2020年面白かった本や漫画

2020年も終わりかかっているので振り返り。なるべく新刊。

本の内容を紹介するのはかなり勇気がいることのように思えるけれども頑張ります。

上半期はビジネス書などの意識高い本、上半期はアカデミックな本+漫画をたくさん読みました。今まで本をあまり読んでこなかったのでたぶん人生で一番多く読んだ1年かもしれない。

ビジネス書は本棚に入れておくのが恥ずかしいのでkindleで読むというライフハックを得ました。抽象度を上げていくとビジネス書はだいたい書いてあることが全部同じということがわかったのでもう読まなそう。何というか「浅さ」みたいなのがはっきりと見えてしまった。それはそれで悲しかったりする。

2021年は政治哲学、思弁的実在論、社会学の専門書まで手をつけられたらいいなと思っています。

さて、いきましょう。

①『Sketchy』1~3巻 マキヒロチ

いきなり漫画ですいません。

『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』『いつかティファニーで朝食を』のマキヒロチさんの新連載。ガールズスケーターの物語。

8年くらい前からスケボーをやりたかったんですが今年遂に重い腰を上げることができた理由の一つがこの漫画。もう一つが映画『mid80'S』です。

かなり精緻に取材をされたんだろうなと思う箇所がたくさんあり(東京ムラサキパークの正確な描写、スケートを始めて指紋認証がされなくなったエピソードなど)、とても面白い。実際にムラサキパークの超初心者講座に行ってみたのですが、漫画で描かれている教え方と一言一句レベルで同じでスケボー入門書としても素晴らしい役割を担っていると感じました。

一方で女性の生きづらさや孤独感も描かれていて胸にくるものがある。

これからの展開もとても気になります。

②『サンセットパーク』 ポール・オースター

アメリカ現代小説の有名人、オースターの新刊。何だかんだオースターファンなので新作は文庫じゃなくてハードカバー、かつ初版で買うことを心がけています。家族揃ってオースターが好きなので実家に『シティオブグラス』の異なる訳が2冊、自分の家に柴田訳が1冊、『最後の物たちの国で』が2冊あったり、わけがわからなくなっています。

安定の柴田元幸訳。柴田さんの訳者あとがきはいつもシンプルで潔くて好きです。

ちなみに小説音痴なので登場人物をメモしながら読まないとストーリーが追えなくなる歳になりました。『サンセットパーク』も例外なく登場人物と簡単な説明をメモしながら読みました。

③『ポップミュージックを語る10の視点』

アルテスパブリッシングの2020年新刊。自分の周りでは結構話題になりました。

音楽学などの研究者やミュージシャンが代わる代わる講義をしていくスタイル。特に大和田俊之さん、冨田ラボさん、増田聡さん、輪島祐介先生の章はとても刺激的で面白かった。

特に特に富田ラボさんの章は分析的に聴くということをほとんどしてこなかった自分にとって興奮でした。興奮のあまり富田ラボ好きの友人に連絡してめんどくさがられました。確実に自分の中で新しい音楽の聴き方が身体に刻み込まれたような感覚がありました。

④『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 ブレディみかこ

名前はよく聞いていたけれども食指が動かなかったシリーズ。イギリスがいかに階級社会であるかが読み取れる。多様性がテーマになっているけれども多様であることの正の側面と負の側面、またその難しさが軽い筆致で描かれている。

が、実は背景知識が足りないのか理解できない部分が所々ありました。

⑤『パチンコ』 ミン・ジン・リー

韓国生まれアメリカ育ちの著者が英語で書いた本の日本語訳。

韓国と日本が舞台の在日コリアン3世代史。この本を紹介してくれた文芸界隈の友人は韓国版「おしん」と言っていたけれども、個人的には韓国版『百年の孤独』だなあと思いました。

上下巻で600頁は超えそうだけれども面白くて3日かからず読めてしまいました。色々なテーマが切り取れそうだけれども、ソンジャに対するハンスの愛情は本物だったのかは誰かと話し込みたいところ。

読み通すと誰かと語りたくなる不思議な本。

⑥『三美スーパースターズ 最後のファンクラブ』 パク・ミンギュ

『82年生まれ、キムジヨン』から韓国文学ブームが始まったと思っているんですが、その波に乗ったろ!の精神で読んだ本。何というか、今の自分の状況と見比べて、読むべき時に読むべくして読んだ本という感じ。読んで救われた。

負け続けることの美しさが情けなさなしに見えた気がします。

梨泰院クラス、愛の不時着も観たんですが、韓国の文学やドラマって戦争が「遠い時代」ではなく、つい最近のこととして描かれてるのが特徴的ですよね。朝鮮戦争があったから当たり前っちゃ当たり前なんですが、独特な「痛み」が描写されているような気がします。

⑦『明け方の若者たち』 カツセマサヒコ

幻冬舎の本は買わないと決めているんですが買ったあとに幻冬舎と気がつきました。「良いものは良い」と言いたいところですが、資本主義の中のイデオロギーの問題なので買って後悔。今後は買わないように気をつけます。

