音の匂い

音楽と匂いが一致してしまうことがある。

この瞬間、この場所で聴くためだけにできた音楽なのではないか、と思わせる(当然それは勘違いなのだけれど)ような音楽がある。

その音楽を聴くと匂いとともに情景が思い浮かぶ。

それは長いこと様々な場所や様々なタイミングで聴き続けて得られる恍惚でもある。

僕にとってそれはSebastian Zangar/Dont Cryである。

2月の雪が降り積もった朝、僕はこの曲を聴きながら出勤する。

きっと仕事は忙しい。

少しだけ靴下に沁みた水分を親指で感じながら、積もった雪をザクザクと小気味よく踏み分ける。

積もった雪に朝日が反射する。いつもはうるさい朝の騒音も今日は控えめだ。

ベース音もビートもない静かな電子音が耳の中で振動する。

その時、「この瞬間、この場所で聴くための音楽」だったことに気が付く。

もう少しだけ頑張れそうな自分を見つけて前を向く。

あの情景とあの匂いを感じたくて、雪が降った朝はこの曲を聴きたくなる。

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