で亡くしています(終業式みたいな会の場で、追悼のことばが学長?から送られています)。
アメリカの激しい貧富の差とかこの社会の中で割を食うのはいつも最下層に近い、真面目な人たちなんだということを端的に表しているんだと思いました。カーティスは大学に行くお金がないからまずは軍隊に入り、その後国の補助を受けて大学に行きたかったのに。
そして・・・こんな状況は50年後の今のアメリカでも、結局あんまり変わってません(というか大学進学に関しては悪くなっているかもしれない)。夢を掴める国には、その足許に沢山の這い上がれない人たちがいる、っていうのは残念ながら事実です。

お話として、アメリカ社会の厳しいところを様々な立場の人間から見せて、そして共感できるところに持っていくのに 時代設定は大事だったんだと思うし、実際伝えたいことが数倍に膨れ上がって見る人の心を掴んでいると思います。

アメリカの学校システムのはなし

ストーリーは(私の引用先にもあったように)Prep School(進学予備校、という感じのことば)での出来事。因みにですね、アメリカは高校まで義務教育で、日本のような「予備校」はありませんのでこのPrep Schoolは即ち「大学進学を考えているエリートの子女が通う学校」。多くが私立で「生徒:教師比率」が10〜15くらい(つまり「手厚い教育が受けられる」場所)です。もちろんえらく学費が高い($1=¥100計算ではありますが現在なら年間350万円〜650万円というところでしょうか・・・・高校ですよ?!)。その中でもこの話の舞台になっているようなボーディングスクールというのは、学生が寮生活を送りながら通う学校です(自宅から通うことも出来ますが、まぁ大体の親は子供を寮にいれますね)、学校の先生たちもマスターやドクターを持ってるすごいひとたちばかり。もちろん学費も跳ね上がります(もっと・・・って、どんだけかかるの、って私なら思っちゃうが)。

余談ですが、よく考えたらうちの子達が通っていたのもPrep Schoolの位置づけかもしれません。まぁ田舎(とかいったら怒られるけど)なのでそこまで・・・ですが、アメリカの進学事情を全くしらない私たち夫婦には その辺を子供達に親身になって相談し一緒に考えてくれる学校として選んだまででした。でも確かに、子供達の同級生には「クリスマスプレゼントがフェラーリだった」とか「親が自家用ヘリで○○につれていってくれるから」みたいな話がでる友達が結構いました。(めちゃ、我が家は分不相応でしたかね)

アメリカのボーディングスクールはイギリスのパブリックスクールみたいなものだろう、と私もぼんやり思っていたのですが、そのあたりをnote内で記事にされている方がいらしたので参考までに。

そして、映画の中でもでてきますがイイ学校(大学)に入るのには「レガシー枠」(親がその学校卒業生だと優先的に子供が入れたりする)とか 寄付金を積める親だ、とかそんなことが当たり前にある最近のアメリカ。「ダイバーシティを考えた差別のない入学選考」・・・とは書かれているけれど、まぁ有名校は私立が多いのでそのへんは曖昧だし それで受験者から訴えられるというのはあんまりないかな。高校の進学担当の先生が口利き料を親からもらって・・・というのは数年前にさすがに訴えられてましたけどね。

映画のなかでさらりとその辺が触れられています。要するに「超金持ちで、かつレガシー枠を持ってる生徒」の点数を操作しなかったもんだからその子がプリンストン大学に落ちて・・・みたいな話ね。それでこの物語の主人公の1人でもある歴史のハナン先生は(そうは言われてないけど明らかにその罰として)居残りの生徒たちの面倒をみるように言われるわけです。もうあの一瞬の会話で「あーーーー・・・・いるよねいるよね。そういう生徒もそういう親も、あれこれに忖度する校長とかハナン先生みたいに努力できる生徒じゃなきゃそんなイイ学校に入れる必要ないだろ、と思ってる良い先生とか・・・」って苦笑いする、そんなアメリカ社会がみえるわけです。

アメリカのホリデー

アメリカのクリスマス映画なんてみてれば、「ああ、アメリカ人にクリスマスホリデーって大事なんだな」「家族や大切な人と一緒にすごす時期なんだな」というのは感じられると思います。実際クリスマスホリデーはかなり特別な意味をもち(日本みたいに彼氏・彼女とすごす、っていう特別感もないわけじゃないですが、もっと精神的にお互いを愛で包み合うようなものです)私たちもアメリカに来たばかりの頃は「家族はみんな日本?!そんな寂しい時間をすごしちゃダメ!」と家族の集まるパーティーに呼んでいただいたりもしました。

とにかく「みんなで」暖かく、笑顔のなかですごしましょう、という時期。クリスマスホリデーに「家に帰れないひとたち(Holdovers)」でいるというのは、詳細を知らずとも可哀想に・・・と誰もから思われる立場です。

そういう背景がある中で、映画の前半でさらりと語られるホールドオーバーズ(居残りの生徒たち)の各家庭事情だとおもうと、それぞれの子供達が言葉にはしなくてもどれ程の心の傷を負っているかがわかります。特に下の学年の韓国人の子と「ユタ州プロボに実家のあるモルモン教徒」の子。モルモン教徒(LDS、Latter Day Saintsとも呼ばれます。)はご存知ないかも知れませんがれっきとしたキリスト教徒。キリスト教信者にクリスマスが大事ではないわけがありません。
でも韓国人の子は「2週間の休暇で韓国は子供1人で帰るには遠すぎる」という理由、もう一人の白人の子は「親が海外に伝道に行っているから帰っても誰もいない」という理由。子供なりに理解しようとしているけれど彼らはまだ幼くて、子供を持つ親としてはなんて切ないのか・・・と思ってしまいます。

その後富豪の息子が「うちのヘリがくるから、みんな一緒に行こうよ」と声をかけてくれるあたりも、もちろんお金持ちだから居残り組の子達を呼んでもそれくらい気にしない、というのもあるけれど基本「クリスマスはみんなで楽しく温かくすごす」という考えが皆に徹底してあるのがわかります。

・・・ということを書いただけでも、「クリスマス休暇に帰る場所がない」というのがどれほどのことか、拷問にも近い心の傷を負わされることになるかが分かるンじゃないでしょうか。



・・・・ええっと、まだ書きたいことがあるんですが既に4千字近いので残りは第2弾へ・・・


サポート戴けるのはすっごくうれしいです。自分の「書くこと」を磨く励みにします。また、私からも他の素敵な作品へのサポートとして還元させてまいります。