若かりし頃に誰にでもあったであろう(ないほうが幸せ)、人を愛することの苦しみ。「わかるよ〜わかるよ〜」を連呼しながら読みました。

⑧『断片的なものの社会学』 岸政彦

社会学者である岸さんのエッセイ。何度でも読み返したい。アカデミックな要素もあったりなかったり(どっちだ)で、肩肘張らずに軽い気持ちで読めます。

⑨『音楽のまわり』 寺尾紗穂編著

SSWであり著作も多い寺尾紗穂さんの自主制作の本。ずっと欲しいなと思っていたんですが本屋さんには流通しておらず、寺尾紗穂さんのライブ会場で購入しました。サインもしてもらいました。

伊賀航(冬にわかれて)、植野隆司(テニスコーツ)、あだち麗三郎(冬にわかれて)、ユザーン、折坂悠太、知久寿焼(たま)、エマーソン北村(JAGATARA,MUTE BEAT)、マヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN)、浜田真理子という錚々たるミュージシャンによるエッセイ集。

各章の終わりに寺尾さんの短い文章があってこれまた良い。

特にユザーンさんは文章が上手でかつfunnyな面白さ、マヒトゥ・ザ・ピーポーさんは詩的な文章で魅力的。音楽ができて文章も書けるという才能の豊かさに激しく嫉妬しました。

⑩『服従の心理』 スタンレー・ミルグラム

会社組織の違和感を言語化したくて読んだ本。

ミルグラム実験から得られるのは「悪の凡庸さ」(アーレント)を補完するものだったこと。1963年の研究とはいえ、企業文化や組織について考える時には現在もなお有効であると思います。本当に日本の「伝統的な」企業文化はほぼ終わってると思う。

⑪『表現のエチカ』 桂英史

専門的であるものの比較的わかりやすかった。ただしテーマ部分の核心は読み逃しました。芸術分野について明るくないんですがシチュアシオニストなど知らなかった運動について知ることができた。

⑫『勉強の哲学』 千葉雅也

ずっと気になっていてやっと手に取った本。読書は出会いだと思います。

勉強することの意味をフランス現代思想を交えながら問い直す本。「ボケ」と「ツッコミ」から勉強を解釈するのはとても興味深く、勉強が「ツッコミ」止まりしていた自分にとって「ボケ」という視点はとても救われました。

具体的な勉強の方法論を記述してあり、実用的でもある。何よりフランス現代思想を専門的にとてもわかりやすく書いてある。千葉さんの文章力は卓越していると思いました。「専門的に」「わかりやすく」って本当に難しいことだと思うのですが難なくやってのけている感じがして千葉さんすごい(語彙力)

⑬現代思想2019年6月号特集加速主義

⑭『ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』 木澤佐登志

⑮『ブルシットジョブ クソどうでもいい仕事の理論』 デヴィッド・グレーバー

読了した日にグレーバーの訃報。アナーキスト人類学者としてこれからという時に本当に悔やまれます。

⑯『具体と抽象』 細谷功

専門書または準専門書とも言えないので一般書、とりわけビジネス書という括りでいいと思うんですがビジネス書の中では唯一面白いと素直に思えた本。

僕はかなり思考が抽象的なんですが、そのことが具体というツールを持ってして相対化された。世界の認識が変わる、そんな本。読書は自己変容のための道具なんだなと実感しました。

⑰『世界文学の21世紀』 都甲幸治

早稲田大学文学部で教える都甲幸治さんの本。意外にも(?)ele-king booksの新刊。

欧米に留まらない国々の文学を紹介してくれる。様々な分野の著名人との対談も収録されているのですが、寺尾紗穂さんとの対談で「孤独ではなく孤立」という話には不覚にも泣きました。また、教育の難しさについても触れている箇所があり、教育に携わる人にとっても何かしら印象に残る本だと思います。

在学中に都甲さんの授業があったことは記憶しているんですが履修していれば良かったと後悔。「都甲先生…勉強がしたいです…」

⑱『モテないけど生きています 苦悩する男たちの当事者研究 』 ぼくらの非モテ研究会

近年はフェミニズムだけでなく男性学も流行していますがまさに男性の生きづらさを描いた一般書寄りの専門書。「非モテ」という男性の生きづらさ、モテないなら死んだほうがマシだという切迫感が伝わってきます。

そしてここが大事なことですが、非モテのつらさを当事者研究を通じて自己理解を深めていくと、幼少期の虐待の記憶、学生時代にスクールカースト底辺で生きていた経験などが土台になっていることを明らかにするという箇所は非常に衝撃的でした。

まだまだ挙げてない本があるような気がするけれども長くなりすぎるので一旦終わり!こうやって整理すると思いの外、本読んでるなーという感想。月ごとにnoteの記事として整理した方がいいかもしれない。

文章を書くのが苦手なんですがここまでで約4,000字。学生時代に2,000字のレポートが書けずに単位を落としまくった日々はなんだったんだ。

ここまで書いて、自分は何かから救われたくて読書をしているんだなと思いました。その「何か」は今は見えてこなくてもいいと思っています。

2020年に買ったけれども読めなかった本も整理して記事にしよう。

※まとめました。


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