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今週の日記|噛め!噛め!

3月25日 世界で一番しあわせな食堂

渋谷でフィンランド映画『世界で一番しあわせな食堂』を観る。

舞台は、北極圏のちいさな村の食堂。そこをひとりで切り盛りする女主人と、「恩人」を訪ねて中国からはるばるやって来た料理人の父子を中心に、地元の「ちょっと癖のある」人びととの交流を描いたミカ・カウリスマキ監督の最新作である。

じつは、Moiで運営しているnoteサークルでは、いま「3月の深堀りフィンランド」としてこの映画を鑑賞した感想をシェアする企画を開催中。気づけば公開から1ヶ月あまり、言い出しっぺにもかかわらずすっかり出遅れてしまった。

それはそうとして、『世界で一番しあわせな食堂』という邦題はいかがなものか?まあ、たしかに、原題(『料理人チェン』)のままでは120%集客が期待できないのはわかる。でも、『かもめ食堂』☓「幸福度ランキング4年連続世界第1位の国」みたいな連想がまっさきに思い浮かぶタイトルはあまりに安易で、戦わずして負けにいってる感じがする。

そんなわけで、最初からあまり期待せずに観たのだが、ストーリー的には『世界で一番しあわせな食堂』という邦題もかならずしもお門違いというわけではなく、地味ながらもじわじわと幸福感に満たされるなかなかの佳作だった。いや、だからこそ、二番煎じ感が漂うこの邦題でかなり損をしているように思うのだ。

で、映画の中身だが、主人公はさておき、この映画で注目したいのは地元の爺さんを演じるふたりの役者。ひとりは、かつてミカ監督の作品で自由すぎる父親を演じたこともあるヴェサ=マッティ・ロイリ(爺A)。そしてもうひとりは、ミカ監督の実弟アキ・カウリスマキ監督がやはりレストランを舞台にした『浮き雲』で主役を演じたカリ・ヴァーナネン(爺B)である。

マルチな才能の持ち主として知られる「爺A」ヴェサ=マッティはミュージシャンとしても有名で、ぼくが彼の存在をはじめて知ったのも1960年代?にリリースしたこのアルバムでだった。この作品でも枯れた歌声を披露している。もしかしたら、映画の中でちらっと触れられるヘンテコな彫刻も彼の作品だったりするのだろうか。

だが、なんといっても「爺B」を演じるカリ・ヴァーナネンがすばらしい。いきなり「ああ、めんどくさいのが来ちゃったよ〜」と思わせる登場の仕方にはじまり、不器用ながらつねに主人公らを見守り背中を押すその姿は、「熊」のようなそのルックスもあいまってときに神々しくさえある。フィンランドで、「熊」は神聖な生きものとされているのだ。

この爺Bのセリフで個人的に気に入ったものを挙げると、食堂の客らにむかって言う「噛め!噛め!」という言葉。それは、「よく噛んで食べろよ!」といういかりや長介的なフレーズであるとともに、「もっとゆっくり人生を咀嚼しろよ」と諭す人生の先輩から主人公へのエールにも聞こえジワッとこみ上げるものがある。

ぼくらはフィンランドに対して、スローな国というイメージを勝手につけて捉えがちだが、この映画に登場するフィンランドの人たちは、むしろ「中国料理」を通じてゆっくり味わって生きることの醍醐味を学んでいるように感じられ、そんなギャップもまた面白く、その意味で自分の物の見方をかんがえさせられる作品でもあった。

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岩間 洋介|moicafe.com

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Kiitos!!!
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日本で初めてのフィンランドに特化したポータルサイトを2021年春に公開。また、CSRとして北欧流居場所づくりの試み「喫茶ひとりじかん」をMUJIの協力の下開催しています。2002年から2019年まで東京(荻窪→吉祥寺)にて北欧カフェ「moi(モイ)」を経営していました。