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【第9回】 アメリカ、イギリスにおけるエリート教育の根源

~その現地訪問によるインタビューを通じて2007~

※私が2007年にアメリカ、イギリスの学校を訪問してまとめたものです。訪問から月日が過ぎてはしまいましたが、希学園の根幹に通ずるものがここにあるので、各種データは当時のまま、文章部分に修正を加えています。

アメリカ編 Dunn School
回答者:Jim Munger

Jim Munger校長(2007当時)


 前回に引き続きDunn Schoolを紹介します。今回はJim Munger校長(当時校長)への質問とその回答という形で記します。

[質問1]
 昔からエリート教育を行うのに寮生活を通じて全人教育(知育、徳育、体育)がなされ、その結果としてエリートが世界中に輩出されてきた歴史があります。それがイギリスにおけるパブリックスクール、アメリカにおけるボーディングスクールでしょう。日本でも寮生活を通じて真のエリート教育を行っている学校があります。しかし、その大部分は知育に偏っていることは否めません。では、なぜアメリカにおいて御校のようなボーディングスクールは、体育や芸術などの面を大いに取り入れながら、さらにはそのことがどのような力となって難関大学に多くの生徒を合格させることができるのでしょうか。学力を効果的につけさせるのにどのような方法が講ぜられているのかを教えていただけますか。

[回答1]
 アメリカでは、公立校・私立校に関わらず、体育の授業はあり、その存在を重要視しています。クラブ活動にしてもクラブごとに運営されているというよりも、学校全体で運営されています。身体的な発達は精神的な発達に繋がると信じています。10代、特に14歳から18歳までの若者に関しては、成長期にあります。彼らにとって身体的活動は、とても重要です。もし身体的活動を義務づけないと、若者達はそれを自分たちからはしない傾向にあります。
 また、スポーツを通して若者に規律を学ばせることができます。若者は、スポーツからまず自制力を学びます。そしてその力を、学校生活に活かすのです。また、チームワークも学びます。チームワークの本質は、まずスポーツを通して学ぶのです。そしてその力を、教室で活かすのです。
 社会に出てからも、組織の中でやっていかなければなりません。同じように、寮制学校では教室以外でも大人と接する機会があります。彼らは生徒の見本となり、礼儀・品性をその私生活を通して教えます。それが寮制学校の強みです。24時間を通して生徒教育ができるのです。

[質問2]
 有名大学にたくさん合格者を出す秘訣はありますか。

[回答2]
 それは難しい質問ですね。アメリカの大学がこれ程競争的になってきたのはここ10年程の話です。私たちは、生徒達が行きたい大学と合っているかをしっかり見抜くようにしています。とても競争の激しい有名大学に受かったとしても、その大学生活が続けられなければ意味がないのです。ですので、生徒の個性や学力的にも合った大学に進むのが一番であると思います。
 Dunn Schoolには多様な生徒が集まっています。カリフォルニア州立大学に進む生徒もいますし、スタンフォード大学に行く生徒もいます。ときには保護者が私達に「息子をスタンフォード大学に行かせてください」と言っていますが、当の息子にはその気は全くなく、しかも学力も足りない。そんな場合、私達は、他にもたくさんの良い大学がある事を保護者に理解させなければなりません。私達は、生徒にとって魅力ある、個性の合った大学を見つけてあげなければならないのです。それにより4年間、彼らは充実した大学生活を送ることができるのです。彼らに合った大学を見つけてあげる事で、後の人生の成功をもたらしてあげる事が私達の最大の使命なのです。

[質問3]
 日本でも寮生活を通じて学ぶ事の最大のポイントは、次のステップ、例えば、大学入試に向けての効果的な学習を可能にするシステム、あるいは精神力を培うことができる点にあると信じています。この点について、特筆すべきことがあれば、教えていただけますか。

[回答3]
 生徒への指導は授業の中だけで行われている訳ではありません。生徒は授業以外でも沢山の責任感のいる仕事を任されています。宿題やプロジェクトなどが主なものです。寮生活を通して生徒は24時間講師と時間を共にする機会があります。例えば、夕食時間も講師と授業の内容・プロジェクトの内容について話し合う事が出来ます。このようにして、生徒の知的教育の場を常に提供しているのです。

寮にある談話室

[質問4]
 寮で生活している生徒と通学生との違い(差)についてのご意見をお聞かせください。

[回答4]
 寮生と通学生の違いは、生徒間の関係にあると思います。私達のような小規模な学校では110名の寮生は私達にとっては家族のようなものです。生徒達もお互いを尊重し、密な関係を築きます。通学生はその様子を見て、自分達もこの様な関係を築きたいと羨んでいるのが事実です。
 また、寮生はグループで生活するため、自分の行いに対して責任を持って生活しなければなりません。自分の行いに対して、周りからの反応があります。この環境が寮生の人格形成の発達に関係していると思われます。

[質問5]
 大学への進学状況について、寮生と通学生とで顕著な違いがあれば教えてください。

[回答5]
 寮生には、自分が住んでいた地域が学力的に高くないため、本校に移ってきたというケースが多くみられます。地元では自分の求める勉強が出来ないから、という明確な理由を持って寮制学校に来るのです。彼らの両親や彼ら自身は学業に対してとても熱心です。それに対し、通学生は、近くにあった学校に通っているだけで、何かを犠牲にしてここに通っている訳ではありません。ですのでその分、寮生達そしてその両親達も、学業に関して意欲的であると思います。

[質問6]
 御校では悪いこと(校則違反)等を行った生徒を真のエリートとして成長させていくために単純に罰則を与えるだけでなく、彼らの心の中に入って心の底から「自分はこのままでは駄目だ。もっともっと自分の幼さや未熟な点を克服して頑張っていかなければならない」と思わせる教育指導を行っておられます。その教育指導のポイントを教えていただけますか。

[回答6]
 本校には、段階的な指導があります。各講師が5~6名の生徒のアドバイザーを行う『アドバイザー・システム』というものがあり、アドバイザーは学業面や生活面での相談にのります。アドバイザーは、掃除など毎朝の仕事の際に、自分が指導している生徒と顔を合わせます。それにより、彼らとのコミュニケーションを密に取る機会があるのです。毎朝のちょっとした会話から信頼関係を築いていくのです。
 もし、態度が良くない生徒がいた場合、そういった生徒に対応する担当者もいます。私は、どんな罰でも結局一番重要なのは生徒と話し合う事だと思っています。ですので、アドバイザーと生徒対応の担当者の存在が、悪い事をした生徒を変える助けになっていると思います。さらに、重大な規則違反を行った場合、生徒は私のもとに来ます。私は彼らと話し、どうすれば変わる事ができるのか相談にのります。そして彼らは毎日私と会い、話をします。彼らに改善が見られた場合、その努力を認めてあげます。そういった周りからの応援・助けが彼らに大きな影響を与えるのです。

[質問7]
 彼らはその指導ポイントに気づいてその後、どのような学習態度の変化が見られるようになりますか。

[回答7]
 私達の中で、こういったフレーズがあります。「まず生徒を理解し、やる気を起こさせ、そして生徒を育てるのです」。ですので、私達の一番初めにやらなくてはならない仕事は、生徒を理解する事です。そして、生徒を理解する事でそれぞれの生徒をやる気にさせる方法が分かると思います。やる気を起こさせる事ができれば、彼らの学業に対しての心構えも変わってきます。テストで良い点数を取れる生徒になる事は簡単ですが、本当に必要なのは学ぶ事に対しての意欲があることなのです。十代の若者達は、もともとこういった意欲を持っている訳ではありません。意欲を育ててあげないといけないのです。指導を受ける生徒は、それをきっかけに意欲的に取り組む事を強いられます。そこから自分の今日のある事を見つけ、自己抑制を学び、それを生活全般に活かしていくのです。

[質問8]
 入学してくる生徒は将来のエリートであることは間違いないのですが、彼らはいつの段階から自分が将来の社会のリーダーでありエリートになる資質を持っていると認識するのでしょうか。

[回答8]
 本校では、寮生活を通してリーダーシップ性を学ぶ機会が沢山あります。そこで生徒達はリーダーシップ性を高めていきます。全生徒にリーダーになる事を経験して欲しいので、できる限り色んな場面でリーダーになる機会を与えています。ですので、生徒達は卒業するまでにリーダーになるために必要な事を自然に経験を通して学びます。
 リーダーシップ性とは何か、ということについても生徒と話し合います。例えば、寮をまとめるHouse counselやStudent governmentやSchool prefectなどがあります。それぞれの役割は違いますが、、最高学年にだけでも20種類のリーダーの役割があります。ほぼ全生徒がリーダーになるチャンスがあるのです。彼らが大学や社会に出た時、自然とリーダーになると思われます。さらに、学校外でも様々なプログラムに参加し、そこでもリーダーを経験するように進めていきます。

[質問9]
 アメリカのボーディングスクールとイギリスのパブリックスクールを比べてみるとどのような違いがあるのでしょうか。

[回答9]
 イギリスのパブリックスクールはアメリカに比べ、より形式的であると思います。アメリカでは、生徒と講師の関係にしても、もっと形式張らないようにしていると思います。
 さらにはイギリスはアメリカより身分に対するこだわりが強いように思います。それに対しアメリカでは、社会的、経済的、そして民族的にも多様な生徒を集めるようにしています。そういう意味では、アメリカのボーディングスクールには、本当の意味での『社会』が学校内で形成されていると思います。
 経済的な余裕がないけれども、将来の成功を目指して頑張っている生徒にもチャンスを与えたいと思っているのがアメリカのボーディングスクールなのです。

寮の部屋(男子)
寮の部屋(女子)


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